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王子と、五人の仲間

 食事がすむと、マッサと五人の仲間たちは、女王であるおばあちゃんに呼ばれて、立派な会議室のような場所に集まった。

 丸い部屋の真ん中に、黒い木でできた、どっしりとした丸いテーブルがある。

 ちゃんと椅子は用意されていたけれど、おばあちゃんは、座らなかった。

 マッサたちも、なんとなく立ったまま、テーブルのまわりに集まった。


「よいかな。」


 おばあちゃんが、重々しく言って、テーブルの上で、すうっと片手を動かした。

 フレイオ以外の全員が、あっと目を見開いた。

 黒い木のテーブルの表面に、金色の線が浮かびあがってきたからだ。

 金色の線は、テーブルの片隅からはじまって、四方にするするとのび、最後には、一枚の大きな地図のようになった。


「みな、この地図を見なさい。これから、おまえたちが行くことになる道について、わしが知っているかぎりのことを教えておこう。」


 おばあちゃんは、そう言いながら、ちょうど自分のすぐそばにある、大きな金色の二重丸をさわった。


「ここが、わしらが今おる《魔女たちの都》じゃ。おまえたちは、ここから、ずうっと北の方角を目指して進むことになる。」


 おばあちゃんは、二重丸の上に置いた指先を、テーブルの反対側のほうへ向けて、少しずつ動かしていった。


「《魔女たちの都》を出てしばらくのあいだは、いくつもの丘のある草原が続く。この都に入る前に、おまえたちも見たはずの、あの草原じゃ。」


「そうだったね。」


「ああ、確かに。」


 マッサと隊長がそう言って、みんなも、大きくうなずく。


「……で、その向こうに描いてある、いかにもやばそうなギザギザは、いったい何なんだよ……」


 ディールが、眉毛をぎゅっと寄せながら言った。

 ディールの言う通り、草原の向こうに、とげの壁みたいなものが、びっしり描き込まれている。


「それは、険しい山々の連なる山脈じゃ。」


「げっ。」


 ディールは、隠そうともせずに、嫌そうな顔をした。


「じゃあ、山登りをしなくちゃならねえってわけか。めんどくせえな……この山脈を避けて、こう、ぐるっと大きく、横を、回りこんでいくわけにはいかねえんですかい?」


「何を言っておるのじゃ。この地図の上でこそ、小さく見えるかもしれんが、この山脈は、おそろしく巨大で、横に長い。ぐるっと大きく回りこむ、などということをしていたら、何年も余計に時間がかかる、とんでもない遠回りになってしまうぞ。」


「何年もっ!? そりゃあ、無理だな……」


「その通りじゃ。ついでに言うと、この山脈には、名前がついておってな。《ふたつ頭のヘビ》山脈という。」


「まさか、ふたつ頭のある、ヘビの化け物が住んでるの!?」


 マッサは、ぎょっとして叫んだ。

 でも、おばあちゃんは、首を横に振った。


「そういうことではない。《ふたつ頭のヘビ》とは、その山脈のかたちを表している名前なのじゃ。よく見てみなさい。」


 言われて、よく見てみると、なるほど、その山脈は、アルファベットのYの字をふたつ、おしりどうしを長く伸ばして、くっつけたみたいな形をしている。

 上から見ると、確かに、頭が二つあるヘビみたいだ。


「あー、良かった! ぼく、そんな化け物が出てきたら、どうしようかと思っちゃった。」


 マッサは笑顔で言ったけど、おばあちゃんは、難しい顔をしている。


「……えっ? どうしたの、おばあちゃん?」


「いや……確かに、ふたつ頭のヘビのような化け物は、おらん。しかし、この山脈には、大魔王の手下が住みついておる可能性がある。」


「ええっ!?」


「十年前の戦争のときには、この山脈で、激しい戦いがあった。そのときの生き残りが、まだ、ひそんでおるかもしれん。この山脈には、たくさんの谷や、洞窟がある。そういうところに、敵が隠れておるかもしれんからな。油断してはいかんぞ。」


「そんなあ……」


 マッサが不安になっていると、


「大丈夫ですよ。」


 フレイオが、自信満々な様子で言った。


「何しろ、この私が御一緒するのですからね。大魔王の手下の十や二十、いや、百や二百だって、私の炎の魔法で、真っ黒焦げにしてやりますよ。」


「ああ、うん……」


「俺たちだって、戦うからな!」


 大きな声で、ディールが言った。


「安心しろって、マッサ。何が出て来たって、俺たちが、槍で、ぐさーっと突き刺してやる。」


「ああ、うん……」


 マッサは、あいまいな笑顔で、うなずいた。

 実は、フレイオとディールのけんかが起きないかどうかが、大魔王の手下と同じくらい大きな心配の原因なんだけど、一応、それは黙っておいた。


「さあ、話を続けるとしよう。《ふたつ頭のヘビ》山脈を越えて、さらに北へと進むと、《死の谷》と呼ばれる深い谷がある。」


「《死の谷》!? それって、近づいたら、死んじゃう谷ってこと!?」


『ブルルルルッ! こわい!』


 マッサとブルーが、思わず叫んだ。

 あまりにも不吉で、不気味すぎる名前だ。


「ううむ……どういう意味で《死の谷》なのか、それは、わしにも、よく分からん。何しろ、《ふたつ頭のヘビ》山脈よりも北には、わしらは、めったに行かないのじゃ。この情報は、古い言い伝えや、旅人から聞いたうわさに頼っておる。」


