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90 腹を割って

 そんな感じで、我々は雷領に遊郭を建てることにしました。

 ただ、上層部の独断で決めるのも何なので、一度雷領全体の住民たちにできる限り集めて、総意を得てみることにした。


 前述のとおり今の雷領は住民の九割以上が男性のため、集まってくるのも自然と男ばかりで純然と暑苦しい。


 この一事を見ただけでも「早く何とかしないと」という気もちになって僕は壇上から語りかけた。


「えー、皆様お集まりいただきどうもありがとう。領主のヤマダ=ユキムラです」


 傍らにはタチカゼに付いてもらっている。


「一同、緊張ォォーーーーッッ!!」


 そのタチカゼの一喝で老いも若いも全員の男がビシッと直立した。

 ちなみに話し合う内容が内容だけにクロユリ姫、ルクレシェア、ジュディら女性陣には席を外してもらっている。


「皆さんに集まってもらった理由は他でもありません。このたび雷領に新設される施設について、皆さんの理解をしっかりと得ておきたかったからです」


 ざわざわざわ……、動揺の気配が伝わってくる。


「既に知っているかと思いますが、火領のモウリ家より提案があり、我が雷領に遊郭を建てることとなりました」


 ピシッッッ、動揺が緊張に変わった。


「火領には公営のシマバラ遊郭があり、火領領主のモウリ家はその方面のノウハウを多潤に持っています。彼らの助言に従い、適切に遊郭を運営することが、我が雷領の治安、風紀、潤いある生活を保つ上で重要であるとの結論に至りました」


 しかし、上だけですべてを決めることに、僕は気が進まなかった。


「そこで皆さんの意見をここで公聴していきたいと思っています。思うところのある者は、遠慮なく公言していただきたい。この雷領主ユキムラは、我が領民の考えをけっして無碍には致さぬゆえ」

「ならば! はばかりながら申し上げる!!」


 若さに任せた大声が張り上がった。


「こたびの決定! まことにけしからぬと存ずる! 風雷館門下生一同の意見であります!!」

「その理由は?」

「知れたこと! 男はみずからの進む道を一心不乱に駆け抜けるもの! 女ごときに現を抜かすなど士道不覚悟でしかありませぬ!」

「左様、色に惑わされ道を踏み外すなど武士にとって恥辱の極み! 女など男にとっては害でござる!」

「まして男を惑わせることしかせぬ遊女を雷領に置くなど! 正気の沙汰とは思えませぬ!」

「そうです! 我々は剣と魔法の道を究めるために雷領へやって来たのでござる! 女遊びのために来たのではござらん!」


 という感じで、シンマ武士たちの反応はけんもほろろといった感じだった。


 次にフェニーチェの方々の意見も聞いてみよう。

 主にルクレシェアの第一次交渉団メンバーに、あとからレーザが連れてきた研究スタッフも混じっていた。


「実に嘆かわしことデース! 魔法神は、仰られてイマス! 『汝、姦淫することなかれ』と!」


 え、そうなんです?


「そうデース! 淫情は、人間の正常な判断力を奪い去る悪しき心デス! デーモンによって誘発され、魔法神の解いた正しい教えから踏み外させるのデース!」

「それなのにフェニーチェ本国では、法王様を始めとして多くの聖職に就く者が姦淫の罪を犯してマース! これでは聖職者じゃなくて生殖者デース! HAHAHAHAHA!」

「我々は、そんなフェニーチェを脱出し、純粋な魔法神の教えを追求しようとシンマキングダムにやってきマシタ! そんな我々に、再び惑いを突きつけないでくだサーイ!!」


 フェニーチェ側の面々もまったく好意的じゃないな。

 領民たちからここまでの反発が出るなら、計画自体を考え直さねばなるまい。


「わかりました。では最後に多数決を取りたいと思います」

「「「「「「「「「「多数決?」」」」」」」」」」


 モウリ家の主導による遊郭建設に賛成する者は挙手してもらうのだ。

 挙手した者が、しなかった者より少ない場合、当然遊郭建設の話は白紙となるだろう。


「ただここで考えの違うものが浮き彫りになって、両者に溝ができる事態は避けたいと思います」

「?」

「皆さん目を瞑り、下を向いて、その状態で賛成の者は手を挙げてください。領主である僕だけが確認し、決を取りたいと思います。では……」


 僕の合図と共に、全員が速やかに目を瞑り顔を下に向けた。

 これで手を挙げたかどうかわかるのは、自分自身に対してだけだろう。

 それ以外は、誰が手を挙げ、また挙げなかったのかわからない。


「では、遊郭建設に賛成の者、速やかに挙手を」


 ……。

 …………。

 ………………。


 ……うん。


 満場一致で遊郭建設が決定した。


              *    *    *


 目を瞑って俯いていても自分自身が挙手したかどうかはわかるわけで。


「過半数をとれました(正確には過半数どころか満場一致だったけど)」という事実を告げられても自分自身に心当たりのある彼らは、それほどゴネもせず、決定を受け入れることになった。


 こうして全方位での了解もとれ、正式にカエン嬢へ提案受け入れを通達。

 ルクレシェア製城壁に囲まれた領都はまだまだ空き地が遊んでいたため、そちらに即座に遊郭を作り出すこととなった。

 資材まで火領のモウリ家もちで早急に工事が進められ、驚くほどの短期間で完成しましたよ。


 雷領初となる遊郭。

 名付けてマルヤマ遊郭が……。

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ソードマスターは聖剣よりも手製の魔剣を使いたい
同作者の新作スタート! こちらもよければお楽しみにください!
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