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87 商品拝見

「で、肝心なところだが」


 会談はまだ終わっていなかった。

 むしろこれからますます本番だ。


「アナタたち火領の人々は、我が雷領でどうやって儲けていくつもりですか?」


 雷領の発展に一枚噛ませてほしい。

 儲けさせてほしいというのが、今回お訪ねになったモウリ=カエン嬢のお望みだ。


 僕はそれを承諾した。

 では、これから話し合われるべきはその具体的な方策だ。


 儲けるというからには、そこで起きるのは商業的な金銭のやり取りだろう。

 何かを売って、お金をもらう。


 その点では我が雷領は実に優良な市場だ。

 何せ出来たばかりであれも足りない、これも足りない。

 あらゆる需要が高まっているというのに、これまた新興領地であるために供給ルートも確立されていない。

 つまり売り手がハッキリ決まっていないということだ。


 ここに一番最初の売り手が現れれば、買い手たちはそこへ目掛けてワッと押し寄せるだろう。

 ウハウハ大儲けと言うわけだ。


 火領のモウリ家はまさにそれを狙ってカエン嬢を派遣してきたのだろうが……。


「アナタたちはこの雷領で、一体何を売りさばくおつもりか?」


 火領は雷領に、一体何を売りつける?


「なあなあ、クロユリ?」

「何? ルクレシェア?」


 僕の傍らで女の子たちが可愛い。


「思うのだが、普通だったら相手が何の商売をしたいかハッキリしてから承諾するべきではないか?」

「そうねえ、交易を許すとしても、ちゃんと儲かるかどうかの確信が取れてから承諾すべきよねえ」

「ユキムラ殿は早まったのか?」

「早まったのかしらねえ?」


 うるさいな!

 仕方ないんだよ、この話には政治的な側面もあって、モウリ家及び火領を反フェニーチェ交流派に迎合さないためにも忖度する必要はあったの!


 それに、曲がりなりにもシンマ王国で百年続く名家モウリ家だぞ。

 その名だけでも信用あるブランドってヤツだ。

 きっと実りある商品を提供くださるに違いない!!


「……では、我が領の提供したい商品をお伝えするでありんす」


 お、来たな。

 カエン嬢のお言葉を謹んで拝聴しようではないか。


「女でありんす」


 ん?

 んん!?


「え? ちょっと待って今何と?」

「我が火領は、女を商品としてこちらさんに輸入したい、と申しているでありんす」


 女って……!?

 人間の女ってことだよね!?


「それって、まさか……!?」

「そう、売春でありんす」


 ちょっとぉぉーーーーーーーーーーーーーーーッッ!?


「いきなり何を言い出すんですか!? ふざけているんですか!?」

「ふざけてなどおりません。この雷領に、我がモウリ家が主導して遊郭を建てる許可を頂きとうござんす」


 遊郭!?


「さすれば雷領の一角は、常に華やかなる春の賑わいを保つところとなりんしょう。その役割を、私に与えていただきとうござんす」


 あるいは冗談かと思ったが、そうでもない。

 カエンの口調は静かであるが、まったく本気だ!


「ユキムラ、残念ながらそういうことだ」


 恋人ジュディから小突かれ終えたタチカゼが、脇腹押さえつつ戻って来た。


「シンマ王国内にある風林火山の四領。それぞれに特色があり、主要産業も各自違う。そこのカエンがいる火領がもっとも得意とする産業は……、ば、売春」


 生真面目なタチカゼが顔を赤らめつつ言った。


「事実、火領にて公営されるシマバラ遊郭は、シンマ王国にて最大の花街だ。規模、質ともにシンマ各地にある遊郭を遥かに引き離していて。男なら誰でも一度は踏み入ることを夢見るという……、らしい」

「…………ダーリン?」


 ジュディが!?

 日頃の快活な彼女がすっかり陰を潜めて、ヌッとタチカゼの隣に立った!?


「随分と詳しいネー……? もしかして、行ったことあるネー……?」

「そんなわけあるか! それがしが生まれた風領は火領の隣だから、嫌でも話が入ってくるというだけだッッ!?」


 後ろ暗いこともないのに必死に弁明しなければならないタチカゼ。

 男はつらいなあ……。


「しかし僕は全然知らなかったぞそんな話……!?」


 まあ、火領から遠く離れた王都生まれの僕。しかも年中貧乏な下級武士の息子として、そんな華やかな色町なんて完全な別世界だよなあ。


「そういえば……!」


 もう一人のシンマ出身者、クロユリ姫が語る。


「わたくし王族として、国内事情を学ぶのは当然の帝王学なんだけど。各領の文化特色の授業の際、風領、林領、山領と学んで何故か火領だけは『あとで勉強しましょうね』と言われてそのままだったわ……!」


 スルーされたわけか……!

 そんな、どうして赤ちゃんが生まれてくるのか上手く教えられない親みたいな……!?


「わかっていただけましたでありんしょうか?」


 この部屋で落ち着きを掃っているのは、唯一提案者のカエン嬢だけだった。


「我が火領にとって、遊女こそが最高の商品。どうかその商品を、この雷領にて大々的に売り出させておくんなまし」

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ソードマスターは聖剣よりも手製の魔剣を使いたい
同作者の新作スタート! こちらもよければお楽しみにください!
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