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127 消せぬ過去

「お前らは……、まさか……!?」

「アナタと同じ、マリアージュ連合の生き残りでございます」


 マリアージュ。

 それこそオレがかつて仕えた大貴族の家名だった。

 我が主が行く先を誤って引き起こした反乱。その反乱の主体となった反乱軍には、盟主マリアージュ公の名をそのまま取って『マリアージュ連合』と呼ばれた。


 その連合の末路は改めて語るまでもない。

 レーザ=ボルジアの天才は、愚かな反乱者たちを完膚なきまでに打ちのめして、首謀者クラスは全員虜囚となったのち公開で処刑された。

 それ以下の反乱に連なった者たちも軒並み捕えられ、投獄、流罪、貴族の称号剥奪などわずかな例外を除いて無事だった者はいないと言われている。


 恐らくコイツらは、その僅かな例外。

 マリアージュ連合崩壊の混乱に紛れて、法王庁の追跡から奇跡的に逃れたか。


「しかし、そんな連中が何故ここにいる?」


 ここはフェニーチェ本国から遠く離れたシンマ王国だぞ。

 逃亡犯が紛れ込んでいい場所じゃない。

 ……あ、いや。

 国外だから逃亡潜伏先としては都合がいいのか?


「……こんな地の果てで、アナタにお会いできたことは。最強の傭兵隊長レイオン=オルシーニ殿。『金剛騎』の二つ名を持ち、戦場を駆ければ千の死体を作り上げるというアナタの武勇、私めの耳にもしかと届いております」

「一体何の用だ?」

「我らが大恩ある主マリアージュ公が、邪悪なるアレクサンドの手によって処刑され、フェニーチェ本国は暗黒大陸と化しました。我らは亡き主のご遺志を継ぎ、アレクサンドに正義の鉄槌を下さんとする者です」


 要は反乱軍の残党というわけか。

 戦いはもう終わったというのに、なんと不毛な……。


「連合崩壊後は地下に潜り、なんとかして僭法王アレクサンド十三世打倒の糸口を探っておりましたが、その途上アナタを発見することになろうとは! これも亡きマリアージュ閣下のお導きにございます!」


 オレの知らない人間が、オレのことを知っている。

 これも傭兵隊長として名が売れたことの余禄か。しかしかつての経歴を失った今のオレにとっては迷惑である以上に不気味なことだった。


「何かをオレに期待しているなら、お門違いだと言っておこう」


 オレは決然と言い放った。


「オレは一応、今のところも法王庁に身柄を管理されている。今日ここでお前たちに会ったことも報告しなければならない身の上だ」


 これ以上オレに関わっても損することにしかならないぞ。

 そう言って追い払おうとしたが、相手は思った以上に粘着質だった。


「何を仰います! ここで我々と出会えた以上、既にアナタは自由の身ではないですか! 脱出後は我々の下に身を寄せてください! 共に協力し合って、亡主の無念を晴らしましょうぞ!」


 やはりそういう魂胆だったか。

 地下に潜って現法王庁への抵抗を続けるレジスタンス。それを謳うコイツらにとって戦時名を馳せたオレという存在は、さぞかしおいしそうに見えるだろう。


 しかし、俺にとってはやはり迷惑だ。


「不可能だ」


 オレはキッパリと言った。


「現法王庁を打倒するなど、奇跡が起きようと不可能だ。出来ないことに心血を注ぐなど痴者の所業でしかないぞ」


 地下レジスタンスなど、その規模はマリアージュ連合最盛期の何百分の一だ? それとも何千分の一か?

 そんな一軍にも満たないような勢力で、今やフェニーチェ全体を席巻するレーザ=ボルジアの軍勢にどう対抗する?


 しかもコイツらは、さっきから罵倒する相手が現法王アエレクサンド十三世しか挙がらない。

 実際にマリアージュ連合を粉砕し、フェニーチェ法国を牛耳っているのは父親のアレクサンドではなくその息子レーザだ。

 その名がまったく出てこないということは、つまりコイツらには真の敵も見えていないということ。

 それでどうやって勝つもりなのだ?


 しかし愚か者は、自分が愚かだと気づかないから愚か者なのだ。


「何を仰います! 『金剛騎』とも呼ばれたアナタ様がなんと弱気な! 敗北に気が挫けていらっしゃるのでしょうが、弱きは禁物です。我らが諦めさえしなければ、正義は必ず実現します!」

「どうやって実現させる?」


 こうした夢想家は、具体性を尋ねることで大抵黙り込む。

 構想を実現するには具体的なプロセスが必要であり、夢想にはそれが決定的に書けるからだ。


 少なくともこれで目の前にいるのが現実を読めない夢想家かそうでないかがハッキリする。


「無論、その点はレイオン殿とて気になりますでしょう。しかしご心配は無用、我々にはたしかな策があります」

「ほう?」


 本当だろうか?


「そもそも、何故我らがこの地で邂逅できたか、レイオン殿はおわかりになりますかな? こんなフェニーチェ本国から遠く離れた、文明乏しい未開国で……?」

「……ッ」


 ヤツの言い様に、少し苛立ちが走った。


「アレクサンドは何故かは知りませんが、この国にえらく執心している様子。己が娘をこの地の実力者に嫁がせ、軍政を一手に担わせたヤツの息子もこの地を一度訪れております」

「ほう」


 レーザまで直接ここへ来ていたとは初耳だ。

 やはり、この国はフェニーチェにとって想像以上に重大な場所?


「ヤツらは、この国と交流を結ぶことに躍起になっております。国内の反乱をほぼ平定し終えた今、興味が向くのは国外ということでしょうか?」


 シンマ・マジックワールドの建設もその一環だろうしな。

 で、そこからどうなる。


「その交流を滅茶苦茶にしてしまえば、アレクサンドにとって相当なダメージにはなりますないか?」

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ソードマスターは聖剣よりも手製の魔剣を使いたい
同作者の新作スタート! こちらもよければお楽しみにください!
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