114 不死鳥の国のドードー鳥
フェニーチェからやってきた船より、降りてきたのは鳥の着ぐるみだった。
何を言っているかわからないだろうが、起ったことをありのままに話すとそういうことになる。
「…………」
「…………」
僕らシンマの出迎え組と、その鳥の着ぐるみが見詰め合う。
鳥は、当然ながら着ぐるみなため本物の鳥類とは明らかに違い、ところどころの形が簡略化されて、むしろ可愛い印象を与える。
顔の部分に複数の布を張り合わせて形作られた目の形が大きくクリクリしている。体つきそのものは、やはり中に人が入っていることがすぐわかる。だって着ぐるみだもの。
「中に人など入っていないくま!!」
何故か後ろに陣取っている『やまくま』から怒られた。
で。
何だこの鳥?
この期に及んで新たな着ぐるみとか、何か大きな力でも動き始めているのか!?
「あーーーーーーーーーーッッ!?」
「フゥゥーーーーーーーーーーーーーーーッッ!?」
なんか背後からいきなり大声が出たので、ビクリとする僕。
振り返るとルクレシェア、ジュディのフェニーチェ勢が目をキラキラ輝かせているではないか!?
「「フェニーチェ・ドードーだーッ!?」デースッッ!?」
なんだ?
フェニーチェ女子二名の、鳥の着ぐるみへの果てしない親愛の情は!?
それを受けて鳥の着ぐるみの方も、何やら滑稽な仕草で応える。
「ソウダヨ、ボク、フェニーチェ・ドードーダヨ」
「「きゃあああああああああああああッッ!!」」
ルクレシェアとジュディの少女のごとき黄色い声を上げた。いやまだまだ二人とも充分少女だけれど。
僕はもう事態に置いてかれて、何を理解していいのかすらわからない。
「ハジメマシテ! アナタがここの領主様ダネ!?」
「え!? あ、ハイそうです!?」
いきなり鳥の着ぐるみに話しかけられて僕。
肯定の返事するので精一杯。
「レーザ様からお話は聞いているヨ! ボクはフェニーチェ・ドードー。フェニーチェ一番の人気ものサ!」
そしてまたおどけた姿勢をとる。
何だかもう僕は、何が何やらわからない。
「ユキムラ殿! フェニーチェ・ドードーは、フェニーチェ法国を代表するマスコット・キャラクターなのだ!!」
「ますこっと?」
ここでルクレシェアから解説が入る。僕にとっては救いの手のごときものだが、マスコット・キャラクターって何やねん?
「フェニーチェ法国で運営される巨大テーマパーク『フェニーチェ・マジックワールド』! フェニーチェ・ドードーは、そこのメインマスコットなのだ!」
「うん」
言ってることの半分以上が意味の分からない単語だった。
「『フェニーチェ・マジックワールド』は、年間入園者数百万人を誇る、国内一のエンターテイメント施設デース! もとい、もはや世界一と言っていいネーッ!!」
ジュディまで興奮しておられる。
いや、彼女が興奮しているのはいつものことか。
「ミーもマジックワールドの大ファンで、フェニーチェにいた頃は月二ペースで遊びに行ってたネー!! シンマキングダムに渡るうえで唯一の心残りがマジックワールド行けなくなることだったのに、フェニーチェ・ドードーの方からミーに会いに来てくれたデース!!」
そう言って着ぐるみに抱きつくジュディ。
よくわからない僕が言うのも何だけど、ああいうことをやっていいのは十歳以下の子どもまでではないだろうか?
特にジュディのようなたわわに実った巨乳のお持ちの方が押し付けてくると、中にいる方も大変なんじゃないかな? と心配になってくる。
「中の人などいないくま!!」
また怒られた。
ええい、話を進めよう。
「で、そのマジックワールドとやらのドードーさんが、何用があってここシンマに?」
「ウン! それはネ、レーザ様のこの手紙を読んでもらえばわかると思うヨ!!」
そう言って鳥は、立派な拵えの封書を僕の方に差し出してきた。
……何だか、この鳥の喋り方というかノリが、調子を狂わされる。
「では、早速拝見」
僕は他に方法もないので手紙を受け取り、封を開いて中の紙面を出す。
送り主は、たしかのあのレーザで間違いないようだった。
つい数ヶ月前までこの雷領にいた、フェニーチェ法国軍事司令官。フェニーチェ法王の実子にして、さらに僕の妻の一人であるルクレシェアの兄でもある。
実質的にフェニーチェを牛耳っているのは彼だと言っても過言ではなく、我らシンマ王国との交流事業を率先して推し進めているのもコイツだ。
まあその裏には色々逼迫した事情もあったりするのだが、コイツのやることなすこと悉く突拍子もなくてつき合わされる側の僕としては非常に疲れる。
ルクレシェアを娶って、ヤツとは義兄弟の関係になってしまったから益々面倒が避けられなくなったというか……。
今回はどんな面倒を我が雷領に送り込んできた?
そう思って書面に目を通す。
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――チャオ、我が義弟ユキムラよ。余の可愛いルクレシェアと共に元気にしているだろうか?
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書き出しからぶん殴りたくなるような文面だった。しかし肝心の当人がいなければ殴りようがなく、グッとこらえて読み進める。
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我がフェニーチェ法国と貴国シンマとの交流事業。つつがなく進んでいることだろうか。貴殿は有能だから、きっと大過なく進行中のことだろう。そこで義兄である余が、心ばかりの援助を今回の船に乗せておいた!
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それって新しい騒動のことだよね?
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我がフェニーチェ法国には、国を代表する一大テーマパーク『フェニーチェ・マジックワールド』なる施設が存在する。詳しいことがルクレシェアにでも聞くといい。アイツもマジックワールドは大好きだからな!
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ハイ、さっきも聞かれてないうちからまくしたてておりましたよ。
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マジックワールドは、フェニーチェが世界に誇れるものの一つであると自負している。このテーマパークが貴国シンマとの交流に一役買えぬかと、余は考えてみた。そこでだ!
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嫌な予感してきた。
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マジックワールドを、貴殿が治める雷領にも設立するのだ。
つまり『シンマ・マジックワールド』!!
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やっぱり!
何考えてるんだあのアホ義兄!?