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47 研究者の本領

「とまあ、つまり……」


 あまり邪険にしすぎても可哀想なので、少しはジュディの研究心を満足させてあげることにした。


 ルクレシェアが、シンマ王国にて会得した特別な魔法変換。

 シンマの『命剣』を構成しているエネルギーを魔力に変えて、魔法を使う場面を実演してみせる。


「エイド・ウィンド!!」


 ルクレシェアの掛け声と共に、目前の空気が、木の葉を巻き込み吹き荒んでいく。


「任意の空気に魔力を伝播させて操る初歩の魔法だ。デモンストレーションにはちょうどよかろう」

「凄いネ! 物凄いネ! 学会で唱えられていた仮説は正しかったデース!!」


 ジュディは、手品を見せられた子供のように大はしゃぎだった。


「やっぱり魔力は代替可能だったネ! これを法王様にご報告すればお喜びになること間違いなしデース!!」

「だから貴様にはとっととフェニーチェに帰って報告してもらいたいんだがな。しかし、ついでだ……!」


 ルクレシェアは、やれやれと言った感じで金髪を掻き上げた。


「ジュディ=サイクロム。貴様の研究者としての見識を見込んで分析を頼みたい。現時点での、『命剣』の魔法変換の展望について」

「オッケーネー!」


 何やら話が真面目な方向に……!


「ジュディのヤツは見た眼こそアレだが、魔法研究者として実に有能だ。若手の中では間違いなくナンバーワン。全体でも法王や学長から目を掛けられ、将来を嘱望されている」

「ほうほう……!?」

「伊達に研究熱心で、他のものが目に入らなくなるわけではないということだな。知識だけじゃなく。常識に囚われない自由な発想は時に学会を騒然とさせ、新しい魔法テクノロジーを生み出すこととなってきた」

「それは……!」


 むしろ納得と言うか。

 納得したくないのに納得せざるをえないもどかしさと言うか……!


「ルクレシェア様、ルクレシェア様」

「ん? なんだジュディ?」


 早速ジュディさんが物申されるご様子。


「なんでルクレシェア様は魔法使用中、クロユリ様とお手て繋いでるネ? 二人は仲良しなのは充分知ってるデース」

「ああ、それはだな……」


 とルクレシェア、説明を始める。


「二人がとっても仲良しだからだ!」

「だよねー?」


 繋いだ手と手を見せつけるクロユリ姫とルクレシェア。

 だからアピールすべきところはそこじゃない。

 実際に試してみたからこそ浮き彫りになる問題点を説明してやってください。


              *    *    *


 説明中。


              *    *    *


 説明終わり。


「ジーザス! 『命剣』のエネルギーは、モナド・クリスタルに貯蔵不可能なのネー!?」

「それだけじゃない。供給元となる『命剣』使用者との相性がマズければ、魔法変換すらままならない。我もクロユリが相手となれば可能だが、あちらのユキムラ殿をパートナーにした時は何度も変換失敗して吹っ飛ばされた」


 と、こちらへ視線を送るルクレシェ。

 ……しかし何故そんな恨めしそうな視線なの? 

 僕が何かしたから失敗したわけじゃないでしょう!?


「結論から言って、現行のモナド・クリスタルは『命剣』のエネルギーに最適化されていないということだろうな。この問題解決のため、モナド・クリスタルの改良が必要だと考えるが……?」


 その提案に答える研究員。

 つまりジュディ。


「それは不可能デース」

「なんだと……!?」

「モナド・クリスタルは、基本採掘されるものをそのまま利用しているネ。磨いたりカッティングしたりで貯蔵効率、変換効率を調整することはできるデスが、取り込む魔力の質に対応させるなんて、試みたこともないはずネー」

「そうか……」


 専門家と言ってよいジュディからの意見に、思わず肩を落としてしまうルクレシェアだった。


「致し方ない……、か。もっともシンマ側からの正式な協力も取り付けていないのに、ハードウェアの心配をしても詮無いことだが」

「ルクレシェア様元気出すネー。研究はまだ始まったばかりネー」


 ルクレシェアを励ますジュディさん。


「研究を進めるためには、何より潤沢なサンプルが必要デース! ルクレシェア様とクロユリ様だけじゃなく。もっといろんな人たちの色んな組み合わせをサンプリングしていくべきネー!」

「なるほど、それらの違いから魔法変換の相性を読み取り、効率化を図っていこうというわけだな!」

「というわけで、ミーがユキムラ様とドッキングを……!」


 と僕に近づこうとするジュディに、またしても影剣が二振り突き付けられる。


「オー、ノ-ノーノー……! イッツ、ジョーク。ジョークですネー……!!」


 有能な研究者のくせに学ばないジュディだった。


「この、魔法技師にコピーできる『命剣』のメカニズムも解明したいところだが、たしかにサンプルが足りんな」

「今のところは、『それができる』って判明しているだけでいいんじゃない? ルクレシェアもさっき言ってた通り、この問題の大元になるシンマ王国の技術協力は取り付けられないままなんだから、それを抜きにして技術的な問題に取り組んでも詮無いだけだわ」


 クロユリ姫が諭す。

 彼女とルクレシェアは既に無二の親友だが、それでも二人には両国の姫君という立場がある。

 友情と並立し、自国の利益も考えなければいけない彼女らの心境は複雑だった。


「何を言うネ! まだまだできることはあるデース!!」


 しかしジュディはイケイケを継続中。


「いや、貴様はホント、フェニーチェに帰ってくれよ。帰って父上に報告してくれないと話が進まないだろう?」

「要はもっとサンプリングを充実させればいいデース!! ルクレシェア様とクロユリ様以外にも、たくさんの『命剣』プレイヤーと魔法技師をリンクさせて、どういう相性が好ましいのか傾向を調べるべきデース!!」


 そうは言っても、ルクレシェアとクロユリ姫以外に、一体誰をサンプルにしろと。


「不肖このジュディ=サイクロム。魔法技師としてもそれなりの実力を持ち合わせているネ。そのミーと、そちらにいるユキムラ様と……!」

「「だから」」


 ジャキン、と影剣×2。


「オー、イッツジョーク……!」


 本当に学ばない研究者。


「だったら標的変更デス! もう一人打ってつけのサンプルがおられるネー!!」

「え? 誰?」

「さっきまでここにいた、シンマ人のビッグガイ、ネ!!」


 びっぐがい?

 大男……?

 まさか、ヤマウチ=タチカゼのことか!?


「話に聞くと、あのガイも『命剣』の上位モデルを持っているネ! ここはミーからお願いして、是非とも研究に協力していただけばいいネ! 真心は必ず伝わるデース!!」


 そんなわけあるか!

 タチカゼは、フェニーチェ排斥派を代表して雷領に来たんだぞ!

 異国は敵で、シンマ王国は一丸になって討ち払うべし、と主張しているヤツだ。


 そんな相手が、素直に研究に協力してくれるはずが……!


「それでは早速レッツ交渉ネー! 至誠、天に通ずデース!!」


 あああ!

 止める間もなくジュディが行ってしまった。


 まずいこれは!

 必ず大騒ぎになる流れだ!

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ソードマスターは聖剣よりも手製の魔剣を使いたい
同作者の新作スタート! こちらもよければお楽しみにください!
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