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134 成果

 あれから七年が経った。


 王歴百二十三年。


 僕にとって祖国の暦年は自分の年齢+百すればいいだけなのでわかりやすい。


 つまり今僕は二十三歳。


 シンマ武士としては立派に一人前と言っていい年齢。

 とはいえ今の僕は肩書き的にも一人前どころの騒ぎじゃないんだけど。

 雷領領主に就任してより、これまた七年。


 僕も領主としての肩書きがすっかり板についてきたように思える。

 という風にしておきたい。


 我が雷領も七年に及ぶ開拓事業が実を結んできたというか、発展を遂げている。

 シンマ、フェニーチェ両国の文明交流という名目で出発した我が雷領。


 その主題にぶれず、我が領には七年間常に新しいものを求める若者たちが集い、新しいものをみずから生み出していった。


 タチカゼとジュディが経営する道場と研究所が主軸となり、フェニーチェ魔法技術をさらなるステージへと昇華させている。


 だが雷領発展のもっとも目に見える明確なところは、遺憾なことにそこではない。


 マルヤマ遊郭とシンマ・フェニーチェワールド。


 その両輪だ。


 マルヤマ遊郭は、男なら誰でも味わいたい美女の花園。

 金を払って礼儀を守りさえすれば誰でも極上の美女を抱ける。シンマ、フェニーチェの文化交錯点である雷領に居を構えるマルヤマ遊郭では、その両国の美女を遊女として抱えているため、それぞれの国の男が異国の美女を抱くのにもっとも簡単な手段がマルヤマ遊郭だった。


 そしてそれはシンマの中に数ある遊郭の中でも、他のどこにもないアドバンテージというヤツだった。


 こういった真新しさは、少し経てば飽きられるとばかり思っていたが、遊郭が開かれて七年経った今も盛況なところを見ると、想像以上に強力なアドバンテージだったのだろう。

 経営者が超敏腕だった、ということもあるが。


 もう一方で盛況なのがシンマ・フェニーチェワールド。


 テーマパークとかいうフェニーチェ法国の一大娯楽がシンマに上陸したものであるが。

 こっちもまあ七年経とうとまったく客足が衰えない。

 こないだ通算来場者数が何万人だが何十万人だかに達したとかで記念イベントをやっていた。

 何百万人だったかな?


 とにかく繁盛しているということだ。


 シンマ全土から集まってくる来場者も多いが、シンマ支店のオリジナルコラボキャラクターとやらになったクマモンがまた目玉となって、本家フェニーチャからわざわざやってくる人までいるとか。


 マルヤマ遊郭には世界中の男たちが。

 シンマ・フェニーチェワールドには世界中の子どもたちと女性客が。


 という感じで雷領は今や一大観光地。

 両主要施設から登ってくる収益を街の発展に回し、田畑をガンガン広げて自給率を上げて、今では雷領はどこからの援助も必要なく独立してやっていけている。


 まったく何もないまっさらな状態から、たった七年でよくここまで来れたものだと我ながら感心する。


 そして一方、僕個人としての近況だが……。


              *    *    *


「見て見てユキムラ! ユキヨシがお箸を使えるようになってきたわ! まだ二歳なのに、アナタに似て英邁に育ったわね!」

「くう……、ウチのエレノアはまだ一歳だから、そこまでは……! まあ半分はシンマの血が流れているんだから、箸もそのうち使えるようになる!」


 クロユリとルクレシェアが、我が子の振る舞いに一喜一憂している。


 二人がお腹を痛めて産んだ子は、双方僕の子どもだった。

 まあ、二人とも僕の妻なので極めて自然な流れだが。


 雷領が出来てから七年ということは、彼女らと僕が出会ってから七年ということでもある。

 それだけの時間があれば、いかに僕がグズグズしようとなるようになってしまう。

 というわけで、僕も今では立派な父親。

 領主という社会的地位から妻を二人以上持ったところでまったく問題なく、クロユリとルクレシェア同士の仲もいいということで円満に家庭は収まっている。


 最近では三人目の妻を……、みたいな話があちこちから持ち掛けられているが、なんとか食い止めている状況だ。


 子どもが生まれたのをきっかけに、王都に暮らす家族もついにこちらへ呼ぶこともできて、自宅兼領主居館はまあ賑やかに。


 雷領領主の生活は、公私ともに問題もなく順風満帆に過ぎ去っていくかに見えた。


 が、何事にも好事魔多し。


 雷領の存続自体を脅かしかねない緊急事態が勃発した。


 シンマ王ユキマス陛下の不予である。


 不予とはつまり、病気で倒れられたということだ。

 ユキマス王は歴代シンマ王の中でも特に治政が長く、体調の面もそろそろ心配されていた矢先のこと。


 雷領に住む僕にも至急王城へ上がるようにとの知らせが来た。

 病状はそれほど悪いということなのだろうか?


