57 分かれて合わさり
コイツらの協力体制を見学するため、あえて守りに徹していたが……。
そろそろ付き合う義理もなくなってきたな。
攻勢に転じるか。
「雷剣『オオモノヌシ』……!」
すべてを食らい尽くせ。
再び大蛇となって大きくうねる雷剣は、空中を這って寄り添う二人に襲い掛かる。
「マズいネ! 防御デース!!」
ジュディが、複製した風剣を振ると、彼女らの目の前に気流の壁が現れる。
しかしそれは、我が雷剣にとって何の意味もなかった。
容易く突破し、ジュディ本体へ迫る。
「ジーザス!?」
今にも雷光が、ジュディの体に届こうとした刹那の前。
「ぐおおおおおおッッ!?」
「タチカゼさん!?」
巨漢タチカゼが、その体で抱きすくめるようにジュディを覆ったため、ヤツ自身の体が盾となり雷光を阻んだ。
「ほう」
命までは取るまいと威力は抑えてあったが、それでもみずから身を挺するなど並の度胸ではできまい。
実力頭脳はともかく、気概だけはサムライと認めてやるべきか。
そのタチカゼも、まともに浴びた雷光のせいで体のあちこちが焼け焦げている。
しかし、庇ったジュディはまったく無事のようだ。
「タチカゼさん! 無茶ですネー! ダメージはないネ!?」
「侮るな……! 四天王家に連なる、このヤマウチ=タチカゼ。この程度の雷でどうにかなる柔な体は持っていない……!!」
「それでも、サンダーの前に出てくるなんて無謀デース!!」
「それもまた侮るな、だ。シンマのサムライは、常に弱い者を守らねばならんのだ。女子供など、弱き者の代表のようなもの。それを守らずして何が武士か!!」
タチカゼのヤツはまだまだやる気らしいな。
では、こちらも相応に答えるとしよう。
「ッ!? 次の攻撃が来るデース! あのサンダーデビルまったく容赦がないネー!!」
「ジュディ……! 恥を承知でお前に頼みたい……!?」
「ッ!? 何ネ!?」
……。
もう少し追撃を待ってやるか。
「さっきの風の障壁をつくる技だが、それがしにも教えてくれぬか?」
「えッ!?」
「本来、風剣の主たるヤマウチ家のそれがしが、異国人に教えを乞うなど羞恥の極み。……しかし、雷剣の猛攻を防ぐには防御の手段が絶対必要だ」
「で、でも……、ミーの張った障壁は全然役に立たなかったネ!?」
「だから二人で張るのだ! 二人二重なら、あの稲妻も何とか防げるやも……!」
はーち、なーな、ろーく、ごー……!
「……という感じネ! あとは気合で何とかするデース!!」
「あいわかった! 風剣『カゼノオ』よ! 我らを守る防塁となれ!!」
よーん、さーん、にー、いち……!
……では、さらに加減して、行けッ!
我が手から放たれる雷撃が、二人の作り出した風壁に阻まれる。
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおッッ!?」
「ひえええええええええええええええッッ!?」
二人とも必死だが、もう少し力を入れるだけで押し切れそうだな。
これ以上何かが変わる余地がなければ、もはやただの弱い者イジメだろう。彼らのためにもここで終わらせてやる方が……。
「情けないな……!」
なんだ?
タチカゼの、搾り出るような声。
「夷狄討つべしと揚々乗り込みながら、新参領主と侮っていた相手に手も足も出ず。異国の女からの助勢を受けてなおこのジリ貧。四天王家だ風剣だと、驕り高ぶっていた自分の愚かさが浮き彫りになったか……!」
雷剣を操る僕の耳には、空気の揺れではなく、雷が発する揺らぎを通しても肉声を聞き分けることができた。
タチカゼにとっては、この轟く雷鳴と暴風の中、すぐ隣にいるジュディにしか聞かせていないつもりだろう。
「我らは、百年の長きに続いた太平でいくさを忘れ、先祖から受け継いできた技をただ受け継ぐだけで、発展させようともしなかった……! ジュディ、お前のように様々な工夫をしてみようなど、考えに浮かびもしなかった……!」
「タチカゼさん……!?」
「それがしは、ヤマウチ家の四男。領主家の子息と言えば聞こえはいいが、男子など世継ぎたる長男を除けばすべて厄介者。女子のごとく他家に嫁入りして縁を作る役目も果たせず。本当にただの穀潰しでしかなかった……!」
いつの世も、武家の家ならどこにでもありそうな話だった。
次男三男ならともかく、四男ともなれば何かの幸運で家督が巡ってくる可能性もない。
何の意味もない人生に何か意味を見出そうとすれば、剣の道に入るのはごく自然のこと。
「剣の腕を磨き、『命剣』の会得し、先祖伝来の教えを守ってひたすらに風剣を磨き上げてきた。先祖の教えに従うことこそが強くなる道と思っていた。そんなそれがしの堅い頭を、お前は一瞬で粉々に砕いてみせた」
「そんな、そんなことないネー!?」
「シンマが異国と交わる新しい時代には、古き権威に囚われず柔軟に判断することが必要と言うわけか……! ジュディ、お前にもう一つ頼みたい」
「ホワッツ!?」
お。
まだ何か諦めずにやるつもりか?
「昔、風剣の修行中にふと思いついたことがあった。しかしそれはヤマウチ家に伝わる教えから外れるものでもあったし、教えに従うことのみが強くなる手段と固く信じていたそれがしは、その思い付きを捨てた」
「な、何ネ!? 何を思いついたネ!?」
「ユキムラ……、あの男がしつこく言っている『疾さ』と『速さ』の違いが、そこにあるのかもしれぬ。しかし今まで新しいものを拒否し続けてきた硬い頭では、イメージはあってもそれを実現する具体的な道筋がわからぬ……!」
なるほど、それを……!
「……ジュディ、お前の柔軟な発想で補ってほしい!」
「わかったネ! ミーはこの戦い何処までもタチカゼさんを応援するネ!! 最初にそう決めたデース!!」
「さすがはジュディ。発想は柔軟でも、一度口にしたことは決して曲げぬ、意志は固いか。……ならば!」
「行くデース!!」
二人は手を繋ぎ始めた。
既に繋がっている、モナド・クリスタルを装着した方の手だけでなく、もう片方の手も。
それはつまり、二人が手にした二振りの風剣が、一つに重なるということだった。
ジュディの握る風剣は、タチカゼをエネルギー源としてモナド・クリスタルで変換し作り上げた模造品。
一つの根源から現れた二つの結果が、再び一つとなる。
「それがしとジュディの体を通って一つとなり、新生せよ風剣!! そして新たなる段階を踏め!!」
タチカゼの宣言と共に、生まれ出でた風剣は。