階段を登っていく
一段ずつ階段を登っていく。 水平線から、少しだけ顔をみせた太陽に照らされながら、老いた体をゆっくり動かしていく。
「喉が渇くわね」
独りで言うと
「コーヒーならあるぞ」
って、返ってきて欲しかった。
「もう夏かしら」
また独りで言うと
「海、行きたいですね」
って、言って欲しかった。
「クーラーの効いたゲームセンターにでも、いきたいわね」
独りで言って
「ついでに勝負するか? どうせ俺が勝つけどな」
返ってこない。
「少し、脚が痛いわね」
呟いて
「こんなところだけど、ゆっくり休んでいいからね。 天ちゃん」
聞こえなくて。
「私も、もう歳かしら」
言って
「そんなことないよ~。 天ちゃんはまだ若いって~」
悲しくなって。 でももう聞こえない。 だって言う人が、いないんだもの。
お墓までは、まだまだ遠い。 いや違う。 遠いと感じているだけだ。 きっと、実際はもっと近いんだろう。
登りきった頃には、もう太陽が丸く見えるようになっていた。 目の前にあるのは沢山のお墓。 ほとんど、というか全て知っているお墓。
みんなみんな死んでいった。
私のように、歳を取ることもなく、死んでいった。
私を残して、死んでいった。
夢を叶えられずに、死んでいった。
私も早く逝きたかった。
でも無理だった。
なんでだろう、分からない。
「ばーか、リア充めー、どうせあの世でイチャイチャしてんでしょ、ちくしょうー」
つい口走ってしまった。 ババアが使う言葉じゃないわね。
鬱憤ばらしもすんだところで、一つ目のお墓に歩み寄った。 少し金色に染めた髪、私に憧れを抱いてくれた、最初の人。 素直だったあいつが、そこにいるような気がした。
そのお墓に入っているのは──
藤堂倉間