白極堂と種族差別
そんなこんなで、初陣終了。
初陣で緊急並を相手取るとは、ハルマにもつくづく運がない。
まぁ、これは小説だから、ある意味必然的な流れなのだが。
「あー、傘投げちまった……。拾いに行くのめんどくさいな……でも今みたいな巨大な敵を相手取るときはこの攻撃案外優秀だな」
傘投げとでも命名するか、とハルマ。
やめろ、どこのオレンジニートだ。そのうちワープしだすんじゃないだろうな。
「まぁでも、勝てたしいいんじゃない?」
これで懐が潤うねぇ、とモミジ。
おまえは強欲以外の感情を持ち合わせていないのか。なんでここで金の話が真っ先に出てくる。
「いやー、謝礼とスライムの雫でがっぽりだね」
と、暴力女ツバキが言う。
え、スライムってそんな高いの?
「まー。こんだけありゃな。モノより数で稼ぐってか」
活躍の場がなかった(自称)最強の鎌を持て余すイノが言う。
そういえば、それもどこかで見たことあるな。死鎌って。それ構えて飛びかかるなよ、絶対。
ハルマたちは家に戻る。
「おー!これスライム核じゃん!?」
「スライム核?」
「まー、人間でいうところの心臓。雫に混ざってたみたいだね」
この発見を手柄顔に、モミジが言う。
「で、その核がどうしたって?俺には色が違うようにしか見えねぇが」
「そうだよねー。でも価値が全然違うんだ。雲泥の差!ってレベルだよ」
「そんな違うのか。で、それはどんな用途に使われるんだ?」
「人工臓器作るの」
「地味なスライムにしてはすげぇ事するなおい!?」
仕事しすぎか。スライムの爪の垢を煎じて戦闘ゲーの当たり判定に飲ませたい。
「とにかく、これは超高価なんだよ!」
「人工臓器言われりゃ嫌でもわかる……」
「おーい、ハルマくーん」
いきなり、ツバキが声を上げる。
ハルマが向かうと、ツバキが鎧を前に途方に暮れていた。
「どした?」
「スライムがこびりついた」
「俺じゃどうにもならねぇよ!!」
「傘でどうにかしてくれるかと」
「装備屋行け!!」
「じゃあ、ハルマくんも来なよ」
「なんで!?」
「装備心もとなくない?」
「攻撃防御カンスト」
「分かった一人で行って来れない!!あそこの人なんか嫌なの!!絶対!!だから来て!!ねぇお願いだから!!」
「あーわーったわーった!分かったから引っ張るな!!」
こうして、ハルマは休む間もなく家を出た。
ニートとは思えない状況だった。
「はいどーもー白極堂……て、なんだ、アンタっすか」
店先に立つ男の子が、気だるげにツバキを見る。
黒い艶やかな前髪は目元まで伸び、跳ねまくった後ろ髪も、襟足に入り込んでいる。
紺色のパーカーを着込み、灰色のスウェットパンツを履いている。
ついさっき起きて、そのまま店に出てきたような、そんな格好だった。
「失礼っすね。自分はもう30分も前に起きてるっすよ」
「ついさっきじゃねぇか!!」
これにはハルマも突っ込まずにいられない。
ハルマとて、常人の時間の感覚はある。
「じゃあなんだ、お前が苦手っつったの、こいつか?」
ハルマはツバキを振り向きながら尋ねる。
だが、
「どんだけ礼儀知らないんすかアンタ。初対面の人に向かって、そりゃないでしょーよ」
と、ツバキが口を開く前に、男の子が答える。
「ま、ツバキっちが言ってんのは家の姉のことだと思うっすよ」
「ちょちょ、その呼び方やめてって言ったじゃん!」
「訂正。自分もそうかもしれないっす」
ツバキの抗議を、男の子は無表情で受け流す。ドライな子だった。
「あ、キョクヤ、お客さん?」
「んあ?んー、ツバキっちきてるぜー」
「ちょっと、呼ばないでよ!!」
「いやー、呼んだ方がいっつも面白いじゃないっすか」
「ちょっとぉ!!」
と、ツバキが叫んだ瞬間、店の奥から、ものすごい速さで、女の子が出てきた。
