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128 敗者の戦法

「シンマとの交流を、滅茶苦茶に……!?」


 いきなり現れた反乱連合の残党から、この上なく不穏な言葉が出てきた。


「そうです、今やフェニーチェとこの未開国との交流は、アレクサンドが進退をかけて挑む一大事業。それを邪魔し、頓挫させることこそ、あの悪魔にこの上ないダメージを与えられる」

「残党の限られた戦力でも容易に遂行できると……?」

「そうです、手始めに我々は、この地で破壊活動を行おうと思います」

「!?」

「法王アレクサンドの命……、と触れ回りながらこの未開国の住人を虐殺して回るのです。未開人どもはアレクサンドを恨み自然、交流はご破算となりましょう」

「本気か……?」


 いや、正気か……?


「起死回生の望みを懸けて、移住者の船に紛れ込んで当地へ上陸。あとはいつ決行するか機会を窺っていたところ、偶然にもアナタに邂逅できた、というわけです」


 相手は既に、オレのことを仲間とみるような目つきだった。


「決死で臨む聖戦を前に、アナタのような剛の者に出会えたのは、まさに亡きマリアージュ公のお導き! どうか『金剛騎』レイオン殿、是非とも我らが反攻作戦に御助力ください!」

「アナタが作戦に加われば、成功は約束されたようなもの!」

「上手くことが成れば、シンマとフェニーチェは戦争に突入するでしょう! 無益な戦争に疲弊して、アレクサンドの政権は弱体化するはずです!!」

「人心がアレクサンドから離れ、不満が噴出した時こそ我らの復讐の狼煙上がる時!!」


 周囲に控えていた者たちも一斉に騒ぎ出す。


「フェニーチェ本国にて溢れる不満分子を糾合し、再び巨大なる反乱勢力をまとめ上げることができれば、今度こそアレクサンドを法王の座から引きずり下ろすことができます! どうかレイオン殿! 我らの同志に!!」


 なんて連中だ……!

 自分の目的さえ叶うなら、他の関係ない者たちを殺し踏みにじってもいいと考えているのか。


 フェニーチェの内乱は、あくまでフェニーチェの中だけのもの。

 それをまったくの部外者であるシンマ王国にイザコザを持ちこみ、あまつさえ部外者のシンマ人を傷つけようというのか。


 それは戦争のルールに完全に反している。

 戦争にも本に書かれていない最低限のルールがあって、それを守るからこそ命の奪い合いをした者たちが、終戦の宣言と共に手を取り合って前に進むことができるんだ。


 コイツらのしていることは、戦争でも何でもないただの犯罪行為。

 憎しみを無限にとめどなく垂れ流す外道の行いだ。


「……わかった」


 オレは絞り出す声で言った。


「お前たちに協力しよう。決行の前には必ず声をかけてくれ……!」


              *    *    *


 意に反していながらも、ヤツらに同調せざるを得なかったのは、オレにはそれ以外に取れる方法がなかったからだ。


 ここシンマ王国での充実した暮らしに忘れそうになるが、オレはあくまで投降した敗軍の将。

 本来、我が主マリアージュ公共々処刑になるべきところを、レーザの気まぐれによって生き永らえている身だ。

 今のオレは、マジックワールドでフェニーチェ・ドードーを演じることによってのみ生存を許されている。

 それを辞めて本国へ勝手に帰ることは無論できないし、それ以外にも、戦争に負けるまでは当然自由だったいくつもの事柄が当然不自由になる。


 その際たるものがモナド・クリスタルの携帯だ。


 モナド・クリスタルは、聖遺物より分け与えられた魔力を保存し、魔法に変換する装置。

 フェニーチェの魔法士は、モナド・クリスタルなくして魔法を使うことができない。


 レーザの下で虜囚となったオレには、当然モナド・クリスタルの携帯は厳重に禁止されていた。

 もし今もオレの腕にモナド・クリスタルが輝いていたなら、あんな時代を読み損なった連中あの場で全員叩き伏せてやったのに。

 今のオレにはその力がなかった。

 オレにできることはただ一つ。ウソをついてでもこの場を切り抜け、迫る危機を誰かに通報することだけだ。


「これが無敵の傭兵隊長と言われた男の振る舞いかよ……!」


 生爪が剥がれるような不甲斐なさを噛みしめつつ、オレは帰路を急いだ。


              *    *    *


 オレがこの緊急事態を打ち明けられる相手は、自然と一人しかいなかった。

 シンマ・マジックワールドの支配人だ。


「まさか……、そんなことが……!」


 オレの前歴まで含めた事情を知る数少ない一人。

 今日ばかりはオレの怖い目つきにビビっている場合ではない。


「とにかくヤツらの目論見が実行されれば、とんでもないことになる。率直に言って、今シンマに渡っているフェニーチェ人全員の危機だ」


 残党どもの妨害工作で交流事業が破壊されることはレーザにでも心配させておけばいい。

 しかしもっとも最初に実害を被るのは誰でもない現地の人間たちだ。


 異国で孤立するフェニーチェ人もだが、何の関係もないのに攻撃対象となるシンマ人だっていい迷惑どころの話ではない。


 意味もなく無関係な場所に憎しみをばらまくテロこそ、戦争ですらないもっとも卑劣な犯罪行為だ。


「とにかく、早急にヤツらを制圧しなければいけません。シンマ側に無用な不信感を持たせないためにも、ここはすべてフェニーチェの手勢で解決したい。駐留兵を密かに動員して……!」

「いない……!」


 なんだと……!?


「ここシンマにフェニーチェの駐留兵はいないんだ。これまで散々外交上で下手を踏んできたフェニーチェ法王庁は、シンマ王国への信頼を得るため兵力を一切現地に置かないことにした」


 本当か……!?

 フェニーチェ・ドードーとしての責務に集中していたとはいえ、このオレが現地の兵力状況を把握していなかったとは。

 それだけフェニーチェ・ドードーを演じることに夢中になっていたということか……!


「今、現地滞在のフェニーチェ人保護は、雷領領主に完全に一任している。彼は法王令嬢を妻にしているから、フェニーチェ人からの信頼度はとても高いんだ。今回の件も、彼に連絡して動いてもらうのが最善だと思う……!」

「……オレに、モナド・クリスタルを持たせてくれませんか?」

「!?」

「そうすればオレの手で、ヤツらを一網打尽にできる。仮にあの領主にことを治めてもらっても、フェニーチェがまた不祥事を起こすところだったという事実は残る。その前にオレが……!」

「バカを言わないでくれ! キミは自分がどういう立場だかわかっているのか!?」


 支配人の悲鳴のような叱責が飛ぶ。


「私はキミの身柄を預かる時、レーザ様の使いからキツく言われているんだ! キミにモナド・クリスタルを持たせては絶対いけないと! もし指令を破ってキミがモナド・クリスタルを持ったら、その時点でキミの処刑が決定されるんだ!!」

「……ッ!!」


 イラつくことだが、その決定は実に正しかった。

 オレはこの問題を、他人の手に委ねて傍観するしかないのか?


 今のオレは傭兵隊長レイオン=オルシーニではなく、フェニーチェ・ドードーの中の人。

 オレはもう、危機に立ち向かって行動する資格はないというのか。

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ソードマスターは聖剣よりも手製の魔剣を使いたい
同作者の新作スタート! こちらもよければお楽しみにください!
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