115 夢の国
「「きゃああああああああああああッッ!?」」
レーザの野郎が送ってきた手紙の内容を、僕が周囲に伝えた途端。ルクレシェアとジュディのフェニーチェ渡来組が狂気した。
「本当か!? 本当なのかユキムラ殿!? あのバカ兄、いつも余計なことしかしないと思ったら今回に限ってなんというクリティカルな心遣い! 兄上様、我はアナタを見直しました!」
「シンマキングダムに欠けていた最後のピースが揃ったデース! これでシンマは完全無欠のユートピア! もうミーはこの国に骨を埋めるのデース!!」
尋常ならざる喜びようだった。
「あの……、二人とも? そんなにマジックワールド? とやらができて嬉しいの?」
とクロユリ姫。
僕と同じシンマ勢として、いまいち状況に実感が伴わない彼女も非常に戸惑い気味だ。
「嬉しいなんてものじゃないぞクロユリ! これは革命だ! シンマに革命が起きるぞ!!」
「エンターテイメント革命デース!! シンマ列島に旋風が吹き荒れるネー!!」
フェニーチェ組の熱狂たるやちょっとドン引きしてしまうほどだ。
そんなに凄いものなのマジックワールドとやらは。
「ボクは、領主様に了承を頂くようレーザ様に派遣された……、フェニーチェ・ドードーだヨ!」
名前はもう知っている。
いちいち溜めを作るなムカつく。
「雷領に新たなマジックワールドを建設すれば、シンマのゲストさんたちにフェニーチェへの理解を深めていただいて、フェニーチェのことを好きになってくれると思うんダ! どうかな領主様? マジックワールド作ってイイ?」
作ってイイ? ってそんな。
「ネコ飼っていい?」みたいな軽いノリで。
「資金のことなら心配ないヨ! 建設、運営、その他もろもろの費用はすべてマジックワールドのビジネス管理を行うマジックワールドカンパニー略してMWCが出資することになってるんダ!」
「急に生々しい話に……!?」
「今回のプロジェクトはレーザ様が全面的にバックアップしてくださるから、現地の方々には一切負担を掛けないヨ! もちろん運営開始されてから上がる利益は適切な割合を現地に還元するつもりだヨ!」
…………。
僕は、フェニーチェからやってくる新たな交流者たちを出迎えるつもりで港にやって来た。
なのに何でこんな最初の挨拶でいかにも重要そうな決断を迫られてるの?
「ユキムラ殿! これは是非了承しよう! すぐ了承しよう!!」
「了承しなかったらユキムラさんは絶対後悔するデース! 少なくともミーが反乱起こすネー!」
脅迫じゃないか。
とにかくフェニーチェ組の押しはグイグイと来て、抗えそうになかった。
「……………………正式な返答は今この場じゃ出せないけど」
「「……ッ!?」」
「詳しい話を落ち着いた場所でしながら、前向きに検討してもいいかな?」
「「やったーッ!!」」
手を繋いで喜び合うルクレシェアとジュディ。
何がそこまで嬉しいのか。今の時点では僕にもよくまだわからなかった。
「受け入れてくれてアリガトウ! レーザ様が言ってたヨ、こちらの領主は賢明できっと正しい選択をするッテ!」
「まだ前向きな検討を約束しただけだからね?」
思惑の裏に何か隠されていないか、細かいところをツッコんで揺さぶりをかけることも大事だ。
「じゃあ、話をするためにも領主邸宅にお越しいただこうか。会談にもその着ぐるみ被るつもりなの?」
「中に人などいないヨッッ!!」
この鳥の着ぐるみにまで怒られた。
着ぐるみ連中は、何処か共通した拘りが示し合わせるまでもなくできてるものなんだろうか。
そういえば……。
こっちの着ぐるみさんは、先からやけに静かだが……。
「………………」
「…………………………」
我らが『やまくま』さんは、隣に並ぶカエン嬢ともども静かに黄昏ていた。
本来、フェニーチャから渡来してきた人々を愉快に出迎えて、その知名度をシンマの外まで広げようと目論んでいたところ、逆にフェニーチェ船から降りてきたフェニーチェ・ドードーのインパクトに圧倒されて、存在が霞んでしまった。
「………………くまー」
というだけが精一杯だった。
あまりに見ていられなくて一声かけようとも思ったが、問題のフェニーチェ・ドードーを応対しなければならないため僕も余計な動きは出来なかった。
クマを残したまま、鳥を連れて、僕はその場を去った。
* * *
そして結局、マジックワールドはシンマにて開業することが決まった。
領主たる僕にとっては寝耳に水の提案だったが、よくよく詳しい話を聞かされ、テーマパークとやらがもたらす有益性を認めることができれば僕に否やはなかった。
一応義兄であるレーザからの好意でもあるし、受けないわけにもいくまい。
あと、もし断りでもしようものならルクレシェアが本当に怖そうだから。
協議の結果、マジックワールドの建設には広大な敷地が必要ということで、かつてルクレシェアが建てた大城壁の内側では収まり切れず、外につい来ることになった。
とは言え発展途上の雷領にはまだまだ腐るほど土地の空きがある。城塞都市の隣に、そのテーマパークなるものをおっ建てたところで狭きに感じることはあるまい。
具体的な建設工程は、それこそフェニーチェの人たちが錬金魔法で超高速で仕立てやがった。
シンマの建築技術なら何ヶ月もかかるところ、魔法でスイスイ進めてしまう様は何度見ても圧倒される。
そしてヤツ……、フェニーチェ・ドードーがシンマの土を踏んでからピッタリ一ヶ月の時を置いて……。
フェニーチェより襲来、『シンマ・マジックワールド』ついに開園……!