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82 逸り者再び

「いよいよ研究本格スタート! デース!!」


 と、シンマ王国ではありえないテンションの高さではしゃぎまわるのはジュディ=サイクロムという名前の女の子。

 これでもフェニーチェ法国が誇る若き天才研究者だ。


「……ていうか、お前も艦隊にくっ付いて来ていたんだな」


 とルクレシェアが、挨拶程度に対応してくれていた。


「ルクレシェア様! おひさしーネ! って言うかそれどころじゃないネ! よくもミーに爆弾運ばせたデース!?」

「何のことやらサッパリだな」


 彼女――、ジュディは今回のレーザ艦隊襲来に先んじて、一度このシンマへと来ていた過去がある。

 第一次交渉団として旅立ち、そして見事に客地にて立ち往生に陥った法王令嬢ルクレシェア救出のために、先んじて情報収集に派遣されたのがここにいるジュディだった。


「あの時は、現地で立ち往生と言ってもルクレシェア様元気そうだったし! むしろジェントルユキムラとイチャイチャラブラブして鬱陶しいぐらいだったデース!」

「お前の私見など聞いてないわ」

「だから、比較的深刻なことになっていなくて。報告も気楽だなーと思ってゴーホームしたデース。なのにルクレシェア様からのお手紙を法王様に渡して、読まれた途端……、法王様が爆ぜたデース!!」


 爆ぜた!?

 そういえば、ルクレシェアが自分とシンマ王国の状況を伝えるためにジュディに持たせた手紙には、私ことユキムラさんのこともしっかり明記されていて……。

 ルクレシェアは手紙に「ユキムラ殿に手籠めにされました」「ユキムラ殿の子どもを生みます」などとあることないこと書き綴っていやがった。

 本当に検閲しておかなかったことが今さらながらに悔やまれる。


 まあ、フェニーチェ法王は他ならぬルクレシェアのお父さんだし、娘にもしものことがあったと知ればキレるのも無理からぬことだが……。


「さらに僭主討伐からカムバックしてきたばかりのレーザ様にも誘爆して、ダブルボンバーだったネ!! お二人から問い詰められてミーはおしっこチビりそうになったデース!!」

「ジュディさん……! 女の子がそういうことを言っては……!!」


 クロユリ姫があわあわと諫めるも……。


「まあともかく! シンマよ、ミーは帰ってきたデース!! 今度こそ心置きなくシンマと『命剣』を研究しまくるネー!!」


 もう気持ちを切り替えて自分の欲望のために邁進していた。


「ジュディさんは本当に研究が大好きなのねえ」

「周囲の迷惑も目に入らんほどにな……」


 と二姫は呆れ顔。

 これからまさにシンマとフェニーチェの文明交流が始まる。研究好きのジュディにとってはまさに願ったり叶ったりの状況となるだろう。

 彼女にとっての我が世の春が、ここから始まるのだ。


「で、ダーリンはいずこネ?」

「「あ」」


 手で作った輪を望遠鏡みたいに目に前において、周囲を見回す仕草をジュディはした。


「あー、アイツは……!」


 ジュディがダーリンと呼称するのは、シンマが誇る名家、四天王家が一角、風のヤマウチ家の四男坊ヤマウチ=タチカゼのことだ。


 シンマ王国には、異国フェニーチェを夷狄と卑下し、先方との交流を堕落と断じる勢力がいる。

 タチカゼはかつてその勢力を代表して雷領に乗り込んできたのだが、その時期がちょうどジュディの来訪時期に重なっていた。


 それがどんな珍事を生み出したかは語るまい、というか……。

 語るのも気だるいというか……!


