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110 枯れていく故郷のために

 四天王家の一、火領を治めるモウリ家の息女モウリ=カエン。


 女性ながらも家の代表として雷領に滞在している、いっぱしの女丈夫だ。

 四天王家の盟約に従ってフェニーチェとの交流反対を唱えながら、一方で異国交流の中心地となっている雷領に支店を出して荒稼ぎしている。


 後背常ならぬ態度をとっておきながら、それでいて両勢力から重要視されるという離れ業をやってのけるカエン嬢。

 彼女を前にすると、自然と金玉がキュッと引き締まってしまう。


「な、何用ですか……?」

「いえいえ。ついにサンゴさんがお縄に付いたと知らせを聞きましたんで、様子を見に参りんす」


 え?


「あ! カエンちゃんだくま! やっほーくまー!」

「サンゴさん、ついに領主様の目に留まりましたでありんすね。着実に成果が上がっていんす」


 ちょっと待ってちょっと待って?


「何その親しげな話しぶり? 二人は何? 以前から面識あるの?」


 僕の戸惑いぶりに、カエン嬢はその顔に隠しきれない愉悦を浮かべた。


「ええ、互いの領が隣同士でありんすので、古くからの幼馴染でありんす」

「うそッ!?」


 キミ前に聞いた時何も言わなかったじゃん!

 タチカゼとかも居合わせた時『カトウ=サンゴと面識のある人いるか』って問いかけた時、キミ何も言わなかったじゃん!?


「私は何も言いませんでした。『面識がない』とも言っておりません」


 この女!?

 だから彼女は油断ならないんだ!!


「まあ落ち着きなんし。別に意地悪やイタズラで隠しとったわけじゃあらしませんから」

「そうだろうよ! キミの場合もっと実利的で悪辣な企みが裏で息づいてるんだろうよ!!」

「信用ありませんなあ」


 すべてキミの日頃の行いの賜物だよ!!

 今回はこのクマを使って何を企んでるんだ!?


「まあ、サンゴさんは見ての通り、一直線に突っ走って会話が通じんところがありんすから、よければ私が代わりに説明いたしんす。そう思っての推参でありんす」

「えぇ……!?」


 たしかに。

 このクマはさっきから会話が通じなさそうな雰囲気をくまくま出していて、ついさっきも斬り合い寸前にまで行ったところだ。

 ここは司会進行をカエン嬢の手に委ねた方が、少なくとも会話は成立するんじゃないだろうか。

 もちろん会話を変な方向へ誘導される危険性もあるが。


 僕の周囲には、会話すら安心してできないヤツらばっかりだ!


「ユキムラ、ここはカエンさんにお任せした方がいいじゃなくて?」

「少なくともあのクマのペースに合わせていたら、日が暮れてもことが収まりそうにないぞ?」


 クロユリ姫やルクレシェアまで、彼女の肩をもって。

 一時期は、カエン嬢が雷領に持ち込んできた遊郭を彼女諸共蛇蝎のように毛嫌いしていた二人なのに。

 あるきっかけからすっかりと打ち解けるようになりやがった。

 本当にこのモウリ=カエン。油断ならない女だ。女かどうかもわからんし。


「そういうことですんでサンゴさん。この方たちとの話は私が通しておきますんで、アナタはそこで少し待っとくれなんし」

「わかったくま! じゃあここで踊りの練習をしているくま!!」


 何故踊る?

 こうして部屋の片隅でクマの着ぐるみが、けっこう激しいテンポで踊る非日常的な光景で、事の解説が始まった。


 四天王家のカトウ=サンゴは何故、故郷を出てきたのか?

 何故雷領に現れたのか?

 何故クマなのか?


 それがここでハッキリとするのか?


              *    *    *


「順序立てて話させていただくでありんすが……」


 カエン嬢が、長椅子に尻を預けてドッシリ腰を据えて話し始める。

 かなり話が長くなるということだった。


「……ユキムラさんたちは、山領の事情は詳しくご存じでありんすか?」

「事情? いいや……!」


 そもそも僕は、数ヶ月前まで王都在住の下級武士で、その日その日を精一杯生きていくだけが人生。

 とても自分の住んでる街の外へ意識が向くような暮らし向きではなかった。


「では、改めて言わせていただきます。サンゴさんが生を受けた山領ですが……。一言で言うと……」


 言うと?


「貧乏です」


 泣いた。


「財政の苦しさ、税収の低さにおいて山領はシンマ国内ダントツの一位です。ヘタしたら我がモウリ家が治める火領の一都市の収入にすら劣るかもしれません」

「待って! なんかちょっと待って!」


 僕の涙が一旦止まるまで話を停止して!


「それ、わたくしも聞いたことあるわ」


 クロユリ姫も話に乗っかる。


「山領にはこれと言った特色産業もなく、租税は十割、もう民からの年貢に頼っているのでありんす」

「かといって農業技術を発展させるわけでもなく、昔ながらの農法を何十年と守り続けて生産量は上がらない」

「しかし周囲の他領は、時と共に土地を開墾したり、農業技術を発展させたりして質量ともに進歩してきました」


 その中で山領はすべて昔と変わらないから、ますます取り残されて収入は減る。


「これも山領の方々の気質というべきなんしょうか? 『動かざること山の如し』がモットーといえど。そのおかげで新しい技術を導入したり、元からあるやり方を変えることまで拒んで今日まで来てしまったでありんすよ」


 いかにも山の連中らしい……。

 愚直で、変わることを極端に拒む頑迷さは、僕が前世で戦ってきた山州の連中そのものだった。


「無論、このままでいいわけはありません」

「そうね、最近山領の困窮ぶりはシンマ王家で問題視されるくらいで、このままだとカトウ家は領地没収されかねないと聞いているわ」


 そんなに深刻だったのか。


「そんな状況で、動かずにいるわけにはいかないと奮起した御方がおりんす」

「ん?」

「それこそが、そこにおられるカトウ=サンゴさんでありんす」


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ソードマスターは聖剣よりも手製の魔剣を使いたい
同作者の新作スタート! こちらもよければお楽しみにください!
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