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109 クマと『命剣』

 とりあえず即刻捕縛した。


「なんですくまーッ!? やめてくまーッ!? ボクは何も悪いことしてないくまーッ!?」

「うるさいとっとと縛に付け」


 本物のクマは前世で何回か焼き殺したことがあるが、着ぐるみのクマなんて捕えるのは初めての経験だ。

 とりあえず居合わせた配下の人たちと協力して縄でがんじがらめにしてから、領主邸宅へ引きずっていった。


「で」


 本日の猟果がこちらです。

 お縄にされたクマ一匹。


「いや、これは見事に……!」

「クマだな……!」


 領主邸宅で僕の帰りを待っていたクロユリ姫、ルクレシェアも、下手人の見事なまでのクマっぷりに度肝を抜く。


「どうやらコイツが、お探しのカトウ=サンゴさんで間違いないようです」

「違うくま!!」


 あくまでシラを切り通そうとする着ぐるみ。


「ボクは山領のいいところを皆にお伝えするためやって来た、愛と正義とくまの使者! その名も『やまくま』ですくま! カトウ=サンゴさんという人とは何の関係もないですくま!!」


 さっきからこの一点張りなのであった。

 何故か自分がカトウ家の庶子、サンゴであるということを頑なに認めようとしない。

 それでもさっき不意に呼んだ時たしかに反応したので、ご本人様であることは間違いないのだが。


「とにかくまずは、着ぐるみを脱がせて中身を出したらどうだ?」


 とルクレシェアの提案。

 なるほどたしかに、素顔を見せてもらわないことには何も話が進まない。


「よし、じゃあ外すか」


 まだ付いてきている配下さんたちと協力し、着ぐるみを脱がそうと歩み寄るが……。


「くまままままままーーーーーーーーーーーーーッッ!!」


 いきなり着ぐるみが暴れ出した!?


「くまーッ!? くまままままま! くまんくまんくまままままくまくまくまくまァァーーーーーッッ!!」


 なんだこの異様なまでに拒否っぷりは!?

 縄で縛られ(着ぐるみの上から)、手足も自由に動かせないというのに、体全体を揺らしてエビのように跳ねやがるクマのくせに。


「落ち着け! どんなに暴れても逃げられはしないぞ!」


 縄で拘束されてるから。


「そうだぞ! ここで狼藉を働いても立場が悪くなるだけだ! 速やかに素顔を晒し、偽りない本心を明かしてくれるならこちらも無碍な扱いはせぬ!!」


 ルクレシェアも説得するが、クマの心には届かない。


「くまーーッ!!」


 そうこうしているうちにより衝撃的な出来事が起きた。クマを拘束していた縄が、いきなりスパッと斬り裂かれたのだ。


「ええッ!?」


 バラバラに斬り刻まれて落ちる縄。

 それを斬り裂いたのは、クマの手に握られた一振りの『命剣』だった。


「『命剣』!?」

「しかもあれは……、『天下六剣』の一振り、山剣!?」


 通常、シンマ武士の命が無形の気となってから剣としての仮の形をとる『命剣』。

 しかしあのクマが着ぐるみ越しに握っているのは、かっちりと物質化した、磨き上げられた鉱石のごとき様相を持つ『命剣』。

 もちろん特別な『命剣』だ。

 シンマ武士が命を刃と練り上げる『命剣』。それを自然と交わすことでより上位の現象へと昇華させる『天下六剣』。


 あれはそのうちの一振り、山剣で間違いない。

 前世で見たから知ってる!


「山剣を出したってことは……、もはやカトウ家ゆかりの者であることは確定じゃないか……!」


 四天王家のうちで、風林火山の『山』を司るのはカトウ家だ。


「『やまくま』の中身を見るのは反則くま! 中に人などいないんくま!」


 何を言っているのかわからないが、あそこまで強烈に抵抗したのは着ぐるみを脱がされたくないからってことか?

『命剣』まで抜いて、どんだけ中身を見せたくないんだよ?


 だが、向こうが剣を抜いたということは、こっちだって剣を抜いても文句は言わせないということ。


「死んでも知らんぞ……!」


 僕もまた、利き手に意識を集中させる。

 天下無双の雷剣を、今抜き放つべき時か。


「お待ちなさい!」


 緊迫が臨界仕掛けたこの状況に、一人の女性の声が冷や水となって浴びせかけられた。

 それはクロユリ姫の声だ。


「わたくしはシンマ王ユキマスが五女にして雷領主ユキムラの妻、クロユリです」


 クロユリ姫がシンマの姫としての立場を前面に押し出すのは、それが必要な時だ。

 僕は即刻、雷剣の実体化を中止した。

 クマの方も、具現化していた山剣を即座に散らす。


「『天下六剣』はシンマの至宝。そのうちの二振りが、成り行き任せで無闇に斬り合うなど許しません。双方剣を引きなさい」

「御意」

「くま……!」


 クマの着ぐるみまで素直に従う。

 やはり王家の威光は強力だ。クマにまで効くんだから。


「クマさん。アナタはカトウ家の庶子カトウ=サンゴさんで間違いありませんね?」

「御意ですくま……!!」


 クマあっさり認めやがった。

 これでやっとカトウ家より要請のあった家出っ子の保護は完遂したのだった。


「しかし……、アナタは何故そのような格好をしているのです?」

「ごもっとも」


 何故サンゴは、故郷である山領から黙って逐電したのか?

 何故雷領に現れたのか?

 何故くまの着ぐるみなど被っているのか?


 疑問が多すぎて頭が破裂しそうだ。


「ここで会ったのも何かの縁です。事情を話してくださらない? もしかしたらわたくしたちにも協力できるかもしれません」


 クロユリ姫またそんな安請け合いして……!?


「それでは、もしよろしければ……」

「ん? 誰だ?」

「詳しい事情は私から話してもようござんしょうか?」


 いきなり治まりかけた状況へ一石投じるように現れた一人の女性。

 この期に及んで誰が出てきたのかと入口の方を見てみたら、それは一応見知った顔だった。


 四天王家の一、モウリ家の息女、モウリ=カエン。


 また彼女が何か一枚噛んでいるのか?


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ソードマスターは聖剣よりも手製の魔剣を使いたい
同作者の新作スタート! こちらもよければお楽しみにください!
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