「おー、ツバキちゃんじゃん!元気してる?」
「今なくなった」
「お前も大概だな……」
露骨にげっそりとした表情になったツバキに、ハルマは突っ込む。
「あ、見ない顔だね、新顔さん?」
「まぁな。俺はハルマ。よろしくぅ」
「よろしく。私はビャクヤ。で、こっちが弟のキョクヤ」
そう言って、男の子──キョクヤは頭を下げる。
ビャクヤと名乗った女の子は、キョクヤとは対照的に、ボブカットの白髪だった。服も白を基調としたTシャツとハーフパンツで、活発な印象を受ける。
と、ここでハルマはあることに気づいた。
「猫耳?」
「ふぇ?あ!帽子かぶり忘れた!!」
「はぁ、姉さん……」
そう言ってキョクヤは額に手を当てる。
言うと余計バレると思ったのだろう。悪い事をした。
キョクヤはところどころ髪がハネていて分かりづらかったが、ある程度櫛で髪をとかしてきているビャクヤの頭を見れば、それは一目瞭然だった。
「うぅ……」
露骨に元気を失くしたビャクヤ。
「……ど、どした?急に」
「この辺りだと、昔っから人外への差別が大きいんすよ。知らないんすか?」
と、キョクヤが口を開く。
「え?あぁ、この辺の出身じゃないんすか。じゃあ聞いといてソンはないっすから、聞いといてくださいよ」
──ここは元々、人間、獣人、動物……諸々が、まるで絵本の世界のように、仲良く、お互いがお互いを助け合い、共存していた。
力のない人間にできない力仕事を獣人が、手先の不器用な獣人にできない細かい仕事を人間が。
それが、当たり前だった。
はずだった。
しかし、人間はあるとき、知ってしまう。
いや、共存しているのだから『それ』に気づくのは元々、時間の問題だった。
──もし、獣人が反乱を起こしたら?──
一応、ここは国として、成立時から今まで、人間が治めている。
もしそんな人間の政治に不満を持った獣人が反乱を起こしたら?
人間はなす術なくやられてしまう。力がないから。
手先が不器用?殴るのに指先なんて使うか?喰うのに、指先なんて使うか?
『マナーに則った、食事じゃああるまいし。』
だから、人間は、迫害を始めた。勝る、『数』と、『権力』という武力で。
力仕事を請け負う奴隷にされる。観賞用のペットにされる。
それまで人間とおなじ権利を持った獣人は、一瞬にして、動物と同列、いや、それ以下のものになった。
力と知能を持ったものが上に立つとは限らない。
今は幾分良くなったが、差別文化は、未だ根強く、残っているという──
「んだ、その胸くそ悪い話」
「胸くそ悪くて悪かったっすね」
大真面目な顔で、キョクヤは言う。
「だけど、これは事実っす。おとぎ話でも、嫌がらせの作り話でもない、紛れもなくどうしようもない事実なんすよ」
そういうと、キョクヤはビャクヤに目を向ける。
「それともうひとつ。これもまだ自分が生まれる前の話なんすけどね。姉さんの親友が、惨殺されるのを、目撃しちまったんすよ。姉さんが。そりゃあ恐怖も植え付けられるっすよ」
「……」
それを聞いて、ハルマは黙ってビャクヤに歩み寄った。
ビャクヤはわかりやすく肩を震わせ、怯えた表情を浮かべる。
最初店の奥にいたのはそれが原因だろうか。
ハルマは手を伸ばし、ビャクヤの頭を撫でた。
「……」
「迫害なんて知ったこっちゃねーよ。俺たちは客として、ここに来たんだからな」
ビャクヤの頭からそっと手を離すと、ハルマは立ち上がった。
「わりぃけど、こいつの鎧にスライムこびりついちまって。取れるか?」
「はーぁ、ほんっと礼儀知らずっすね。誰に言ってんすか」
「お前ら以外の誰だよ」
ハルマは苦笑する。
「ていうか、なんで獣人が迫害されるんだ?こんな可愛いのにさ」
……ただのケモっ娘萌えだった。台無しにしやがって。