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29 雷領主ユキムラ

「そもそもの問題の発端は、この旧雷州が無主の地であることによる」


 ?

 いきなり何を言い出すんだユキマス陛下は?


「今を去ること百年前、シンマ王国の成立と共に民は強制移住を命じられ、雷州は人の住まぬ土地になった。すべては雷公ユキムラが、その死まで初代ヤスユキ王への臣従を拒んだ結果……!」

「何を言っている? ユキムラ殿なら今目の前で生きているではないか?」

「ルクレシェアさん、あとでしっかり説明するから、ね?」


 シンマ王国の歴史に詳しくないルクレシェアには、別個の説明がたしかに必要だろう。


「以後百年、旧雷州には都市どころか寒村一つも、人っ子一人住みつくこともなかったわけじゃが、それが却っていかんかったのう。我らの目が行き届かず、こんな拠点を建てられることとなってしもうた」


 言われて僕は、改めてルクレシェアが建てた拠点基地を見渡してみる。

 見かけだけで中身のない張りぼて基地だが、その張りぼて自体が物凄い技術で作られたものだ。

 フェニーチェの技術力には、やはり驚嘆せざるをえない。


「もはや雷公ユキムラは伝説となり、この地に残るいかなる蟠りも風化して消え去った。ならばこそ、ここを無主の地としたままでは天下の損失。再び放置すればいつまた此度のように、知らぬ間にこの地を密か占拠する者が現れんとも限らん」


 まあたしかに、一言一句仰る通り。


「そこでユキムラ」

「はい?」

「おぬしに命じる。この旧雷州を、シンマ王国の新たなる国土、雷領と改め、おぬしがその領主となれ」

「はい。……はいッ!?」


 あまりに突拍子もない命令に、僕もビックリするしかない。


「領主!? 僕が領主ですか!?」

「左様」


 左様って!?


「現在シンマ王国には、シンマ王家直轄領を除けば、風領、林領、火領、山領の四領があり、それぞれを四天王家が治めておる」


 四天王家はかつて、影公ヤスユキと天下の覇を競い合った末に降伏した風林火山四州の大公家でしたよね。


「そして五番目の領となる雷領をユキムラ、おぬしに任せるのは自明のこと。雷公ユキムラの死により失われたはずの雷剣を復活させたおぬしには、その資格がある」

「でも、何故それを今……!?」

「ユキムラ……。おぬしはこの地の主として、帰還の手段を失ったフェニーチェの者どもを預かるべし」


 ……!?

 そう言うことか!!


「いずれやって来る新たなるフェニーチェ特使との窓口も、この雷領を使う。ユキムラ、おぬしには、その準備まで含めた総指揮を任せる!!」


             *    *    *


 こうして今度こそ話はまとまった。

 シンマ王国の最強権力者たるユキマス王に、大方針まで示されては誰にも逆らえない。


 僕は雷州改め雷領の新しい領主として、この地を預かることになった。

 ルクレシェアを始めとする、フェニーチェの漂流者たちを含めた。


「……あのバカたちをけしかけたのは、アナタだったんですね?」

「はて、何のことかのう?」


 深夜。

 ユキマス王の寝所としてあてがわれた拠点基地の寝室で、僕たちは酒を酌み交わしていた。

 ただの酒席というわけではなく、昼間の決定に継続して行われる密談だった。


「僕の決断に異を唱えて、やたら突っかかってきたバカ者たちです。いくらなんでもクロユリ姫に対してまで歯に衣着せなさすぎでしたからね。アナタが後ろにいなければ、あそこまで怖いものなしにはいかんでしょう」

「おかげでおぬしの逆鱗に触れたがの。本当に度し難いバカ者たちじゃ」

「その目的は、僕の指導力を見届けるためですか?」


 あの程度の反発を抑え込めないようでは、新たに一領任せることなどとてもできない。


「見届けるのではなく、見せつけたかったのじゃよ」


 ユキマス王は、みずから持ち込んだシンマ酒をちびちびしながら言った。

 まず明日から、この干からびかけた拠点基地にジャンジャン食料を運び込まないといけない。


「ユキムラ、おぬしが一領の主に相応しい者じゃとな。あれだけの威容を見せつけてやれば、シンマからもフェニーチェからも文句は出まい。ま、予想以上に怖かったがの。余もおしっこチビりそうじゃった」

「フェニーチェだけでなく、シンマ王国まで?」

「応よ。ユキムラ、この一連の騒動について、もっとも最悪な事態はなんだと思う?」

「シンマとフェニーチェが戦争状態に入って、こちらが負けることですかね」

「出来れば戦争に入ること自体避けたい。そのためにはフェニーチェだけでなく、シンマ側にも解決しなければならない問題がある」


 シンマ側にも?


「おぬしも見たじゃろう? あのバカどもの血の気の多さを」


 ルクレシェアたちを助けると決めた時、反対と食って掛かったあの連中か。

 たしかにシンマ国民の、フェニーチェへの反発は凄まじいものだ。

 いきなりやってきてシンマの誇りというべき『命剣』を露骨に要求する図々しさや、あげくシンマ王都砲撃までやらかして、国民の悪感情は最高潮と言ってもいいだろう。


「それでも最悪を避けて冷静に対処しなければならんのが、王の辛いところじゃ。今シンマ国内は『夷狄討ち払うべし』の空気に満ちておる。それなのにフェニーチェ側は、引き下がる気配はない。このまま行けば……!」

「……衝突必至」

「いかにも。ユキムラ、今回おぬしは実に上手くことを治めてくれた。これでしばらくは……、少なくともフェニーチェ本国から新たな使者が来るまで、大きくことは動くまい」

「しかし本質的な解決ではありません。……時間は稼げましたが」

「充分じゃ、余は明日にもシンマ王都へ戻り、国内のまとめ上げに全力を尽くす。おぬしが稼いでくれた時間を使っての。おぬしはここで、さらなる時間稼ぎに勤めてほしい」


 それが領主に抜擢された僕の務めというわけか。


「しかし、時間稼ぎといっても何をすればいいのか……?」


 既に今の状況が、フェニーチェからの新しい使者の到来なければ動きようがない以上、ことさら僕が何かして時間を稼ぐようなことは……?


「いや、むしろしてほしくないことがあるんじゃよ」

「?」

「あるじゃろう、おぬしが仕込むことで、大いに状況が動く事柄が」

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ソードマスターは聖剣よりも手製の魔剣を使いたい
同作者の新作スタート! こちらもよければお楽しみにください!
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