「タチカゼさんも御実家に帰ったっきり、何の音沙汰もないわよねえ……」


 クロユリ姫が心配そうに語るのへ……。


「ホワッツ!? ダーリンいないね!?」

「そりゃそうよ、タチカゼさんは元々フェニーチェとの交流に反対して乗り込んできたんだもの」


 志を変えるなら筋は通さないとな。


「現場を見たタチカゼさんと違って、ヤマウチ家そのものはまだまだガチの攘夷派だものねえ。バカ正直に変節を告白して、どんな処分を受けることになるやら……?」

「oh my god!! ダーリンが大ピンチネ! 今すぐレスキューに行かなければネー!!」

「ちょっと待たんかジュディ! お前が行ったらもっとややこしくなること請け合いだろう!?」

「そうよ! いまだにフェニーチェ人は雷領内しかシンマに滞在許可されていないのよ!?」


 今すぐにでも駆け出そうとするジュディを、クロユリ姫ルクレシェアが二人がかりで止める。

 にしてもジュディは、タチカゼのいる風領の場所もわからないのにどうして飛び出そうとするのか? この暴風娘。


「そんなこと言われても! ダーリンがいないと研究が進まないネ!! フェニーチェに行き帰りしている間にやりたい実験を五十は考えてたネーッ!!」

「お前はダーリン使って実験したいだけだったか!?」


 むしろタチカゼいなくて難を逃れられたんじゃね? と思ってしまう。

 そこへ……。


「心配無用ぉぉーーーーーッッ!!」


 突風のごとき声が響き渡った!?

 この聞き覚えのある声は……!?


「「「タチカゼ!?」」さんッ!?」

「ダーリン!? 生存していたネーッ!?」


 感極まってジュディがタチカゼに抱きつく。


「何故今計ったように出てきた!?」

「いや、それがしもたった今雷領に着いたばかりなのだ。奇遇というか、縁があるなジュディとは」

「これはもう運命のレッドワイヤーで繋がっていると言っても過言ではないネ!」


 興奮するジュディは押さえておいて……。


「で、またこっちに戻ってきてどうしたんだ? 実家へ報告に戻ったはずだろう?」

「そうだったな。ユキムラ……、先日のお前との勝負を経て、異国フェニーチェと関わることにも得るものはあると気づいた。そのことを余すことなく我が父に報告し、より慎重な検討を促してみた……、そしたら」


 そしたら?


「勘当された!」

「勘当!? 縁切られたってこと!?」


 いくらなんでも直截過ぎないか!?

 何を考えているんだヤマウチ家の御当主は!?


「ううむ……! 父上の言うところ、『疾きこと風の如し』がモットーのヤマウチ家において慎重さを促すなどけしからん! と言われて……!」

「怒るポイントそこなの!?」

「恥ずかしながら、それがしも所詮は名家の御曹司。家から放り出されてはどうしていいかもわからずにな。こちらを頼って訪ねたというわけだ……!」


 ええええ……!


「でも、タチカゼさんが御実家に帰ったのってもう何か月も前よね? 風領はフェニーチェ本国とも離れていないのから、勘当を言い渡されてから今までけっこう間があったんじゃないの?」


 その通り。

 ジュディがフェニーチェ本国に帰り、そこから怒り狂ったレーザが押し寄せてくるまでにかかった数ヶ月間。

 タチカゼは一体何故、それだけの時間を置いてここへ来たんだ。


「……それがな、雷領から風領に戻る間は、ヤマウチ家御用達の船を使ったからよかったが、勘当を言い渡されたからにはそれも使えなくなった」


 実質的に風領→雷領への移動手段を失って途方に暮れていたわけか。

 そこでタチカゼが取った手段は……?


「歩いて参った!!」


 えええぇぇーーーーーーーーッ!?

 風領からここまで!? 歩いてきたの!?


「そりゃ時間もかかるわけだ」

「と言うわけで雷領主ユキムラ殿。食客としてでもそれがしを雷領においてくださらんか!? 務めなら門番でも何でも果たすゆえ」

「はあ、まあそりゃいいけど……!?」


 そんな感じで、ジュディだけでなくタチカゼまで雷領に居つくことになった。

 僕らの住処が着々と賑やかになっていく。

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ソードマスターは聖剣よりも手製の魔剣を使いたい
同作者の新作スタート! こちらもよければお楽しみにください!
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