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35 同じ根源

「と言いますと?」


 何だか、話の流れが変わって僕もクロユリ姫も戸惑う。


「モナド・クリスタルは、魔力の変換器にして貯蔵器。魔力をクリスタルの中に溜めこみ、術式に応じて質を変換させることができる万能器だ。これがあるおかげで我々は魔法を使える」


 とさらに説明を続けるルクレシェア。


「我らフェニーチェ法国は何百年にも渡ってモナド・クリスタルを研究改造し、魔力貯蔵量、変換効率、強度や軽さを格段に向上させてきた。フェニーチェ法国の魔力技術発展の歴史は、モナド・クリスタルの発展の歴史と言っていい!」

「はあ……!」

「あの、ルクレシェアさん。ちょっといい?」


 意気高々に語るルクレシェアを抑えて、僕は尋ねる。


「今一回触れかけた本題から離れて、誤魔化そうとしたよね? 一番大事なこと話そうとして、やっぱやめた、ってしたよね?」

「うぅッ!?」

「大事なことをちゃんと話そう。その水晶に込められていた魔力が……」


 もうなくなっている、って言ったよね?


「つまりモナド水晶はスッカラカンで、魔力は残っていない。そうなると……!」


 魔法はもう使えない?


「……仕方ないのだ」


 ルクレシェアは搾り出す声で言った。


「あの城壁を作るのに滅茶苦茶魔法を使ったから、モナド・クリスタルに貯蔵された魔力も全部使いきって……! 元々一番魔力を溜めていた大型モナド・クリスタルは、沈められた軍艦の中に……!」


 まあ、あんなに巨大な城壁だから、アレを作る代わりに力を使い果たしたとしても納得だが。

 でもあの壁、結局ハッタリ以上の効果は望めなかったわけだから、それのためにすべての力を使い果たすのもどうかと……!


「じゃあ、結局手伝いはできないってことじゃない」


 と冷静に指摘するクロユリ姫。

 だよなあ、力の源である魔力が尽きて、魔法が使えないのでは。


「どうにかして、その、魔力を補給することはできないの? そうすればまた魔法を使えるんでしょう?」

「フェニーチェ本国に帰らなければ……! どうにも……!」


 さっきの得意満面の雰囲気はどこへやら、すっかり意気消沈してしまったルクレシェア。

 そんなに打ちのめされるなら最初から「手伝う」なんて言わなきゃいいのに。

 何がしたかったんだこの子は?


「あ、あの……、気持ちだけ有り難く受け取っておくから、今は大人しく見守っていて。ね?」

「そうだな、ルクレシェアもいつか活躍する時が来るかもしれない。きっと」


 僕とクロユリ姫で寄ってたかって慰めることとなったが、しかしそんな弱々しいルクレシェアじゃなかった。


「慰め無用!」


 崩れ落ちかけていたルクレシェアが、再び力強く立ち上がる。

 そろそろ、この子のことがよくわからなくなってきた。


「実を言うと、我にいい考えがあるのだ!」

「いい考え?」

「フェニーチェに帰って魔力を補給することなく魔法を使う方法だ! それには、ユキムラ殿たちの協力が必要不可欠なのだ!」


 え?

 そっちがこっちの協力してくれる話じゃなかったっけ?


「頼む! 是非とも我に力を貸してくれ! 試してみたいことがあるんだ!!」


              *    *    *


 そして。

 結局ルクレシェアに押し切られるような形で外へ出てきてしまった。

 城壁の内側。まだ何も建っていない平らなサラ地に、僕とルクレシェア、それにクロユリ姫が並ぶ。


「僕……、最初に会った頃よりルクレシェアに甘くなっているような……?」

「当然でしょう、今や彼女は、アナタの妻の一人なんだから」


 クロユリ姫から何とも言えない指摘を頂き、ぐうの音も出ない僕だった。


「で、僕らは何をすればいいんでしょうか?」


 屋外まで連れ出され、ここから何が始まるのか?


「うむ! ではユキムラ殿、手を出してくれないか!?」

「え?」


 一瞬戸惑ったが、協力すると約束した以上拒むこともできず、言われた通り手を出すと、躊躇なくガッツリ握ってくる。

 別に初めてではないが、女性の小さくて冷たい手の感触にやっぱりドギマギせずにはいられない。


「それからユキムラ殿、雷剣を出してくれ」

「ええッ!?」

「そっとだぞ! ……できるだけ最小限の出力で、だ」


 ルクレシェアは何をやろうというのか?

 仕方なく指示の通り、出来る範囲の一番弱い力で雷剣を作り出す。


 しかし、そうして雷剣を発生させた手を、ルクレシェアが握っているのだ。

 普通ならば危険。絶対にできないことだが、ルクレシェアのあまりに自信に満ちた表情に押し切られてしまった。


 そして実際に、恐れた危険はなかった。

 今、雷剣は最大限に出力を絞って、剣の形すら構成していない。掌に僅かな稲妻をまとわせている、そんな状態。


 そんな手に触れたルクレシェアの手は右手で、そこには例のモナド・クリスタルの腕輪がはめてあった。


「行くぞ……!」


 ルクレシェアが何かを始めた。

 次の瞬間、驚くべきことが思った。

 僕の手から発生した雷光が、ルクレシェアの手を伝って、モナド・クリスタルへと移った。

 雷が、水晶の中へと吸い込まれていく。


「!?」

「えッ!? えッ!? えええッ!?」


 その現象に僕もクロユリ姫も驚き戸惑う。

 そしてただ一人、事の成り行きを把握していたルクレシェアだけが……!


「やった! やったぞ! モナド・クリスタルに魔力が蓄積されて行っている! やはり仮説は正しかったのだ!!」

「え?」

「我々がモナド・クリスタルを通して操る魔力と、シンマの人々が『命剣』として操っているエネルギーは同種のものであると! 『命剣』のエネルギーを分けてもらえば、我々はいくらでも魔法を使うことができる!!」

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ソードマスターは聖剣よりも手製の魔剣を使いたい
同作者の新作スタート! こちらもよければお楽しみにください!
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