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80 王女の提案

 と、クロユリ姫が何やら提案しだした。

 今回は嵐のように襲来してきたレーザとのいさかいが主流だったため、シンマの代表であるクロユリ姫はけっこう蚊帳の外みたいな扱いだった。

 自然発言も少なかったが、フェニーチェ側がようやく腹の内を明かしてくれた以上、それに応えて何か言わねばならないのは僕たちシンマ側だ。


「まず、改めて言わせていただきますが……」


 クロユリ姫は、たしかに威儀を正して言う。


「わたくし当初、フェニーチェ法国が大嫌いでした」

「「うッ!?」」


 フェニーチェ側の兄妹、断言に身をすくませる。


「だってそうでしょう? いきなりヒトの国にズカズカ上がり込んできて、わたくしたちが一番大事にしている『命剣』を寄越せだなどと言ってくるのです。無礼、不遜。そうとしかわたくしの目には映りませんでした」

「それは……」


 弁解しようがないのか、ルクレシェアも何か言おうとして……、やめる。


「その挙句、王都を砲撃してくるわ、脅迫まがいのこともしてくるわ。その所業は許せる範囲を越えています。その認識は、わたくしだけでなくシンマ王国の多くの民が共有しているはずです」

「しかし……」


 レーザの方が反論しかけるのを、ルクレシェアが肩を掴んで抑えた。

 今は何も言ってはいけないと、彼女は感じているのだ。


「しかし」


 今度の「しかし」は、クロユリ姫の口から出た。


「しかし、わたくしは実際にフェニーチェの人と出会い、直に触れ合いました。そちらのルクレシェアと」

「……」

「そしてフェニーチェ人も、何ら変わりない同じ人間であるということを知りました。ルクレシェアは、わたくしと同じ悩みを抱え、同じ夢を持ち、同じ喜びを共有できる普通の女の子でした。わたくしにとってユキムラが大切な男性であるのと同じように……」


 断定して、言う。


「ルクレシェアはわたくしの大切なお友だちです」

「クロユリ……!」


 クロユリ姫とルクレシェア、無言で視線を交えると、両手を広げて互いに抱き合った。

 何この結びつき?


「わたくしとしては、お友だちのルクレシェアを助けてあげたいとは思います。しかし、個人の感情では動かないのが国です」

「うむ……」


 自身も軍事一面とは言え国家を預かる身のレーザは言い返せない。


「先ほど言ったように、シンマ国民のフェニーチェへの感情は最悪です。それを抑えて王家が勝手に援助を決めてしまえば、それはただの特権階級の横暴になってしまいます」

「では、どうすると……?」

「こういう時こそ頼るべき人がいます」


 ほう、それは?


「わたくしたちのユキムラです!」


 とクロユリ姫は真っ直ぐ僕の方を向いた。

 いや、ちょっと……。


「ダメダメダメですよ。いくらなんでも僕が何かすればそれだけで解決する問題じゃないですよ」


 僕のできることなんて、精々力づくで粉砕することぐらいだぞ?

 政治力とか人脈で言えば断然王女であらせられるクロユリ姫の方が上だ。

 にも拘らず彼女を差し置いて、僕?


「何を言っているのユキムラ。アナタにはわたくしにない、最高の切り札があるじゃない」

「切り札?」

「この雷領よ!」


 とクロユリ姫は両腕を広げて周囲を示して見せた。

 合体魔法を披露するために屋外におり、周りは建設中の屋敷がまばらにあるものの、開けている。


「この作りかけで、まだまだ開発の余地がある雷領。住民がほとんど入っていない。そんな未完成都市だからこそ、これからの方針でいくらでも好きなように仕立て上げることができるわ」

「それは……、まさか……!!」

「ユキムラやお父様は、この領をフェニーチェとの交渉窓口として利用したかったようだけど。ならばもう一歩先に進めてみない?」

「先に、というと」

「交渉窓口から、交流窓口へ」


 交渉から交流。

 その言葉に、僕もレーザもルクレシェアも顔を見合わせた。


「いきなり『命剣』を研究させろと言っても、シンマの国民も士族も許さないわ。だからもっと大らかに、国家全体を互いに教え学び合う場を、この雷領に作ってみては? と思うの」

「なるほど……、多くの交流と共に『命剣』の情報を得られれば、研究が進み代替魔力の問題も解決するかもしれない……!」


 シンマの情報が流れるのと同じようにフェニーチェの情報も入って来れば、シンマの発展にもつながるだろう。


「交流都市か……! いいかも知れないな」


 クロユリ姫の言う通り、雷領は出来たばかりで、どのように発展していくかはまだまだこれから。

 国民自体もいないと言っていいし、たとえ国民感情を逆なですることでも比較的容易に実行できる。


「それどころか、民のいない雷領に人を呼び込むいい口実にもなる」


 異国の文化や技術を学びたい者よ、雷領を目指せ、と。


「何だか夢が広がって来たわね! 交渉に決着をつけただけじゃ終わらないわ! 人も、国も!!」

「そうだな、終わることはないシンマとフェニーチェの絆そのものに我らの雷領はなるのだな!!」


 何だかとんでもない展開になって来た。

 ここに来てついに、あれやこれやの勢いで出来てしまった雷領と、その領主になってしまった僕に究極の命題がたったのだ。


 シンマとフェニーチェを繋ぐ交流都市。

 雷領を作り上げよと。


 今ここに、僕の二度目の人生を懸けた大方針が決まった。

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ソードマスターは聖剣よりも手製の魔剣を使いたい
同作者の新作スタート! こちらもよければお楽しみにください!
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