43 珍客万来
今日は変な客がたくさん訪れる日だな!
と、突然現れた女の子を見て思った。
「イグザクトリィ! ミーはフェニーチェ法国からやって来たジュディ=サイクロムと言いますネー! ヨロシクネー!!」
一目見てシンマ王国の人ではない、フェニーチェ人だとわかる煌めく金髪。
ルクレシェアのそれよりやや金色が濃くて、茜色に近い風情。
さらに出で立ちが……、シンマ王国の貞操観念から見たらありえないほどの薄くて軽い。
胸と股間。大事なところしか隠していない極めて布地の狭い衣服を着て、あとは羽織りのような白衣を大雑把に掛けてるだけだ。
「ななななな、何だこの破廉恥女は!?」
その服装のエロさにもっとも動揺したのは、同じ珍客の一人であるタチカゼだった。
顔が赤くなり、頭からびっしょり汗をかきまくっている。
「嫁入り前の若い娘がこのように肌を晒すなど、異国の風紀はどうなっておるのだ! やはりこんな連中をシンマ王国に入れては、毒を食らうに同じ!!」
「そんなことより! 早く戦ってほしいネー!」
え?
「そちらのウインドマッスルと、こちらのサンダージェントルがバトルするネ?」
「ういんどまっする!?」
「さんだーじぇんとるって、僕のこと!?」
タチカゼと僕が、揃って素っ頓狂な声を上げた。
「ミーは『命剣』の研究がしたくてここまでやって来たネー! それで早速、『命剣』上位モデルの戦闘を見るチャンスに恵まれるなんて千載一遇ネー!!」
「ええい、興奮するなジュディ!」
ルクレシェアが、この突撃乱入少女の首根っこを引っ掴む。
「皆すまない。混乱させてすまない。コイツはジュディ=サイクロム。見ての通りフェニーチェ法国の魔法研究員だ」
うん、それはたしかに金髪だし、白衣だし、見ての通りわかる。
しかしその上で彼女をまったく理解できなかった。
「有能ではあるんだが、如何せん興味のあるものに躊躇なく突っ込む癖があってな。だが……。おい、ジュディ!!」
ジュディちゃんとやらを裸絞で締め上げるルクレシェア。
「オーノー! チョークスリーパーはナシネー!」
「うるさい! そもそも何故……、何故お前がここにいるんだ!?」
え?
「コイツは、我が率いてきた第一次フェニーチェ交渉団メンバーには入っていない。今はフェニーチェ本国にいるはずだ!!」
「えぇー?」
たしかに、今シンマ王国にいるフェニーチェ人は、シンマ王国と交渉するためルクレシェアに率いられて来た、という以外に存在する理由がない。
ならばずっとこの拠点基地→雷領首都にいてしかるべきなのに、僕はここに来てから、この子を見たのは今日が初めて。
こんな派手で騒がしい子を見逃したり、見かけても記憶に残らないということはないはずだ絶対に。
「答えろジュディ、貴様どうやってここまで来た!?」
「そんなの決まってるネー!」
彼女はルクレシェアに締めあげられつつ、手で体をパンパン叩く。
多分降参の合図だと思われる。
「ルクレシェア様を助けに来たネー! そのためにフェニーチェ本国から遥々高速艇を飛ばしてやってきたネー!!」
「「「なッ!?」」」
その告白に、ルクレシェアだけでなく僕やクロユリ姫も愕然とした。
いずれ必ず来ると思われたフェニーチェからの新使節。それが彼女だというのか?
「法皇様は、ルクレシェア様からの連絡が途絶えて大層心配しておられるネ! なので取り急ぎ、ミーを派遣させたデース! 状況把握のための先遣者ネー!!」
「わからない話ではないが、しかし何故よりにもよって貴様が!?」
せっかく本国から遥々助けに駆けつけてくれた相手に「よりにもよって貴様」扱いとは。その理由が一目見てわかってしまうジュディとやらの存在感よ。
「そんなの決まってるネー! ミーが全身全霊を懸けて法王様に懇願したネー! ルクレシェア様をお助けするついでに『命剣』を研究するデース! それが達成されるまでは死んでもノットゴーホーム!?」
「我はついでか!?」
「ギブギブギブギブギブギバーップ!!」
ジュディのクビに巻き付いた腕を、さらにきつく締めあげるルクレシェア。
二人とも、何がしたいのかいまいちよくわからない。
「すまぬ……! ジュディのヤツは本当に研究熱心で、それ以外のことはまったく目に入らないというのは見ての通り、さっきも言った通りだ。シンマ王国の『命剣』にも尋常ならざる興味を持っている……!」
あ、ハイ。
たしかに、そのようですね……?
「こんな暴走ぶりでは、必ず貴国とトラブルを起こすだろうと本国に置いてきたのに、父上はよりにもよってコイツを寄越してくるとは、一体何を考えておられるのだ?」
彼女を置いてきぼりにしても結局トラブルは起りましたがね。
「と、いうわけでルクレシェア様! さっそく『命剣』の研究をしましょうネー!?」
「何が『というわけで』だ!? 貴様は研究欲ばかりで国際情勢がまったくわかっていない。今、我々とシンマ王国がどんな緊張状態にあるのかわかっているのか!?」
「知ったこっちゃないデース!」
「潔すぎる!!」
本当に彼女は、『命剣』を研究すること以外に興味がないらしい。
「ミーは、ただ純粋に研究したいだけデース! この純粋な気持ちは、シンマキングダムの人たちも必ずわかってくれるネー! だから、国がどうとかは問題ないのデース!!」
なんだ、この凄まじく根拠のない自信は!?
根拠がないのに自信の強さが凄まじい。それが傍から見た眼でもクッキリわかるほどだ。
「では早速、『命剣』を見せてもらいたいデース! そちらのツーメンは、『命剣』の上位モデルを扱えると聞いたネー!! シンマキングダムに上陸してすぐ、そんな上モノに出会えるなんて、ミーは飛んだラッキーガール!!」
そんな浮かれまくりのジュディさんとやら。
シンマ人には絶対に付いて行けない高テンションは誰にも止められないと思われたが……。
「ふざけるな!!」
そこへ真っ先に噛みついてきたのは巨漢タチカゼだった。