46 一心二剣
「……ミーは、年頃の乙女にあるまじき破廉恥な行為をいたしましたネ。申し訳ないデース……!」
ジュディが反省の意を示していた
というか反省を強要されていた。
「まだよ。まだまだ反省が足りないわ。もっと迫真の気合を込めて謝罪しないと、想いはわたくしたちに伝わらなくてよ?」
「いかにも。浮ついた気持ちで我らのユキムラに言い寄る不届き女。成敗しなければ妻の名が廃る」
と、クロユリ姫とルクレシェアの両名が、左右から影剣『カーリー』を突き付けている。
『天下六剣』の一種二振りに首筋を挟まれて、ジュディはさぞや生きた心地がいないだろう。
……はて?
「待ってデース! 言ってることがいおかしいデース! ルクレシェア様とクロユリ様、二人がジェントルのワイフになるって言うなら、三人に増えたってノープロブレムのはずネー?」
ジェントルって僕のこと?
「たわけが! 本気でユキムラ殿に嫁入りしようとしている我らと、『命剣』目当てで言い寄ろうとする貴様を一緒にするな!」
「功名利益を求めて覇者に抱かれようとする女は、突き詰めれば傾国となります。傾国とは読んで字のごとく、国家の屋台骨を齧り食って、傾かせる白アリ!! 領主夫人として、そんな危険な女を夫に近づけさせません!!」
と、益々影剣二振りを突きつけるクロユリ姫とルクレシェア。
……で、あの……。
「oh No! ハリーアップネ! ソーリーネー! っていうかいい加減、この正座というのをやめさせてほしいネーッ!? 足がビリビリしてるデース!」
「ダメです。正座はシンマ王国において反省の意を示すにもっとも相応しい座り方です。アナタはわたくしたちよりお尻が小さいんだから正座も楽でしょう?」
「その無駄にデカい乳と反比例してな。我など以前試しにやってみたら尻とふくらはぎの間がムチムチしすぎて無理だったぞ」
「……ケツデカコンビ、デース……!」
「あ?」「あぁ!?」
「何も言ってないデース!! 何卒ヘルプミー!!」
ジュディも充分反省したことだろうし、そろそろ許してあげてもいいんじゃないかな?
それに何より、彼女のことなど放っておいて、すぐにでも注目したいことが。
「あのさ……、クロユリ姫、ルクレシェア」
「何ユキムラ!? わたくしたち今このデカチチ娘を折檻するのに忙しいんだけど!?」
「そうだぞユキムラ殿!? それともアレか!? 貴公もこの乳に惹かれるのか!? おっぱいなら我々もそこそこの大きさあるんだからそれで我慢しろ!!」
そういうことじゃなくてさ!
「僕が興味あるのは、ルクレシェア、キミが手に持ってるものなんだよねえ……!」
「んあ?」
指摘されて初めて気づいたようだ。
ルクレシェアは自分の左手から伸びている真っ黒な刃に、目の焦点を合わせる。
そしてたっぷり十数えたぐらいで……。
「なんじゃこりゃァァーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!?」
「何それェェーーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!?」
クロユリ姫まで一緒になって驚いている!?
「何!? 何々何々!? 影剣!? 影剣なのかこれは!? クロユリしか使えないはずの影剣が何故我の手から!?」
「こっちが聞きたいわよ!? シンマ王家の血統にしか受け継がれないはずの影剣が、何故外国人のルクレシェアに!? わたくしの方の影剣も……、ちゃんとあるし!!」
クロユリ姫の右手から伸びる影剣『カーリー』もちゃんとあって、目の前には二振りの影剣が並んでいた。
クロユリ姫は右手に、ルクレシェアは左手に。
そしてクロユリ姫の左手とルクレシェアの右手は、しっかりと繋がれていた。
……もしや。
「二人とも、その繋いでる手……!」
「ん?」「ああ!?」
二人も気づいて手を離すと、その瞬間ルクレシェア側の影剣は消え去った。
まるで力の供給を断たれたから仕方ないとばかりに。
「これってつまり……!」
「クロユリから送られた力が、我に影剣を発生させたというのか? 繋がれた手を伝って?」
そういうことになるだろう。
これを見て即座に思いだすことは、クロユリ姫から送られる影剣の力を動力源として、ルクレシェアが魔法を使ったことだ。
あの時も二人は手を繋いで、魔力を蓄積保存するモナド・クリスタルを介して『命剣』の力を魔法に変えていた。
「いや……、全然気づかなかったわ。手を繋いだことすら意識していなかった」
「我もだ。だからこそこんな不可解な状況が発生したというわけだな。まさか『命剣』を魔法に変換できるだけでなく、『命剣』そのものも魔法技師に移すことができるとは……!」
クロユリ姫とルクレシェアはもう一度手を繋ぎ、心を一つにして念じ合った。
「ユキムラ……」
「大好き……!」
待って。
それを元に心を一つにするんですか?
色々思うところはあるけれど、ツッコミを入れようとする前に次の現象が起きてしまう。
再び二人の手から、同時に二振りの影剣が現れた。
「おおうッ!?」
「やっぱり……!?」
出して自分で驚いておられる……!?
まあ、僕もビックリだが。
そしてもう一人、この場でもっともビックリしつつ、喜びはしゃぐ者がいた!?
「ファッツ!? どーなってるネ!? それ凄いネ興味深いネ!! ビューティフル&ワンダフル&ファンタスティック! ネーッ!?」
そう、ジュディの研究心旺盛さを思えば、彼女がこれを目の当たりにしてジッとしているはずもない。
「是非とも! 是非ともこれを徹底研究してみたいデース! やっぱりシンマキングダムに上陸してよかったネ!! ここは心躍る研究対象の宝庫デスヨーッ!!」
と立ち上がって二人の元に駆け寄ろうとしたところ、そうできずにその場で前のめりに転ぶ。
「あだだだだだだだッ!? これは何デース!? 足が固まって動かないデース!? しかも猛烈に襲ってくる痛痒さ!? 未知の謎がミーのボディに起こってるネー!?」
まあ、長時間正座してたら足が痺れてそうなるわな。
好奇心旺盛なジュディを興奮させる事柄は、異国シンマには溢れかえっているらしい。