マッサと「おはなしのノート」
マッサは、小学生の男の子だ。
顔は、ふつう。背の高さも、ふつう。テストの点数も、まあ、ふつうの男の子だ。
でも、マッサには、他の友達とはぜんぜんちがうところが、ひとつだけあった。
それは「マッサは、おはなしを書くことが大好き」ってことだ。
きっと、みんなにも、大好きなことが、いくつかあるだろう。
おやつを食べること。ゲームをすること。のんびりごろごろすること。他にもいろいろ。
でも、マッサは、おやつよりも、ゲームよりも、ごろごろすることよりも、他のどんなことよりも……おはなしを書くことのほうが、ずっとずっと好きだった。
学校から帰ってきたら、宿題をするよりも何よりもさいしょに、つくえの前にすわって「おはなしのノート」をひらく。
「おはなしのノート」は、マッサのおじいちゃんが、マッサの誕生日に買ってくれたノートだ。
「これで、しっかり勉強するように」
と、おじいちゃんは言っていたけど、マッサは、そのノートに、こっそり、おはなしを書いて、ためている。
今、マッサが書いているのは、めちゃくちゃ強い騎士ブラックが、いろんな国を旅して、悪者をやっつけるおはなしだ。
騎士ブラックは、剣の腕前が達人レベルで、家でも、壁でも、お城でも、本気を出せば、一撃で破壊できる。
でも、弱点もあって、玉ねぎと、勉強がすごく苦手だ。
ごはんに玉ねぎが入っていたり、急に算数のテストをされたりすると、騎士ブラックは、熱を出してぶっ倒れてしまう。
マッサが毎日書いている、このおはなしは、マッサの学校の友達のあいだで大人気だ。
学校に行くと、すぐに、クラスの友達が、マッサのまわりに集まってくる。
「おはよう、マッサ! 新しいおはなし、できた?」
「騎士ブラックと、最強の魔法使いニャンダースの対決はどうなった!」
「ブラックの新技の《スーパー回転ドリルドリルアタック》は、完成したのか!?」
友達みんなで、ノートのまわりに集まって、マッサのあたらしいおはなしを読む。
外のほうに集まった人には、ノートの字が見えないから、いちばん本読みがじょうずなミレイちゃんが、はきはきした声で読み上げてくれる。
騎士ブラックが大活躍したり、魔法の玉ねぎ爆弾でやられたりすると、みんなはお腹がよじれるくらい笑い転げる。
「ああ、今日も、マッサのおはなし、おもしろかった!」
「新技のスーパー回転ドリルドリルアタックがすごかった。今度はどんな技が出るのか、楽しみだなあ!」
「明日も、また読ませてね!」
みんなが口々にそう言うと、マッサは、
「うん、まかせて!」
と答える。
マッサは毎日、学校で勉強して、お昼を食べて、家に帰ったら、すぐにおはなしの続きを書く。
――こんなふうに聞くと、みんなは「マッサはすごく楽しい毎日をおくっているんだな」と思うだろう。
友達にも大人気で、なんにも嫌なことがない、最高の毎日をおくっているんだな、って。
でも、じつは、そういうわけじゃなかった。
マッサには、ひとつ、大きななやみがある。
それが、おじいちゃんだった。