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111 我が故郷はよいところ

 カエン嬢の話はまだ続く。


「サンゴさんは、領主の子どもさんであり、統治する側の人間でありんす。困窮する山領に何か思うところがあったようでありんすねえ」

「それは殊勝な……!」

「なんとかして山領を豊かにしたい。せめて貧しい状況を改善したい。ということでサンゴさんは方法を模索しておりました」

「山領の貧乏をどうにかする方法を?」

「あい」


 しかし十代の子どもが、早々いい手を考えつけるはずがない。


「と思いきや、サンゴさんは閃いたのでありんす。山領を救う起死回生の手を」

「え?」

「それは宣伝でありんす!」


 宣伝!?


「これまで朴訥で、主張ベタなカトウ家の人々。そのおかげで山領の特色、いいところは悉く他領へ知られませんでした。その状況を打開するのでありんす!」


 ちょっとカエンさん!?

 アナタこそ語り口に熱がこもってきてませんか!?


「『動かざること山の如し』で、それまでずっと黙して語らずだったカトウ家の人々。しかしそれはもう時代にそぐわぬでありんす! これからは言うべきことを言い! 理解してほしいことを理解してもらうために行動しないと取り残されてしまう!」

「あの……、カエンさん? カエンさん!」

「そう思ったサンゴさんは、自領の素晴らしさ、知られていないよいところを他領の方々に知ってもらうべく行動を起こしたのでありんす!」


 それを聞いてルクレシェアがポンと手を打った。


「ああ、つまりアピール活動ってことか」

「そう、それ!」


 ちゃんとわかってて言ってるんですかカエンさん?


「まあ、そういうところをサンゴさん相談されて、色々提案してあげたのが私なんでありんすけどね」

「だろうね」


 ここまでの説明、完全にキミ自身の言葉になってたし。


 カエン嬢は、隣の領に住む領主の子どもカトウ=サンゴと、その立場から懇意の関係にあった。

 そして自領の窮状に思うところのあるサンゴに、いろいろ相談に乗ってあげたというところであろう。

 そして宣伝という手段を提案した。


「無論、ただ宣伝するだけではお客さんは反応してくれません」

「ついにお客って言いだした……!」

「今日日宣伝も、ないかしら一捻りが欲しいんでありんす。ただ安直にここがいいです。これを買ってくださいと言っても素直に買ってくれる人など今どき皆無でありんす」


 より効果的な宣伝を行うには。

 より効果的に人の興味を引く、何かしら斬新な発想が必要なのだ、と。


「まさかそれは……!?」


 僕は視線を脇に向けた。

 そこでは相変わらず着ぐるみのクマが、激しい上下運動の踊りを踊っていた。


「そう、着ぐるみ! これを着て人々の前に立てば注目度は鰻登り! お子様は大興奮! 宣伝効果も倍増でありんす!」

「そんな理由で友だちにこんな格好させたんかい」

「方針と行動も決まって、あとはどこで宣伝するかという話になったでありんす」


 気にせず続けおって。


「山領のいいところを他領に知らしめなければいけないので、当然山領の内でやっても意味がないでありんす。山領のことを知らない山領の外、さらに人が多く行き交うところであればよりいいでありんす」

「言いたいことはわかるが……」

「通常ならば、もっとも条件に合うのはシンマ王都でありんしょう。シンマ王国の首都であることですし、多くの人々が王都に集まっては全国津々浦々に散っていくでありんす」


 たしかに、不特定多数に情報を知らせたいなら、シンマ王国に置いて王都ほど都合のいい場所はあるまい。


「しかし私は、ここであえて別の場所を提案させていただいたでありんす」

「うぃ?」

「それがここ雷領でありんす」

「そうか!」


 何だか知らないが、ルクレシェアのヤツが大袈裟に反応してきやがった。


「宣伝活動において、人が多く集まり絶えず入出流が起っている場所こそもっとも狙い目! これまでその条件をもっとも満たしているのが首都であるのは当然だが、ここ雷領にも可能性を見出したわけだな!」

「あい」


 そうか。

 人の入出流が多いということなら、領として出発したばかり、現在開発の真っ只中にある雷領もかなり優良な狙いどころだ。

 都市建築のための職人や、新たな環境で一旗立てようともくろむ者たちが国中から集まってくる。

 それにとどまらず、この雷領にはフェニーチェからの渡来者までやってくるので、人の循環する輪の大きさは、あるいは王都より大きいかもしれない。


「雷領が持つ可能性に賭けて、サンゴさんに紹介してもらったでありんす」

「なるほど」


 カエンの説明で大体すべてのことに辻褄があった。


 サンゴが何故故郷の山領を逐電したのか?

 何故雷領に現れたのか?

 何故クマの着ぐるみなど着ているのか?


 そして判明したもっとも大きなことは。


「全部キミの差し金だったんじゃねえか!」


 カエン嬢がサンゴに入れ知恵して家出させて着ぐるみ着させて、ここ雷領まで導いたってことか!

 この黒幕!

 これからは何か異変が起きたら全部カエンが裏で糸引いてたって考えるぞ。


「いいではないでありんすか。こうして大望抱く者がこぞって雷領を目指すのも、それだけ期待を持たれている証拠でありんす」

「ぐむ……!」

「そうして集まってきた人々が行動を起こし、実績を上げて、利益を生む。それが雷領発展に繋がり、シンマとフェニーチェの交流を確固たるものにする。私の提案は、それに関わるあらゆる人々の利益に繋がることでありんす」


 そう言われるとそうかもと思っちゃうが……。


「で、ここでユキムラさんに問わねばならぬでありんす」

「ん?」

「サンゴさんの宣伝活動。ユキムラさんは雷領主として認めてくれるでありんすか?」


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ソードマスターは聖剣よりも手製の魔剣を使いたい
同作者の新作スタート! こちらもよければお楽しみにください!
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