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70 兄妹再会

「ルクレシェア!」


 吹っ飛ばされたレーザお兄さんがもう復活した!


「元気だったかルクレシェア!? 遠い異国で難に会い、さぞや心細かったであろう! しかし心配はない、この兄がやって来たからには! さあ、共に父上の待つフェニーチェへ帰ろう!!」

「ショック・アタック!!」


 返答は衝撃波魔法だった。

 再び吹き飛ばされるお兄さん。


「このバカ兄! アナタは我の寄越した書状をちゃんと読まなかったのか!? 読んでないだろう! だからこんな大艦隊を引き連れてきたんだ!!」

「何を言う? 読んだとも! 読んだからこうして余みずから救出しに来たんだろうお前を! 父上もご了承のことだ。だからこそこの艦隊を余に添わせてくれたのだ。シンマの未開人どもが少しでも渋ろうものなら、力で粉砕するために!」


『いやもう仕方ねえっすよ……』と言わんばかりの脱力した雰囲気が後方の艦隊から漂ってきた。

 お疲れ様ですと言ってあげたかった。


「…………ルクレシェア。この異国でお前を襲った危難、兄は大いに察する。それだけで我がことのように胸が張り裂け苦しむ」


 あ。

 なんかお兄さん語り出した。


「しかし! 純潔など嫁入りのためには大した問題にはならない! なにせ我がボルジア家は今や法王家! その威勢と結びつきを得るためならば子持ちのバツイチとだって縁を持ちたがるのが世の常だ! ましてお前ほどの美女ならば、非処女であるぐらい大した瑕疵にはならない!!」

「…………」

「お前の傷ついた心を癒してくれる、相応の家格を持った男を、この兄が必ず見つけ出してやる! ソイツと一緒になり、お前は一生を幸せに過ごすのだ! だから余と一緒にフェニーチェに帰ろう! シンマとの交渉も、あとはすべてこの兄に任せておけ! すべて問題なく解決してやるから!」

「ショック・アタック!!」

「ぐほうッ!?」


 三度目の衝撃波。

 レーザお兄さんは飛んだ。


「このバカ兄上!! アナタは我のことを何もわかっていない!!」


 激昂するルクレシェア。


「我は、シンマとの平和裏の交渉のために書状を送ったのに、こんな戦争する気満々の軍を送られたらすべてブチ壊しじゃないか!!」


 いやでも。

 あんな内容の書状だとそりゃ親族ご一同様ならキレるんじゃ。

 送る前に検閲しておかなかったのが今さらながらに悔やまれる。


「それに我が助けてほしいなどと、書状のどこにそんなことを書いた!? 我は、このシンマの雷領に根付く覚悟でいるのだ! 書状にはそう書いていただろう!!」

「いや、それも救出してほしい意思の裏返しかと……!」

「そうやって兄上はいつも我の意思を曲解する!! アレか? 理解する心が生まれつき捻じれているのか兄上は!?」


 妹からの、情け容赦ない罵詈雑言。

 ただルクレシェアにとっても、お兄さんからの過干渉? ともいうべき影響には辟易しているようで、今回その我慢が爆発したみたいな感じだ。


 彼女は元々、勝手な兄を見返したい一心でシンマ王国との交渉指揮を執ったとか。

 兄妹には兄妹の軋轢があるんだろうけれど。……それに巻き込まれた側としては何とも。しかも一国ぐるみで。


「ま、まあまあ! ルクレシェア、ひとまず落ち着きましょう!!」


 一緒に船に同乗するクロユリ姫が諫めにかかる。

 あの人も、自分の『命剣』を魔法を撃つための動力源に利用されて、かつ余所の国まで来てケンカしている兄妹の仲裁をせざるをえないとか。

 ……いいとばっちりだなあ。


「何にしたってアナタのお兄さん。フェニーチェで一、二を争う偉い人なんでしょう? そんな人と直接交渉ができるんなら、色んな問題が一挙に解決するかもしれないじゃない! 急展開よ!」

「うう……。それは、そうかもだが……!」


 上手いぞ!

 クロユリ姫は説得名人だ!