「うわあ。何だか、すっごーく、たよりない話ですねえ!」


 タータさんが、みんなも思っていたけど口には出さなかったことを、にこにこしながら、大きな声で言った。


「む、むむむ。……まあ、確かに、その通りじゃ。しかし、たよりない情報でも、ないよりは、ましじゃろうが。」


「うん、そうだね。先を続けてよ、おばあちゃん。」


 マッサが言うと、おばあちゃんは、ごほん、と咳ばらいをした。


「うむ、そうじゃな。……まあ、とにかく、《死の谷》を越えるための方法が、何か存在することだけは、間違いがない。十年前の戦争のとき、大魔王の軍勢は、《死の谷》を越えて、こちら側にまで攻めてきたのじゃからな。あちらから来ることができたのじゃから、こちらから行くこともできるはずじゃ。」


 仲間たちは、顔を見合わせて、確かに、とうなずき合った。


「そして、《死の谷》を越え、さらに北へ、北へと進むと――」


 おばあちゃんの指が、地図の上をすうっと動いていき、波のマークが描かれたところで、ぴたっと止まった。


「ここで、海に出る。この海は《まどいの海》と呼ばれておる。」


まどい・・・って?」


「混乱するとか、迷うとか……どうすればいいか分からなくなる、という意味ですね。」


 マッサの質問に、ガーベラ隊長が答えてくれた。

《死の谷》ほどじゃないけど、これも、いやな名前だ。


「そして……この海を、船に乗って、北へ北へと進んでいった先に、大魔王の住む島がある。」


 おばあちゃんの指先が、波の模様の真ん中に描かれた、四角いマークをとんとんと叩いた。


「マッサファールよ。おまえは、この島にたどり着き、大魔王と対決しなくてはならんのじゃ。」


 おばあちゃんの言葉に、マッサは返事もせず、うなずきもせずに、じっと大魔王の島のマークを見つめていた。

 とんでもなく長い旅、とんでもなく難しそうな旅だ。

 途中で、どんな敵が出てくるかわからない。

 どんな戦いが起こるかわからない。

 こんなとんでもない旅が、本当に、成功するんだろうか――?


『えい!』


 急に、ブルーがぴょんと飛んで、テーブルの地図の上に上がった。


「あっ、ちょっと、だめだよ、ブルー!」


 マッサが、止めようとしたけど、


『えい、えい! えいえいえい!』


 ブルーは、大魔王の島のマークのところまで、たたたっと走っていくと、その上でぴょんぴょんジャンプして、島のマークをふんづけた。

 それだけじゃなくて、どしんどしん! と、おしりアタックまでした。


『だいまおう、やっつける! ぼく、だいまおうやっつける! マッサといっしょに!』


「……お、おうっ! そうだ。よく言ったぜ!」


 マッサと同じで、さすがに深刻な顔になっていたディールも、ブルーの様子を見て、笑顔を取り戻した。


「もじゃもじゃの言うとおりだ。大魔王だか何だか知らねえが、そんなもん、俺たちが力を合わせれば、ひとひねりだっつうの!」


『もじゃもじゃじゃない! ブループルルプシュプルー!』


「……だから、なんか長くなってねえか、名前がっ!?」


「王子。」


 ガーベラ隊長も、力強く言った。


「行く手に、どのような困難が待ち受けているにせよ、我ら全員、最後まで、王子とともに戦います!」


「うん……ありがとう、ガーベラ隊長。ありがとう、ブルー、ディールさん!」


「ああ、何だか、わくわくしてきましたねえ!」


 タータさんだけは、みんなが深刻な顔をしていたときから、ずっと、嬉しそうににこにこしている。


「どんな冒険が待っているんでしょう? どんな敵が出てくるんでしょう? 《死の谷》や《惑いの海》って、どんなところなんでしょう? これまで見たこともない場所や、ものを、この目で見られるなんて! ああ、どきどき、わくわくしますねえ!」


「えーっ……まあ……うん、まあ、そうかもしれないですね。」


 タータさんの、のんびりしているというか、落ち着いているというか、とにかく、全然緊張していないところに、マッサは感心半分、だいじょうぶかなという気持ち半分で、うなずいた。

 フレイオは、といえば、こちらも落ち着き払ったようすで、うんうん、とうなずいている。


《王子と七人の仲間》のうち、王子と、五人の仲間。

 このメンバーで、いよいよ、次の旅に出発だ!



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