マッサ、すきまをこえる
何とかして、すきまの向こう側へ行く方法を考えていたマッサは、
「そうだ!」
急に、いいことを思いついた。
マッサは、いそいで、さっきの宝箱のところに戻って、もう一度、ぎいいいいーっとふたをあけた。
そして、さっき見つけた、りっぱな「さや」に入った剣を、取り出した。
剣は、金属でできているから、すごく重い。
でも、マッサはその剣をがんばってすきまのところまで持ってくると、手を切らないように気をつけながら、「さや」から剣を抜いた。
ものすごく、よく切れそうな刃が、銀色に光っている。
その剣で、マッサは、
「うおおおおおおーっ!」
と叫びながら、壁を、ガスガスガス! と、たたき壊しはじめた!
すきまが小さすぎて通れないなら、そのすきまを、自分が通り抜けられるくらい、大きくしちゃおう、という作戦だ。
家の壁をぶっ壊したなんて、おじいちゃんに知られたら、もう、めっちゃくっちゃに怒られるに決まってる。
でも、今、目の前に、ふしぎな世界が待っているのに、ちょっと通れないからって、あきらめるなんてことが、できるだろうか?
マッサには、そんなことはできなかった。
「うおおおおおおお~!」
ガスガスガス! ゴスゴスゴス! バリバリバリ! ベキベキベキ!
「はあ、はあ、はあ……」
ものすごい気合いで、壁をぶっ壊して、なんとか、通り抜けられそうなくらいの大きさまで、すきまを広げたマッサは、剣を「さや」に戻して、床に置いた。
まずは、リュックサックを、自分よりも先に、すきまの向こうへ押しこんだ。
そして、自分も、何度か、途中でひっかかったり、動けなくなったり、木のとげがささったり、苦労しながら、何とか、かんとか、すきまをくぐり抜けていった。
「よいしょ、よいしょ、……いてっ。……よいしょ、よいしょ、よいしょ!」
すきまから、やっと、出た瞬間、マッサは、体を、ふわっと、ふしぎな感覚がつつむのを感じた。
はっきりとは、説明できないけど、まわりの空気が、さっきまでとは違う。
ちがう場所に来たんだ、ということが、はっきり分かった。
マッサは、立ち上がった。
マッサの足の下で、草と、落ち葉が、カサカサと音をたてた。
そして、まわりには、広い広い森のなかのけしきが広がっていた。
ふと、自分が通ってきたすきまのほうを、ふりかえってみて、マッサは、おどろいた。
あっちから見ると、壁のあいだに開いているように見えた「すきま」は、こっちから見ると、大きな木の、太いみきに、ぽっかりあいた、穴のようになっていた。
その穴を、のぞきこんでみると、さっきまで、マッサがいた、マッサの家の「あかずの間」が見えた。
「ぼく、ほんとに、ここを通って、あっちの部屋から、こっちの森に来たんだ!」
自分の力で、すきまを広げて、ふしぎな世界に入ることができた。
本当に、魔法が起こったんだ!
マッサは、体がぶるぶるっとふるえてくるほど、わくわくした。
さあ、こっちの世界は、いったい、どんなところなんだろう。
騎士ブラックみたいな、つよい騎士がいたり、魔法使いがいたり、するんだろうか?
そういう人たちと、話ができたり、友達になれたら、どんなに楽しいだろう!
「あっ、そうだ。」
まず最初に、友達になりたい相手のことを、マッサは思い出した。
きょろきょろ、まわりを見回して探すと、ちょっとはなれた木のかげから、あの、不思議な白い生き物が、半分だけ顔を出して、こっちをのぞいているのが見えた。
「おーい。」
マッサは、こわがらせないように、やさしく、よびかけた。
「こっちに、おいで!」
すると……
その白い生き物は、ちょろちょろちょろっと走って、なんと、マッサの、すぐ目の前まで来てくれた!
まるで、マッサの言葉が分かっているみたいだ。
マッサはうれしくて、うれしくて、叫び出したい気持ちになったけど、相手をおどろかしてはいけないと思って、がまんした。
「かしこいなあ。……それにしても、見たことのない生き物だけど、なんていう種類なのかな?」
すると……
『ぼくだよ!』
と、急に、小さな、高い声が答えた。
「うわあっ!?」
マッサは、とびあがってびっくりした。
今、しゃべったのは、いったいだれだ!?
あわてて、まわりを見回したけど、マッサと、白い生き物のほかには、なんにも、生き物の姿は見えなかった。
と、いうことは……?