はじめてのいせかいてんせい
はい、という訳で、とりあえず投稿です。
異世界紀行も終わってるわけではないんですが……。
温かい目で見てくれたら幸いです。
「なるほど。ここ、どこだ?」
春馬が目覚めたのは、見たことのない場所だった。
まず、日本にこんな場所があるとは思えない……。
かと言って、ここが外国、というわけでもなさそうだ。
道行く人々が口にしているのは明らかに──
「日本語、だな……」
片言の日本語なら外国人でも喋れる人はいるだろうが、子供の頃から喋っていたような流暢な日本語だ。全員が全員。
「落ち着け、落ち着け?ハルマ。とりあえず、今の状況を整理しよう」
今、手には黒い折り畳み傘と、レジ袋に入ったマンガ数冊、青いリュックの中には買いだめした大量のコーラが入っている。
そして、大企業のご子息というわけでもない、超絶引きこもりニートハルマを誘拐するバカは、広い世界のどこにもいないだろう。
何より、身体的拘束が成されていない。
「──巷で話題の、『異世界転生』ってか……?」
異世界転生という単語自体は色々な小説、マンガ、アニメ……。挙げ出したらきりが無い程口にされている。
だが、その『異世界転生』がまさか自分の身に起ころうとは……。
「だとすると、心許なさすぎて死ぬわ」
折り畳み傘で、どうやって生き延びろと?
2Lコーラ数本で、どうやって生き延びろと?
神は俺に、死んだ直後にもう一度死ねと言いたいのか?
とりあえず、突っ立っていても始まらない。
という謎思考に駆り立てられたハルマは、アテもなく歩き出した。
──いきなり誰かにぶつかった。
「……」
相手はまさかの、巨大な体格を誇る、見るからに不良の度を超えた小悪党だった。
……。詰んだ。
当然、ハルマは路地裏に引きずられ、因縁をつけられ始めた。
「お前うちの兄貴にぶつかって謝罪もなしかよ!!」
謝罪しようが何しようが、無意味だろうが。
「なんとか言えやヒモ!」
なんで俺が無職だと?見た目か?
「もういい、死ね」
ハルマがぶつかった張本人、『兄貴』が短刀を取り出した。
うん。死んだな、これ。
ただ、人間、こんな状況でも咄嗟の行動はとるようで、ハルマは折り畳み傘を短刀を受け止めるように繰り出した。無意味に。
『兄貴』はそれを気にすることなく斬りかかってきた。当然、斬れると判断したのだろう。
ハルマは諦め、目を閉じた──が、いつまでも痛みが来ない。スパッと行かれ、痛みを感じる間も無く死んだのだろうか。
その刹那、背後で軽い金属音が聞こえた。
「「「は?」」」
その場にいた全員(とは言ってもハルマ含め5人程だが)が揃って声を上げた。もちろんハルマも。
なぜなら、地面に転がっていたのは、『兄貴』の短刀の刃の部分だったからだ。
ハルマは慌てて手に握った折り畳み傘を見る。折り畳み傘は、無傷だった。
「な、何しやがった、このヘタレが!!」
子分の1人がハルマに殴りかかる。
「うおぅ!?」
ハルマはぎりぎりで回避すると、カウンターで頭を殴りつけた。
──ゴッ……。
鈍い音とともに、子分は頭から血を噴き出し、崩れ落ちた。
「……どうなってやがんだ、これ……」
ハルマは改めて折り畳み傘を見る。
ハルマの手にあるのは、血がこびりついている事を除けば、普通の折り畳み傘だった。
はい、折り畳み傘で血が出るってヤバいですね。
カーボン製らしいです。高そう。