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95 悪女には悪男を

「よにまかす?」


 コイツは何を言っているんだ?


「そのカレンと言うレディの扱い、余に一任してみないかと言っているのだ。どうせ彼女は童貞のお前たちでは到底手に負えん」


 さっきから童貞童貞と好き勝手……!?


「それに比べてこの余、レーザ=ボルジアは祖国フェニーチェではプレイボーイで鳴らしていた。法王の子息というブランドと余自身の巧みなトーク力で社交界を荒らし回り、妙齢の貴婦人たちを毎晩とっかえひっかえしていたものだ!」

「コイツ、ムカつくな……!」


 タチカゼの呟きに僕もまったく同感だった。


「そんな余であれば海千山千のレディとも互角に渡り合い、その意図するところを見抜くこともできよう。……おいタチカゼ!」

「はいッ!?」


 この流れ、すっかりレーザに主導権を握られていた。


「さっきの話は本当か?」

「さっきの話と言うと?」

「レディ・カエンが処女と言う話だ!!」


 何故かその言葉に、燃え上がるような執念を感じた。

 タチカゼは戸惑いつつ答える。


「まあ事実ではないか? 火領に設立された遊女学校では、特別な貴人へと献上するため閨房の術を極めた処女を養成する学科がある、というのは真実らしいし」

「それは素晴らしいな!」

「仮にもカエンはモウリの子だからな。普通の客を取らせるために、ではなく、いずれどこぞの名士君子の下へ送るための花嫁修業……、という名目なのだろう」


 花嫁修業のために、遊女修行?

 それは繋がるのかどうか……?


「太夫……、というのは遊郭において最上級の遊女に贈られる称号だが。そこまで登り詰めるためには、ただ床上手なだけではダメだ。それ以外にも多くの才覚と教養が求められる」

「おお!?」

「琴、鼓、三味線の鳴らし方や、茶道、書道、華道、歌、画。一通りの習い事を、それで食っていける程度の腕前まで極めねばならない。だけでなく知識も人並み以上であらねばならず、学問はもちろん全国津々浦々の風俗や風土、その時々の世間話にすら精通していなければならない」

「益々素晴らしい!」

「無論見てくれが麗しくなければ話にならず、努力だけでなく生まれの幸運まで加わらねば得られぬ地位だ。数百人がそれを望みながら、叶って太夫を名乗れるのはたった数名……」


 カエンは、その極めて狭き門を突破した女というわけか。


「無論ヤツ自身がモウリ家の者ということも無関係ではないだろうが、それだけで簡単に得られる安いシロモノでないというところが太夫の恐ろしいところだ」


 凄い、と素直に思うが。

 それにも増して僕が違和感なのは……。


「タチカゼ。お前なんでそこまで花柳界の事情について詳しいんだよ?」

「うぐッ!?」


 お前、表向きは硬派ぶっていながら、もしかしたら遊郭に興味津々……!?


「違う! それがしの生まれ育った風領は、火領の隣にあると何度も言っているではないか! 我が父や兄、それに風領の重臣どもも好んで隣領の遊郭に通い詰めるから、嫌でも話が耳に入ってくるだけだ!!」


 タチカゼのお父さんやお兄さんって、風領の領主と次期領主のことだろ?

 それが火領直営の遊郭に入り浸りって、経済的に乗っ取られてない?


 だが注意しないと、我が雷領も同じ末路に向かいかねないということか恐ろしい。


「とにかくレーザ殿、フェニーチェ人のアナタではわかりづらいかもしれないが、カエンと言うヤツは興味本位で手を出せば大やけどを負いかねない相手。軽率なマネは控えて……!」

「素晴らしいな! グレイトだな!!」


 唐突に興奮するレーザ!?

 なんかさっきから「素晴らしい」ばっかり繰り返して!?


「つまりレディ、カエンはシンマ王国の文化教養を網羅した究極の淑女と言うことだろう!? しかも処女! ここまで完璧な女性は、我がフェニーチェにもそうはいない!!」


 あの、レーザさん?


「童貞は見苦しいだけだが、処女は貴重だ!!」

「殺すぞ」

「殴るぞ」

「シンマ王国に滞在して早一ヶ月以上。そろそろロマンスの熱さを思い出したいと思っていたところだ。遠き異国の姫君の、エキゾチックな魅力に我が胸を蕩かせるのも悪くはあるまい!」


 なんか目的変わってきてませんか?

 その口振り、ただ単にカエン相手に恋の駆け引きを楽しみたいようにしか!?


「フッ……、ユキムラよ。英雄色を好むというだろう?」

「僕に同意を求められても」

「このレーザ=ボルジアもフェニーチェを代表する英雄である以上、この心はつねにいくさか恋のどちらかで燃え続けていなくてはならん。血が流れていない今は、慰み者にされた乙女の涙で我が渇きを潤さねばな!」

「コイツ、ロクでもないヤツだな」


 タチカゼがまた率直な感想を述べたが、僕もまったく同感だった。


「シンマの貴族階級にあるカエンこそ、余の暇潰しの相手にはちょうどいい。フェニーチェ仕込みの女誑しの術で、見事異国の姫を我が撃墜マークの一つに並べてやろうではないか。……そのついでに」


 レーザが僕の方を見る。


「彼女が知る限りの反フェニーチェ派の情報を引き出し、お前に流してやろう。頼りになる義弟への心ばかりのプレゼントだ」


 まあ、それは助かるけれども。


「レーザさん。さっきから女性に対して言っていることが酷くない?」


 誑しこむとか、撃墜マークとか。

 まるで女性をモノ扱いのように……?


「何を言う? 英雄にとって女とは片っ端からしゃぶって嬲り、飽きたら捨てるだけのものだろう」

「ええ……!?」

「英雄とは、非道をして許されるだけの華麗さを持つ者をいうのだ。女どもにとって、英雄に抱かれることこそ本望。その幸福を一人でも多くに与えてやるためにも、一度抱いた女は着古した肌着にように捨て去らねばな!」


 と勝手極まることを言う。


「レディ・カエンは、このシンマでもっとも魅力ある淑女の一人と見てよかろう。そんなシンマを代表する淑女を、フェニーチェ英雄たる余の肉奴隷にし、ナショナリズムを大いに満足させてから帰国するのも悪くあるまい!」


 という感じで、レーザはカエンという獲物を狙うオオカミの気分全開だった。

 同じ男としては吐き気をもよおす邪悪さを感じて仕方ないが、ふと疑問に思ったことがあるのですぐさまレーザに尋ねてみた。


「なあ、レーザよ」

「うむ?」

「そうは言うけど、もしルクレシェアがお前みたいな男の毒牙にかかったらどうするの?」


 念押しするがルクレシェアは、このレーザの実妹です。


「そんなクソ男ブチ殺すに決まっているだろう。当たり前じゃん」

「コイツ本当にろくでもないな!!」


 タチカゼの全力のツッコミに僕も同感だった。

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ソードマスターは聖剣よりも手製の魔剣を使いたい
同作者の新作スタート! こちらもよければお楽しみにください!
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