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98 不落の不夜城

「ルクレシェア様! クロユリ様! 遊びに来たネー!」

「あらジュディさん」

「よく来たな。元気してたか?」


 多少距離を開けて、女性陣は女性陣でワイワイと和んでいる。


「それで、あっちのミスターズは何をしているネ?」

「シッ。見ちゃダメよジュディさん。目が汚れるわよ」

「本当にあのバカ兄は、あの涸れ果てた状態のまま本国に送還できんかな?」


 やっぱり女性たちからは軽蔑的な視線を受けるのだった。

 今回こんなのばっかりだ!

 こんな状態から一刻も早く脱却するために、この騒動を鎮静化させなくては。


「しかし頼みにしていたレーザがこのザマじゃなあ……!」

「シンマ独特の遊郭システムを甘く見るからだ。ヤツらはな、色に惑った客から金を搾り取ることを百年間研究し続けてきたんだぞ」


 タチカゼの含蓄ある言葉が重かった。


「っていうかタチカゼ……。キミやっぱり遊郭について詳しすぎるんじゃ……!?」

「だから兄や父が遊郭通い甚だしい影響で覚えているだけだッ!!」


 そういうことにしておこう。


「遊郭本体に上がる前に引手茶屋で遊女の都合を聞くのも、そこでできるだけ飲み食いさせて金を出させようという狙いからだ。そこでの金払いがケチで、茶しか飲まないぐらいだと吝嗇の野暮だと烙印を押される。遊郭で野暮と見なされたらもう終わりなのだ!」

「そういうものなの?」

「遊郭において、野暮ではなく粋であることが上客としての絶対条件だ! 粋な客は金払いを渋らない! 豪勢に金使いしてこそ粋なのだ! そんな粋な客だからこそ太夫のような最高級遊女も喜んで体を開く!!」


 何とも面倒くさい段取りのように感じるが、そんな面倒くささを乗り越えてこそ目的を達した時の感動も一際大きいというわけか。

 ……うん。

 やっぱり玄人童貞の僕には面倒だとしか思えない。


「他にも野暮か粋かを判断される基準は細かく多岐にわたっている。身だしなみとか、言葉遣いとか、店を訪ねる間隔とか。当然豪勢に金を使えば店からは喜ばれるが、使いすぎても成金だと見下される。そうしてすべての仕来りを守り、娼婦から粋だと認められて、初めて一夜を共にすることができるのだ!」


 ……。

 ……何と言うか。


「それっておかしくない? まるで客の方が店から試されているみたいじゃないか?」


 普通逆じゃないの?


「それがある程度高級な商売の付き物なのだそうだ。客は高い金を払っているからこそ、その世界で通ぶりたい。ただ金持ちだからではなく、風流を解する教養人としてもてはやされたい!」


 そんな無意識の望みを叶えるために、遊郭という狭い世界に様々な仕来りができたというのか?

 それを多く知るから知識があり、それをソツなく守るから教養があると?


「それら教養を身に着けた先に、太夫という最高のご褒美が待っているからこそ男たちは勇んで遊郭の作法を学ぶ。そして通人だと自慢し、客同士での競争心を煽る。遊郭の作法はますます浸透していき、仕舞いには一大文化として形成されていったわけだ」

「そうだぞユキムラ」


 訳知り顔でレーザが話に加わって来た。


「遊郭というのはな、シンマにおける文化の発信源と言っていい場所なのだ。余はここ数日の遊郭通いで、それを鮮明に見せつけられた。シンマの遊郭こそ世界でもっとも文化的な場所だ!」


 洗脳されている……!

 レーザ洗脳されている!?


「そう、これが遊郭の、その裏にいる火領モウリ家の狙いなのだ」


 タチカゼは戦慄を込めて言った。


「まずは女の色香で惑わせて、次に遊郭の複雑な礼儀作法で思考を支配する。火領の花柳界は、この二段行程で客を制御し、自分の思う通りに動かす」

「はッ……!? まさかそれは……!?」


 前にタチカゼも言ってたではないか。

 今やシンマ王国の要職にある者のほとんどには、火領出身の遊女の愛人が付いていると。


「これが火領のやり方……! 女と文化の二段構えで行われる侵略過程……! それを今、このレーザも受けているのだ!!」


 タチカゼからの指摘を受けて、改めてレーザを見る。

 もはや変わり果てたようにやつれて、カエンと彼女の遊郭を賛美するレーザを……。


「……なあユキムラ」

「はい?」

「先日レディ・カエンから短歌というものを渡されて、それに対して返歌しないといけないんだが、何か気の利いた文句はないかな? 上手い歌詞を作らないと野暮と思われてしまうんだ」

「しっかりしろぉーーーーーッッ!?」


 ダメだ!

 レーザはもうかなりダメな段階になってしまっている!!

 フェニーチェの頂点に立つ軍事の天才をここまで腑抜けにしてしまうなんて、火領の遊郭は何と恐ろしいんだ!?


「異国フェニーチェを代表するほどの傑物なら、あるいはカエンをも御せるかと思ったが……。やはりダメだったか」


 恐らく予想していたのだろうこの結果に、タチカゼは大きく嘆息した。


「こうなってはユキムラ。もはや一刻の猶予もならんぞ。やはり火領は、自分以外のすべての領に対して行っている遊女を利用した文化侵略を、この雷領に対しても行っているのだ!!」


 なんか凄い大ごとになって来た!?


「フェニーチェを代表するレーザがこんなザマになったのが、ヤツらにとっては手始めだ。ヤツら火領とモウリ家は、もしかしたら色で世界を支配するつもりなのかもしれない!!」

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ソードマスターは聖剣よりも手製の魔剣を使いたい
同作者の新作スタート! こちらもよければお楽しみにください!
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