 ユキマス王は、下級武士の息子でしかなかった僕に目を掛けて、ここまで引き立ててくださった方。

 僕が雷領領主になれたのもあの方のお陰であるし、雷領発展のために様々な援助を惜しみなくしてくださったのも、あの人だ。


 あの人なくして僕はここまで来ることもできなかったし、あの方の娘であるクロユリを嫁に貰った以上は、僕らは義理でも親子だ。


 そんなこんなで取り急ぎ雷領を出て、シンマ王国首都にある王城へ駆けつけたところ。


              *    *    *


「おおう、久しぶりじゃのう! まあ楽にしなさい」


 超元気なユキマス陛下のご尊顔を拝することになった。

 一応寝床に臥せってはいるものの、その様子は今にも外へ遊びに行きたくてうずうずしている子どもみたいな感じ。

 一緒に連れてきた我が子ユキヨシとエレノアを相手に戯れている。


 体からどっと力が抜けていった。


「お父様、なんで元気なんですか?


 それは我が愛妻クロユリも同じようで、実の親子であるからには不予の方を聞いて僕以上に心配したのは彼女だったろう。

 王女であり領主夫人として、生まれ故郷に舞い戻った彼女は、ひたすら脱力していた。


「だって、こんな時でもないと可愛い孫の顔を見せてくれんではないか、おぬしら。ずっと遠くに暮らして便りも寄越さんし」

「ユキムラを雷領領主に封じたのは、そもそもお父様ではないですか。ユキムラだってそう頻繁に自領を空けることなどできませんし、わたくしだって、そんな夫の傍をおいそれと離れるわけにはいきませんわ!」

「へいへい、まったくクロユリは母親になってキツさが増したのう。人妻の色気はムンムンじゃが……」


 自分の娘になんて物言いですか王。


「あの……、それより我もここにいていいのだろうか?」


 もう一人の我が愛妻ルクレシェアは、なんだかシンマ王城にて所在なげだ。


 彼女は元来フェニーチェ人として、この中では唯一ユキマス陛下と直接的関係はない。

 その上七年前の軍監砲撃騒動以来、ずっとフェニーチェ人がシンマ国内にて雷領の外に踏み出ることがなかったのが、ついに破られた形だ。


「何、このユキヨシの妹とあれば、エレノアだってワシの孫に相違ない。孫の顔を見せてくださって礼を言うぞ」


 とユキマス陛下母親譲りの金髪の孫娘を抱きかかえてご満悦。


 本当に孫の顔見たさに病状を大袈裟に触れ回っただけのようだ。

 仕方のない王様だなこの人は。


「まったくもう、仕方のないお父様。こんなおじいちゃんは放っておきましょうねユキヨシ」

「ああ、待って孫を取り上げないで! もう少し交流を!」

「お黙りなさい。これからユキヨシとエレノアちゃんはお昼寝の時間なんです。夕方になったら遊ばせてあげますから。行きましょうルクレシェア」

「お、おう……!」


 そう言って我が愛妻二人は、それぞれの子どもを抱えて部屋を出てしまった。

 ユキマス陛下はさも残念そうな顔をして……。


「まったく女というのは、母親になると途端に自分の子ども以外にすげなくなる。ユキムラよ、おぬしは大丈夫か? 子ども第一でないがしろにされたりはしてないか?」

「そんなことはないですよ」


 クロユリもルクレシェアも、たしかに母親になって変わったところもあるが、可愛いところは可愛いままだ。

 それは寝室で毎晩のように再確認できている。


「ほっほっほ……、これは二人目三人目も早々に見られそうじゃの。問題は、余がそれまで生きていられるかじゃが……」

「またそういう脅かしを言う」


 妻たちが子どもを抱えて退室してしまったため、国王の寝室には必然、僕とユキマス陛下二人だけになってしまった。

 護衛の小姓一人すら置かないのが、何やら不審に感じた。


「そうでもないよ、余は王だが、だからといって不死身でいられる道理もない。そして余が王である以上、余の終わりと共に様々なものが一緒に終わることもありうる」

「陛下……?」

「備えは、早いに越したことはない、ということよ。余が去って後もシンマ王国は永続せねばならん。おぬしの雷領もな」


 いきなり真面目な話をしだした。

 ユキマス陛下の仰りたいことは。


「これを期に舞台は整えておいた。あとはおぬしの力で成し遂げてみるがよい。

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ソードマスターは聖剣よりも手製の魔剣を使いたい
同作者の新作スタート! こちらもよければお楽しみにください!
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