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05 歴史は目覚める

「ん? ……なんだ?」


 その音に最初に気づいたのは僕だった。

 道場での談笑に花が咲きかけていた時のこと、微かではあるが音が聞こえてきた。

 まるで獣の唸り声のような、あるいは雷鳴のような。

 ごおおお……ッ! という音。


 それはたしかに微かな音だったが、音自体が小さなものではない。そう確信できた。

 これは遥か遠くから響いてくる音だ。

 距離によって摩耗しているが、それでもなお遠方まで届く轟音。

 前世において、夜襲を掛けようと迫ってくる敵兵の鎧擦れの音が記憶から甦る。


「先生……、何でしょうあの音は?」

「うむ、犬の遠吠えに似ていなくもないが、聞いたこともない太い音じゃ」


 先生も、あの正体不明の音に不穏さを感じ取ったようだ。

 僕と先生、立ち上がったのは同時だった。


「え? え?」

「ジロウ、お前はここにいろ」


 言い捨てて、僕は即座に駆け出した。


「先生もお留まりを。何かあったとして、この道場を守ることこそ先生の役目です」

「わかった。様子見はお前に任せよう。何かあったら、すぐ報せに戻るのだぞ!」


 すぐさま道場の敷地を飛び出し、音のした方向へ疾走する。

 この方向は……、海だ。

 王都はシンマ王国の首都でもあるから、貿易上の問題で必ず海に面していなければならない。

 その海から聞こえてくる不穏……!


「兄ちゃん!」


 背後から呼びかけられ、走るのを止めないまま振り向く。

 後方から同じように駆けてくる弟ジロウの姿。


「ジロウ!? 道場で待ってろと言ったはずだろう!!」

「兄ちゃんが行って、なんでオレがジッとしてなきゃいけないんだよ! オレは兄ちゃんより強いんだぞ!!」


 コイツ、なんてことを堂々と……!?


「もし本当に何かあった時、『命剣』も出せない兄ちゃんじゃ話にならないだろ! 今じゃオレが道場一の使い手なんだ! オレの『命剣』で敵を倒す!」

「バカ野郎……!」


 僕は走る速度を上げて、わざと入り組んだ道を選んで人々の間を縫って複雑に走った。

 弟を撒くためだ。

 おかげで海岸に着いた頃には、弟の姿は完全に消え去っていた。

 そして。

 海上には信じがたいものが浮かんでいた。


「まさか……!」


 軍艦だった。

 四隻の軍艦が、揃って搭載されている砲門を陸へ向けていた。

 そして撃つ。

 ドオオオオン……!

 遠くから聞こえていたのは、この音だったのか!?


「なんてことだ……!」


 海岸沿いの施設が、砲撃によって次々と爆砕していく。陸地の人々は逃げ惑うことしかできなかった。

 あの船体のほとんどを鋼鉄で覆われた大船。

 あんなものはシンマ王国では作られていないし、作れない。

 とすれば答えは一つ、あれは今シンマ王城で交渉中のはずのフェニーチェ法国の船だ。

 それが何故、唐突にシンマ王国の港湾部を砲撃する?

 交渉で何か不備があったとしても、このやり方は無茶過ぎる。


 そうこうしているうちに陸の方でも動きがあった。

 王城の警備兵が駆けつけ、反撃を試みる。

 と言ってもできることと言えば、小舟に乗って軍艦に接近することしかない。何やらワーワー言っていたが、当然のように狙い撃ちにあい木っ端微塵に沈むのみだった。


「あんな大砲に対抗できる手段は、シンマ王国にはないぞ……!」


『天下六剣』でも使えば話は別だが……。

 シンマ王国は『命剣』のみを頼りとし、それ以外の戦法を一切おざなりにしてきた。


 このままでは沿岸部が制圧されるのは時間の問題だぞ。

 港が抑えられれば物資も入らず、王都は数日にして干上がる……!


 このただならぬ事態に、さらなる一石を投じる出来事が起こった。

 岸の方から再び、軍艦へ向かって漕ぎだす一艘の小舟があった。


「何をバカな……!?」


 あんな小舟、砲弾を食らって即沈むことはさっき証明されただろう。

 警備兵たちもそれを恐れて漕ぎ出せずにいるというのに……、一体誰が無謀なマネを……!?

 …………!?!?

 目を細めて船員の顔を確認すると、僕の前身が驚愕で凍った。


「ジロウ!?」


 ここに至る途上で撒いたはずのジロウが、何故小舟になんか乗っている!?

 遠目からでもわかる。アイツは真っ直ぐに軍艦を睨み付け、あくせくと櫓を漕いでいた。

 小舟に乗っているのはアイツ一人。

 岸では警備兵を含めた大勢が「戻れ、戻れ!」と慌てふためいていた。

 砲撃はいまだ鳴り止まない。


「あのバカ……!」


 僕は考えるより先に駆け出した。

 岸壁を蹴って海面の上を飛ぶと、程なく重力に引かれて海面へと落ちる。

 その瞬間、海面を蹴り、その反動で水しぶきを上げながら大きく飛んだ。

 水を蹴って飛んだのだ。

 そうした跳躍を三~四度ほど繰り返し、僕は弟の乗る小舟へと着地した。

 振動で小さな船体が大きく揺れる。


「うおおおおッ!? に、兄ちゃん!? どうしてここに!?」

「こっちのセリフだ大バカ!!」


 こんなことになるだろうから道場に留め置いたのに。

 撒いて目を離したのが却ってマズかったか。


「さっさと舟を岸へ戻せ! 沖に出過ぎると軍艦からの狙い撃ちを食うぞ!!」


 直撃でもしたらひとたまりもない。

 先に軍監に接近しようとした小舟も木っ端微塵となり、船員たちは直撃寸前に海へ飛び込んだために命だけは助かったようだが……!


「嫌だ!!」


 ジロウは猛然と反抗した。


「オレはフェニーチェ法国のヤツらを倒すんだ! あの軍艦にいくさを仕掛ける!」

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ソードマスターは聖剣よりも手製の魔剣を使いたい
同作者の新作スタート! こちらもよければお楽しみにください!
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