「ただ兄上! これだけは絶対に言っておかねばならない! 兄上は一つ大きな思い違いをしている! 致命的な間違いだ!!」

「な、何ぃ……!? 余に間違いなどあるはずがない!」


 何度魔法攻撃を食らっても復活が早いお兄さん。


「この兄が何を間違っているというのだ!? 言って見ろルクレシェア!」

「我が非処女だというところが、だ!」


 あ。


「我はまだ清い処女だということだ! こちらのクロユリ同様に!」

「きゃああああああああああああッッ!?」


 クロユリ姫まで巻き添えで被弾した!?


「ルクレシェア! わたくしの盟友ルクレシェア!! いきなりなんてこと言い出すのコノヤロウ! ぶん殴るわよ!?」

「え? 何故だ? ゆくゆくは二人で一緒にユキムラと一緒に純潔を捧げようと誓い合った仲ではないか? だからこそ認識はハッキリしておかないとな!」

「だからそれを大声で触れ回る必要はないでしょっつってんの!!」


 この大海原で、かなり大声で宣言したからなあ。

 向こうの遠くにいる軍艦の乗組員や、岸辺にいる雷領関係者にも……。遠すぎて聞き取れなかったらいいなあ。


 そしてこっちの一番問題な人は、なんか小刻みにフルフル震えていた。

 レーザさんのことですが。

 まあすぐ隣にいる僕にハッキリ聞こえたぐらいだから、彼にもちゃんと聞き取れただろう。


「貴様ぁ!! どういう了見だ!?」


 そのお兄さんにいきなり掴みかかられた。

 え? 何故!?


「あの美しく! 女神のごときルクレシェアを手元に置きながら! 襲いもしなかっただと!? 貴様それでも男か!? 我が妹に魅力が足らなかったというのか!?」

「お前は妹さんを凌辱してほしいのか、してほしくないのかどっちなんだよ!?」


 なんか彼女たちのためにもしっかりと環境を整えるまで一線を越えまいと熾烈に我慢していたのがバカみたいに感じてきたぞ!?

 レーザはもうモナド・クリスタルの魔力が底を尽いていたので普通の取っ組み合いになったが、泥沼である。

 きっとクロユリ姫辺りも同じ心境だろうが、付き合わされるシンマ勢は心身疲れ果ててきた。


「あ、ところでユキムラ、いつまでもそこにいると危ないわよー」


 そのクロユリ姫からの警告。

 危険って何が?


「アナタたちの乗ってる軍艦、沈みかけてる」


 そうだった!

 さっき乗組員を無理やり逃すために船底まで穴を開けたんだった。

 そこから水が流れ込んでゆっくりと沈没するようにしていたんだが、いよいよ甲板にまで水が染み込み出している。

 よく見たら、軍艦の上に乗ってるはずの僕らの目線が、小舟に乗ってるルクレシェアたちとほぼ同じ高さじゃないか!!


「これはいかん。とっとと脱出しないと……!」


 元来た時と同じように海面を蹴って岸に戻ろうとしたところ、いきなり背後から衝撃を受けた。

 誰かに背中から組みつかれたのだ。

 誰か、というのは決まっている。今この甲板の上には、僕とレーザお兄さんしか残っていないのだから!


「お前! 何のつもりだ!? このままだと船と一緒に沈むんだぞ!?」

「モナド・クリスタルの魔力が尽きた今、来た時と同じように海面を凍らせて脱出するのは不可能だ……! こうなったら貴様も道連れにしてやる……!!」

「ヒィィーーーッッ!? やめてやめて! 実は僕こんな歩法会得してしまったせいか泳げないんすよ!! 水に入ったら確実に溺れる!!」

「奇遇だな! 余も泳げんのだ! こうなったら一緒に沈め!」

「いやぁぁーーーーーーーーーーッッ!?」


 こうして醜い争いを繰り広げながら、軍艦一隻とともに沈む僕たち。

 そんな我らを遠目に眺め、呆れた表情の美女たちがいた。


「何やっているのあの人たち……?」

「さあ? とにかく兄上は一人だけ海の底まで沈んでほしいな」

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ソードマスターは聖剣よりも手製の魔剣を使いたい
同作者の新作スタート! こちらもよければお楽しみにください!
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