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マッサたち、星の下で眠る

 それぞれの荷物をかついだマッサたちが、お城の外に出たとき、ちょうど、時刻は真昼だった。

 お城の前の広場には、旅立つマッサたちを見送ろうと、大勢の人たちが集まっている。

 でも、奇妙なことに、あたりは、ものすごく静かだった。

 マッサたちが到着したときの、お祭りのような大騒ぎとは、正反対の雰囲気だ。


「王子さま、お気をつけて。」


「どうか、御無事でお戻りください!」


「大魔王を倒して、この国に平和を……」


「旅の成功をお祈りしています。がんばってください。」


 マッサたちが大通りを進んでいくと、集まった人たちは、ささやくような小声で、口々にマッサたちを応援してくれた。


「みな、大きな音を出したり、むやみに騒いだりして、今がおまえたちの出発のときだということが都の外にばれないように、気をつかっているのじゃ。」


 マッサたちといっしょに歩いているおばあちゃんが、都の人たちと同じように小さな声で言った。


「大魔王のスパイが、どこからどのように見張っておるか、分からぬからな。

 まあ、この都から見わたすことができるかぎりの草原は、わしらが押さえておるから、おそらく、草原を歩いているあいだに襲われるということは、ないじゃろう。

 しかし、ひとたび、この都が見えなくなれば、そこから先はもう、わしらの守りは及ばぬ。」


 とうとう、一行は都の門に着いた。

 都の人々に囲まれながら、おばあちゃんは、マッサと向き合って立ち、マッサのことをじっと見つめていたかと思うと、急に一歩近づいて、マッサを、ぎゅうっと抱きしめた。


「マッサファール……予言された王子、そして、わしの大切な宝物。ようやく、わしのところに戻ってきてくれたと思ったら、また、行ってしまう……

 いや、いや、愚痴はやめよう。本当のことを言えば、さびしくてたまらぬが、これも、さだめじゃ。わしは、おまえが必ず帰ってくると、信じて待っておるよ。」


「うん。」


 マッサは、鼻の奥がつうんとなって、もう少しで泣きそうだったので、短く、早口に言った。


「ぼく、約束する。絶対、帰ってくるよ。」


「うむ。」


 おばあちゃんが、マッサを抱きしめていた腕をほどく。

 離れる前に、おばあちゃんは、ぽんぽんと、マッサの胸を二回たたいた。

 マッサだけは、それがどういう意味なのか、分かった。

 おばあちゃんからの贈り物、金色の葉っぱ――

 マッサのお母さんが好きだったという、あの美しい木の葉っぱが、そこにある胸ポケットの中にしまってあるのだ。


 ゴオォォォン……と、重い音を立てて、都の門が開く。

 門から、外に踏み出していきながら、マッサは、心の中でもう一度、


(ぼく、絶対に、帰ってくるよ!)


 と、約束した。


 門が、ゆっくりと閉まっていく。

 黙ったままで手を振り続けているおばあちゃんや、都の人たちの姿が、だんだん細くなって、見えなくなる。

 やがて、ゴオォォォォン……と重い音を立てて、《魔女たちの都》の門は、完全に閉まった。


「……よし。」


 ぐすっと、さりげなく目と鼻をこすって、マッサは、できるだけ元気な声で言った。


「みんな、出発しよう!」


『ぼく、しゅっぱつする!』


 ブルーが言って、勢いよく、マッサのリュックサックの上に飛び乗った。

 完全に、ここがブルーの定位置になっている。


「ええ!」


「おう!」


「はい!」


 と、ガーベラ隊長とディールとタータさんが言い、フレイオは、黙ってうなずいた。

 

 こうして、マッサと、五人の仲間たちの旅が始まった。

 その日は、とにかく、日が暮れるまで、丘をのぼったり、おりたりしながら、えんえんと草原を歩き続けた。

 振り返って見ると、そのたびに《魔女たちの都》が遠くなっていくのが分かった。

 最初のうちは、壁の上に立っている見張り役の魔法使いたちが手を振ってくれているのが見えていたけど、だんだん遠ざかるにつれて、やがて、その姿も分からなくなった。


 歩いて歩いて、足が棒みたいになってきたころ、日が暮れてきて、真っ赤な夕焼けになった。


『マッサ、みて、あれ!』


 ブルーが叫んで、ちっちゃい手で指さしたほうを見ると、《魔女たちの都》の真っ白な壁が、夕日を受けて、宝石みたいに輝いていた。


 あそこに、おばあちゃんがいて、ぼくの帰りを待ってくれているんだ。

 そう思うと、また、鼻の奥がつうんとしてきた。

 そして、おばあちゃんのことを考えていたら、ふと、おじいちゃんのことも思い出した。

 おじいちゃんとけんかした日から、いったい、何日たったんだろう。

 もう、何年もおじいちゃんに会っていないような気さえした。

 おじいちゃん、元気にしているのかな……?

 そう考えていたら、ますます、泣きそうになってきたけど、


「おいっ!」


 と、急に、ディールに怒鳴られて、びっくりして飛び上がったひょうしに、泣きたいような気持ちは、どこかに飛んでいってしまった。


「マッサ、何、ぼうっとしてんだ。寝る場所を作るのを手伝えよ!」


「あっ……ごめん、ごめん!」


 そこは、小さな泉のそばで、草原のうちでも、けっこう背の高い草が生えているところだった。

 ディールたちは、その茂みの中のほうに入って、草をふんづけて倒し、平らな場所を作っていた。

 しげっている草の高さは、マッサの胸くらいの高さがあるから、中に入って寝そべれば、外から姿が見えなくなる。

 もしも、敵が近づいてきても、見つかりにくいというわけだ。


 マッサも、ディールたちを手伝って、草を倒し、みんなが寝る場所を作った。

 寝床が完成すると、そこに、みんなで輪になって座り、タータさんが用意してくれた、パンにチーズをはさんでジャムを塗った夕食を食べた。

 ブルーは、パンにつけるジャムとチーズの代わりに、りんごを一切れもらって、


『すくない! おいしい!』


 と、文句を言ったり喜んだりしながら、むしゃむしゃ食べていた。


「本当は、焚火をして、スープでも作りたいところですけどね。ここは、まわりが草だらけですから、火事になってはいけません。今日は、やめておきましょう。」


 と、タータさんが言った。


「スープ作りより、もっと火事になりそうなやつが、他にいるけどな。」


 と、ディールが言って、隊長が、


「こらっ。」


 と、たしなめた。

 ディールの声がたまたま聞こえなかったのか、聞こえているけど、無視しているのか、フレイオは、持ってきた小さなお皿に、香り付きの油を垂らして、魔法の火をつけ、長いスプーンで美味しそうにすくって食べている。


 やがて食事も終わり、日が沈んでくると、フレイオは黒いフードを深くかぶり直して、マントにくるまり、きらきら光る体を完全に隠した。

 みんなも、それぞれのマントにくるまって、荷物を枕に、体を寄せ合い、草原の上に寝転んだ。


「私が、最初の見張りに立とう。次はおまえだぞ。起こすから、ちゃんと起きろよ。」


「へーい。」


 ガーベラ隊長の声に、ディールが低く答えるのが聞こえた。

 マッサは、屋根のない草原に寝転がって眠るなんて初めてだったから、ちゃんと寝られるかどうか心配だったけど、ここまでずっと荷物を担いで歩いてきたから、体は、ものすごく疲れていたらしい。

 満天の星が、なんてきれいなんだろう、と思った次の瞬間には、マッサは、もう、ぐっすりと眠りこんでいた。


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