薬学師ツバキさん
「銃ってのはどういう風に出来てんだろうなぁ」
そう呟いたのは、皆さんおなじみクソニートことハルマである。
「んぁ、たぶん『そっち』とは違うぜ?」
「何がだよ」
「あぁ、こっちは魔力使って弾撃つからな」
「ぜんっぜん構造違ぇわ」
「だろ?」
ハルマとイノはそんな雑談に花を咲かせる。
モミジとツバキはと言うと……。
当然のごとく、じゃれあっていた。
いや、モミジがツバキに襲われていた。いつも通り。
「ねー、いいじゃん小さいんだしー。揉ませてよー」
「んな! 人が気にしてることを! てか小さいって思ってるなら揉んだところでって話でしょ!」
ツバキのあまりにも単刀直入なセクハラ発言に、モミジは顔を赤くしながら反論する。もはやいつも通りの光景である。
「あー、疲れた……水でも飲もう」
不意にツバキはモミジから手を離し、台所へと歩いてゆく。
「モミジちゃんも飲むー?」
「あ、おねがーい」
さっきまでの敵対心はどこへ消えてしまったのだろう。
「はいこれ」
「……水汲むだけにしては少し間がなかった?」
「2杯だからねー。私の分とモミジちゃんの分」
「ふーん」
ここで納得したのが間違いだという事に、モミジはこれから、気づくことがあるのだろうか。
少しして。
「……すっごい眠い」
「んー? どしたの?」
「いや、なんかわかんないけど……すっごい眠い……」
「へー、そうなんだー」
ドライを演じ、棒読みで水を飲み干すツバキ。
いや、その紙コップどけろよ。口角どんだけ上がってんだよ。犯人てめーだろうが。
案の定、流しの上には白い粉が少し漏れた銀色の包みがあった。
言わないよ? それがなんなのかは言わないよ?
これからの展開で察して?
「やーばい、目開けてられない……」
「ん、じゃあ私が部屋まで運んでってあげようか?」
「あー……お願い……」
ツバキは眠たげに目をこするモミジを、お姫様抱っこの要領で抱き上げる。
……嫌な予感しかしねぇ。
案の定と言うべきか、ツバキは眠り込んだモミジを『ツバキの』部屋の椅子に座らせ、部屋の戸の鍵をかけた。
そして、もはやお決まり事の流れと言うべきか、モミジの手を、椅子の背もたれの後ろに回し、後ろ手に組ませ、実に鮮やかな手際でモミジの体を椅子に縛り付けていく。そのロープどっから用意した。そしてその緊縛術いつどこで練習した。
ロープは中々頑丈なようで、さっきから脳筋ツバキさんが引っ張りまくっているが、ちぎれる気配はない。
もしかして白極堂か? 犯人は。あそこ色んな道具とかも置いてなかったっけ。
待て、睡眠薬はどっから調達したんだ。
「ふー……調合勉強しといて良かったよ……」
モミジを縛り終え、一仕事終えたというようにツバキは額の汗を拭いながら呟く。まさかの自作でした。
「あ、あとこれだ」
そう言ってツバキは懐から怪しげな、小さい円筒状の箱を取り出し、蓋を開ける。
クリームだった。
保湿クリーム的なアレ。
まぁこのタイミングで出すのだから、保湿クリームなわけがあるまい。それはどこの誰もがお察しであろう。
「いやー、まさかこれが出来るとは」
ツバキはクリームをモミジの身体に塗り込んでゆく。
モミジは相変わらず眠り込んでいるのだが、ツバキがクリームを塗る度に、小さな反応を繰り返す。
なんかヤバそうだから、こちらもあえてなんて言う薬なのかは表記しな……。
「まさか媚薬ができるとは」
ツバキてめぇ。
マジでぶっ飛ばすぞ。