表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/139

44 男子とガール

「黙って聞いていれば勝手なことばかりほざきおって! 誰がいつ、貴様らに『命剣』を渡すなどと言った!? 『命剣』はシンマの宝、サムライの命そのもの! 貴様らごとき異国人が軽々しく触れていいものではない!!」

「ノー? けちんぼネー!?」


 軽快なジュディがタチカゼへ向かう。


「それに『渡せ』なんて言ってないデース! 『見せて』とお願いしてるネー! ユーの長くて硬くて立派なモノを、ミーにじっくりたっぷり調べさせてほしいデース!」

「んななあああああああああああああああああああああああッッ!?」


 何を妄想したのか、顔を真っ赤にして後ずさるタチカゼ。

 満を持し、敵地に攻め込むような勢いで現れた彼だが、今ではもうすっかりあとから現れたジュディに飲み込まれ気味だ。


「何と破廉恥な!? 異国の女というのは誰も彼もこんなに恥じらいを知らぬのか!?」

「いわれなき中傷!?」


 同じフェニーチェレディとしてルクレシェアが困惑した。


「お願いするデース! 頭を下げてお頼みしますネー! 研究することがミーの生き甲斐デース!!」


 縋るように抱きつき、その身をグイグイとタチカゼに押し付けるジュディ。

 その瞬間気づいたが、ジュディの体つきは、元々豊満な傾向のあるフェニーチェ人の中でも一際豪快で、おっぱいなど、割かし豊満なルクレシェア、クロユリ姫と比べてもその比ではない。

 そんな怪物級のおっぱいをタチカゼに押し付けるたび「むにゅむにゅ」と音が聞こえてきそうだ。


「ひっ、ひっ、ぬががああああぁぁぁぁぁ~~~ッッ!?」

「きゃあ! ネッ!?」


 暴発したタチカゼに押し飛ばされて、ジュディが軽く尻もちをつく。


「ええい! 色仕掛けとは小癪な! 義にもとり信に欠けた行い、だから異国人は受け入れられぬというのだ!」

「えぇ~? ミーは誠心誠意込めてるネー?」


 本人は恐らくそのつもりだろうが、この二人、気持ちの噛み合わなさがハンパない。


「とにかくそれがしは、異国人をすべてシンマの国土から叩きだすべきと考える。これは四天王家の総意と取ってもらってもよい! シンマ王家より承諾なくとも、この国のために、それがしは先祖より受け継いだ剣を振るう!」

「そんなことより研究させてほしいネー!!」


 ジュディが抱きつく。

 タチカゼが乙女のような悲鳴を上げる。

 さっきからその繰り返しだった。


「きょ、今日のところはこれにて引き上げさせてもらう! クロユリ姫、今度窺う時、アナタからシンマ王家の正式な決断を聞かせていただく! アナタがシンマ王家の真の誇りを知りうる人であると、願うことや切である!!」

「あー! 待って待って! ダルマさんがローリングー!!」


 ジュディの制止も振り切り、スタコラと足早に去っていくタチカゼだった。

 現れた時は暴風のようだったが、去る時も風のように去っていく男だった。


「……逃げたな」

「逃げたわね」

「あれは完全無欠に居づらくなって逃げたな」


 あとに残された僕、クロユリ姫、ルクレシェアの意見が驚くほどに一致した。

 まあ、誰が見てもそう思える様子だったからな。


「ああん……、逃げられてしまったネー……!」


 途中までタチカゼを追いかけていったジュディ。

 途中で振り切られたのか、寂しげにトボトボ戻ってきた。


「勝手なマネをするなジュディ! というか勝手なマネしかしていない貴様!!」


 そんなジュディに、ルクレシェアは怒り心頭だった。

 立場的にも彼女を叱れるのは彼女だけなので、ここは一つ頑張ってほしい。


「まったく貴様は……、自分が何をしに来たのかわかっているのか?」

「研究ネー!」

「違うわ! フェニーチェ特使の先遣者として、我の安否をたしかめに来たのだろう?」


 そう言えばそういう話だった。

 彼女の印象がアレすぎて、すっかりどうでもいい話になってしまっていたが、彼女はついにやって来たフェニーチェ法国の特使。


 彼女がいかなる方針をフェニーチェ本国から持ってきたかで、こちらの取るべき判断も変わる。

 ここは慎重に動かなければ……!


「待てユキムラ殿、話を急いてはいけない」


 ルクレシェアから諭される。


「コイツは、みずからを先遣者だと言った。つまりジュディは、主体となる新交渉団より先にやってきて、情報収集などを目的にした先触れなのだ」

「下調べもせずに踏み込むなんて、危ないものね」


 クロユリ姫が補足説明する。


「だからコイツと話しあっても無意味なことだ。二重の意味で」


 権力的にも、性格的にも、ってことですか。


「とりあえずジュディ、貴様いつシンマ王国に辿りついたのだ? ここまで来た手段は?」

「フェニーチェ法国最新モデルの高速艇でやって来ましたネー! この拠点基地のことは知っていたから、そこを目指して。到着して、その辺にいたフェニーチェ人から、ルクレシェア様がここにおられるって聞いたデース!」


 それで真っ直ぐここまで来たというわけか。

 その時ちょうどタチカゼが襲来していた、というのは何とも絶妙な偶然だが。


「……その高速艇のモナド動力機関には、まだ魔力は残っているのだな?」

「もちろんネー! でないとフェニーチェに帰れないデース!!」

「よし」


 ルクレシェアは表情を引き締めた。


「ジュディ、少し待っていろ。我から父上に宛てて手紙をしたためる」

「メールですネー?」


 ルクレシェアのお父さんというのは、つまりフェニーチェ法王。


「現在の我の置かれた状況、シンマ王国の情勢。それらを鑑みて、どう動くべきかという我の所見を書き記しておく。ジュディ、お前はそれを持ってすぐさまフェニーチェ法国に戻り、手紙を父上へ届けるのだ!」


 その手紙を読ませ、前線での状況を事細かに伝えた上で、フェニーチェ法国全体としての判断を仰ぎ直そうということか。


「ルクレシェア、すまないがその手紙は検閲させてもらうぞ」

「もちろんだ、ユキムラ殿の妻となるこの我、夫に隠し事などしない! 頼むぞジュディ。手紙が書き終わり次第、すぐさまフェニーチェへ飛び帰ってくれ!!」

「嫌ですネー!」

「おいッッ!?」


 既に一筋縄ではいかない事態になっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソードマスターは聖剣よりも手製の魔剣を使いたい
同作者の新作スタート! こちらもよければお楽しみにください!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