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117 遊びは文明

 そして夢のようなマジックワールドから領主邸宅に帰ってきて、クロユリ姫とルクレシェアはまだまだ夢見心地だった。


「楽しかったわねルクレシェア! また行きましょう!」

「応ともよ! 正式オープンされたら月一ペースで遊びに行くぞ! きっとシンマの人々もマジックワールドを心から気に入ってくれることだろう!!」

「雷領ばかりでなく、シンマ中から人が集まって来そうね!」

「人が来ればお金も落とす! マジックワールドは、雷領の経済状況にも大きな潤いをもたらすこと間違いなしだ!!」


 恐らくルクレシェアたちの言うことは正しい。

 マジックワールドというか、テーマパークとはそういう目的を持った施設だ。


 娯楽によって多くの人々を集客し、利益を得る。


 あれだけの大掛かりな娯楽は、これまでのシンマにはなかったものだ。多くのシンマ人が驚かされ魅了され、全国から集まってくることだろう。


 しかし彼らの目的は、ただ利益を上げることだけか?


「……違う」

「「え?」」

「あのマジックワールドのアトラクション施設は、凄まじい魔法技術によって作り出されたものだった。恐らくはフェニーチェ本国においても最先端の魔法技術だろう」

「そうだな、マジックワールドカンパニーはそういうところが物凄く勤勉なのだ。研究者が新たに結実させた最新技術をすぐさま取り込んで、見事なアトラクションに変えてしまう」

「そうじゃない」


 僕は立った。


「マジックワールドが取り込んでいるんじゃなく、むしろマジックワールドに売り込んでいるんだろう」

「え?」

「最新魔法技術の宣伝のために」


 どんなに物凄い技術でも、広く知れ渡らなければその価値は半減してしまう。

 だから何らかの手段で最新技術の存在、その有用性を広く知らしめなければならない。


「一番有効なのは戦争だろう。新技術によって敵の千人万人でも仕留めれば、その有能性は自然と人の口に乗って広がる」


 しかし戦いは、そう都合よく起ったりはしない。

 そうした時期を選ばず、また効果的に喧伝することのできる手段があるとしたら、それは娯楽だ。


「まさにあの……、マジックワールドのように……!」


 マジックワールドに居並ぶアトラクションの数々は、来場者を驚かせ、大きな印象を心に刻みつけるだろう。

 それはアトラクションに使用された魔法技術への憧憬と同義だ。


 マジックワールドを雷領に建てるよう推し進めたのは『凛冽の獅子』レーザ。

 政治人として、恐ろしく冷徹なところのあるヤツが、単にお祭り騒ぎをしたいだけであの施設を雷領に送り込んだとは思えない。


 恐らくは娯楽を隠れ蓑にした、フェニーチェ魔法技術の宣伝。

 それこそレーザが、マジックワールドを雷領に送り込んできた真の目的だろう。


 娯楽施設にてフェニーチェの肯定的な心証を引き出しながら、惜しげもなく使われた魔法アトラクションで、その技術力を無自覚のうちにシンマ国民に刷り込ませる。


 しかもマジックワールドのアトラクションは、フェニーチェ法国の歴史や文化を題材にしたものが多い。

 アトラクションで遊ぶだけで自然にフェニーチェのことを知ることができ、利用者が無自覚のうちにフェニーチェへ近くなっていく算段か


「クロユリ姫の言う通り、マジックワールドはシンマ人が今まで経験したことのない娯楽だ。恐らく国中からお客が集まってくるだろう」


 雷領領主としては、自領が賑やかになることは喜ぶべきだが、果たして素直に喜んでいいものか?


「あまり深く考えすぎることはないんじゃない?」

「そうだぞ、シンマとフェニーチェの理解が深まり合うのは、我々にとっても都合がいいじゃないか」


 たしかにマジックワールドの展開に裏の思惑があったとしても、それは僕たちにとって都合の悪いことではない。

 色々と深刻ぶって考えてみたけど、とどのつまりはこのままにしておくのが都合いいか。


「そういうわけにもいかないくま!!」


 バシーンと室内に乱入してくるクマ。

 それはもう見慣れてしまったクマの着ぐるみだった。


「あ、『やまくま』だ」

「いらっしゃい、お茶でも飲みます?」


 ルクレシェアやクロユリ姫の反応がすっかり落ち着いたものとなっていた。

 少し前までは現れるたびキャーキャー言っていたのに……。


「どんどん反応が薄くなっていくくまー! それもこれも、あのドードー言うヤツのせいくま!」


 ん?

 ああ……。


「フェニーチェ・ドードーか。たしかに似通っているよなキミたち……」


 いや、ただ単に着ぐるみ着てることぐらいしか共通点がないけれど。


「このままヤツに好き放題のざばらせては、ボクの宿願である山領復活の計画が崩れ去ってしまうくま! ここは、一発逆転の手が必要くま!」

「と言うと?」

「今日はそのことでお願いに来たくま! このボクと、あのドードーの決闘を許してほしいくまー!」


 決闘って……!


「そんな、物騒すぎやしませんか?」

「そうだとも。こんなに可愛いキャラクター同士で殴り合いを演じては、子どもたちの夢が一撃粉砕されてしまうぞ?」


 邪魔するものは力ずくだ排除するという発想もいただけないしなあ。


「心配無用にありんす」


 そしたらまた新たに入室者が。

 モウリ=カエン嬢じゃないか。最近『やまくま』現れるところには必ず出てくるな?


「決闘の内容は無論、斬り合い殴り合いなど血生臭いものではあらしません。勝負内容は……、可愛い対決です!」

「「可愛い対決!?」」

「どちらがより可愛、人々を虜にするキャラクターであるか。正式に勝負するのです! そして勝った方が、雷領の正式なメインマスコットとなるのでありんす!!」

「「そんな無茶な!!」」


 まあ、無茶であることはたしかだ。

 そんなの挑まれる側のドードーにとっては何も得るもののない勝負じゃないか。


「しかし……、面白そうだ」


 ついさっきも、フェニーチェの戦略に乗せられっぱなしで面白くないと思っていたところだ。

 ここで一つ、こっちの要素を投げ入れて祭りを掻き乱してみるとしようか。


「あいわかった。この挑戦、僕から先方にしかと伝えておく。我がシンマを代表する『やまくま』と、フェニーチェ・ドードーの可愛いもの勝負だ!!」

「もうユキムラッたら……」

「悪ノリして……」


 クロユリ姫とルクレシェアに呆れられながらも、まあ面白くなってきた予感がしてくる僕だった。

 仲良くするだけが交流にあらず。

 時には競い合ってこそ、よりお互いが理解できる。

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ソードマスターは聖剣よりも手製の魔剣を使いたい
同作者の新作スタート! こちらもよければお楽しみにください!
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