116 マジックワールド
「ようこそ魔法の国、マジックワールドへ!!」
開園セレモニーなるものを前にして、僕ことヤマダ=ユキムラは現地の領主特権でプレオープンとか何とかに招待してもらえた。
正式に営業開始する前に、関係者だけを入れて試験的な営業を行う者らしい。
主に招待されたのは領主である僕ユキムラと、その妻クロユリ姫にルクレシェアの計三名だった。
「へええええ……。ここがマジックワールドか」
正直、言葉で説明されただけではどんなところか想像もできなかったが、やっと実像を目の前にできて、その大きさ異世界感にただただ圧倒される。
「そこかしこにたくさん建っているのは、フェニーチェ風の建物に思えるが、何か違うな。……生活感が感じられないというか」
「実際あんなところに住んだら住みにくそうって感じがするわね。住処の快適さよりも、見た目の奇抜さを優先している感じ……!?」
初見の僕やクロユリ姫があれこれ感想を述べていると、一人ルクレシェアが訳知り顔で語る。
「ふふふふふふふ……! わかっていないなクロユリもユキムラ殿も、あれらは住居ではなくアトラクションというヤツだ。あの施設一つ一つに、人々の夢が詰まっているのだ!!」
「はあ……!?」
夢ねえ……!?
「百聞は一見に如かず! どれか一つでもアトラクションに乗ってみれば、その凄さがわかるはずだ! 我のおススメは、何と言ってもアクア・ウイタエ・マウンテンだな!! アクア・ウイタエ・マウンテンにはどこに行けば乗れる!?」
「ごめんネ、アクア・ウイタエ・マウンテンは現地の立地状況から建設できなかったヨ」
「えええぇぇぇーーーーーッッ!?」
またしても現れたフェニーチェ・ドードーの案内に、ルクレシェアは落胆かつ憤慨。
「そんな! アクア・ウイタエ・マウンテンがないマジックワールドなんて、ピクルスの乗ってないピザのようなものじゃないか!!」
「やはり本国のマジックワールドとは勝手が違うんだヨ。デモまかせて! 今スタッフが全力を挙げて取り組んでいるから、オープンには間に合わなかったけれど、いずれ必ずアクア・ウイタエ・マウンテンもシンマでお披露目できるヨ!」
自信たっぷりに請け負うフェニーチェ・ドードー。
結局またコイツの案内を受けることになるらしい。ヤツはこのマジックワールドのマスコット、というヤツらしいので当然といえば当然だが。
「前々から聞きたかったんだが……」
僕はフェニーチェ・ドードーなる鳥の着ぐるみに改めて聞いた。
「この施設の責任者は、アンタってことでいいんだよな? アンタがここの施設を統括し、運営や開発を率いている……?」
「ボクはフェニーチェ・ドードー!」
僕の質問を遮って、急に自己紹介をしだす着ぐるみ。
「フェニーチェ法国生まれの素敵なドードー鳥! 目標は、魔法神の守護鳥とされるフェニックスになるコト! 夢を叶えるために今日もマジックワールドで修行の毎日なのサ!」
「あの、だから責任者は……!?」
「だから」
ズイ、と鳥の着ぐるみから凄まれた。
「余計なことは考えないのが夢の国を楽しむ秘訣だヨ?」
「は、ハイ……!?」
説明不能な迫力に凄まれて、僕はそれ以上何も言えなかった。
「ユキムラ殿! ドードーの言う通りだぞ! ここは魔法の国なのだ! 現実を持ちこむことこそ野暮以外の何者でもないのだ!」
ルクレシェアにまで叱られた。
でも魔法の国というならフェニーチェ自体がそうなんじゃ……、と言うのも野暮なツッコミなのだろうか。
とにかく、今は黙ってマジックワールドの案内を受けることにしよう。
マジックワールドのアトラクションとかいうものは、たしかにルクレシェアなどが興奮するに足る凄まじいものだった。
それを今から僕は実体験することとなる。
* * *
まずアトラクションその一。
『空飛ぶフェニックス』
フェニーチェ法国を象徴する霊鳥フェニックスを模したアトラクションで、火の鳥を象った乗り物に乗り、それが火の魔術によって推進力を得て飛翔。短い間の空の旅を楽しむという仕掛けだった。
けっこう体験したことのない高さまで飛ぶので、乗ってる間は大興奮。
一緒に乗っているクロユリ姫は高いところが苦手だったのか、怖くて僕に抱きついて来て大変だった。
それに対抗心を燃やしてルクレシェアまで抱きついてくるのでなお大変だった。
* * *
アトラクションその二。
『ゴーレムバス』
錬金魔法で作られた半自立稼働のゴーレムが、パーク内の隅々まで客を乗せて移動してくれるという催し物。
ゴーレムは子どもに親しまれやすい可愛い意匠で、その肩に乗せてもらうと小さい子どもは大喜びということ。
何故かクロユリ姫も大喜びで、ルクレシェアも揃って肩に乗せてもらったら地上にいる僕から下着が見えそうになって怒られた。
* * *
アトラクションその三。
『ホーンテッド宮殿』
フェニーチェで過去実際にあったという陰惨な事件をヒントに作られた恐怖系アトラクション。
暗く不気味な宮殿の中を、趣味の悪い伯爵の亡霊から逃げつつ脱出しようというお話仕立ての遊戯だった。
追いかけてくる悪趣味な伯爵は、施設の人の扮装だとわかっていても本当に怖く、思わず雷剣で、その悪趣味な裸ネクタイ諸共吹き飛ばしてしまうところだった。
恐怖に駆られたクロユリ姫がまた抱きついてきて、それに対抗心を燃やしたルクレシェアが逆方向から抱きついてきて両手が塞がったゆえ結局吹き飛ばせなかったが。
僕はアトラクション中高確率で二人に抱きつかれてムニュムニュ感触を味わっているような気がする。
* * *
こうして、あらかたアトラクションを回り終えた頃には、シンマ出身のクロユリ姫もすっかりマジックワールドの虜となっていた。
「楽しい! これ楽しいわルクレシェア! アナタが推す理由もハッキリわかったわ!!」
「だろう! これこそまさにフェニーチェの叡智! エンターテイメントの極致!! シンマの人々は、フェニーチェの技術力に圧倒されることだろう!!」
今や揃ってマジックワールドのファンになってしまったクロユリ姫とルクレシェア。
これはまた明日から煩いことになりそうだ。
「どうだっタ? 領主様? マジックワールドは楽しんでくれタ?」
そして例のフェニーチェ・ドードーが、僕に擦り寄ってきた。
「マジックワールドは明日から正式オープンだヨ! シンマの人たちもこのマジックワールドでたくさん笑顔になれたらいいネ!!」