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103 謀略閃華

「いや、一件落着じゃないです……!」


 あとからやって来たタチカゼ率いる雷領警備兵たちに事後処理を任せて、僕はレーザに詰め寄った。


「なんでよりにもよって一人残らず皆殺しにしているんだよ!? これじゃあ背後関係がまったくわからないじゃないか!?」


 マルヤマ遊郭にてレーザを襲った凶族は全部で十三名。

 無論、転がっている死体を数えてわかった。

 死体はいずれも尋常じゃない状況で、レーザの凍結魔法で全身霜塗れになっていて顔を判別することもできない。


 厚い霜を剥がすには死体を傷つけずには不可能そうだし、自然解凍を待っていたら腐ってしまうだろう。

 要は、死体の身元を判別することができないということだった。


「そうでなくとも全員殺したら尋問もできなくなってしまうし……。一人でも生き残っていれば、誰の指示で動いていたかとか色々わかったんだぞ。それを……!」


 フェニーチェの軍事を牛耳るレーザが、そんな初歩的なしくじりをするなんて信じられない。

 しかし実際に凶族を皆殺しにしたのはレーザによるもの。

 コイツは何を考えて……!?


「レディファーストというヤツだぞユキムラ」

「ああ?」


 突然の分けわからぬ単語に、温厚な僕もそろそろキレそうだ。


「フェニーチェにおける紳士の心得だ。男はまず女性を敬い、常に女性の望むところの先を行き、あらかじめ気配りを用意しておく。それができて初めてフェニーチェ紳士ということだ」

「……?」

「彼女が何故、ギリギリになって初めてお前に危機を知らせたと思う?」

「ッ!?」


 それはたしかに僕も疑問に思っていた。

 今回の危急。

 僕が大急ぎながらも動くことができたのは、カエンが僕に知らせを寄越してくれたからだ。

 まあ結局肝心なところには間に合わなかったけれど。


 しかし知らせてくれる気があるなら、なぜもっと早く知らせてくれなかったのか?

 もっと早く知らせてくれたら事前に一味を一網打尽にできたというのに。


「そこまで見抜いていたでありんすか」


 事件の処理で慌ただしくなっている現場でカエンが、それでも妖艶に佇んでいた。

 僕にはまだ彼女の全貌が掴めない。

 でもレーザにはもうすべてが見通せているというのか?


「ここではなんでありんすから、場所を移しんす。どうかついて来ておくんなんし」

「たとえ悪魔の居城であろうと喜んで」


 レーザが躊躇なく付いていくため、僕も追わないわけにはいかない。


「タチカゼ!」


 警備隊を率いるタチカゼに声をかけた。


「ちょっとここを離れる。あとは頼む!」

「承知した。……だが気を付けろよ」


 と顔を寄せていってくるタチカゼ。


「カエンはどこまで手札を隠しているかわからんヤツだ」


 コイツもコイツでカエンの古馴染らしいから、彼女に振り回された経験は僕以上に豊富なのだろう。

 見えない気苦労の重さを感じつつ、すっかり頼りになるこの男にまた面倒事を託して行くのだった。


              *    *    *


「まず結論から申し上げるでありんすが……」


 別室に通されて、カエンは落ち着き払って長椅子に座る。

 ついさっきまで繰り広げられていた修羅場の興奮も冷めやらぬだろうに、肝の据わった女性だ。


「……私は、裏で糸を引いている者を知っているでありんす」

「やはり……!!」


 そうでなければ、レーザ襲撃を前もって警告などできないだろう。実行犯の頭目の名まで知っていたんだからな。


「ついでに言うと、私をここへ送り込んできたのも同じ人物でありんす。遊郭を通して風紀を乱し、あわよくばユキムラさんも誑しこんで雷領自体を頓挫させようと」

「四天王家を反フェニーチェでまとめているのもソイツというわけか……!?」


 で、一体誰なんだ?

 フェニーチェとシンマの交流を邪魔しようとする攘夷派の頭目は?


「言えぬでありんす」

「おいッ!?」


 そんなこと言っている場合か!?

 こっちは危うく国賓たるレーザを亡き者にされるところだったんだぞ。


「だからユキムラよ。彼女の気持ちも察してやれ」


 と当然のように同席しているレーザだった。

 厚かましくもカエンの隣に座り、肩に手なんぞ回してやがる。


「どこのどいつが我々の構想にちょっかい出しているのか知らんが、ソイツの息にかかって彼女は雷領にやって来たのだ。露骨に裏切った素振りを見せれば彼女の立場は危うくなる」


 ……!?

 そうか……!?


「私はまだ、あの方に離反したことを悟られたくないのでありんす。ハンジロウどもが功を焦って暴挙に出て、それを阻止するために密告したとしても。あからさまにユキムラさんたちに先回りされたら密告者がいたことは明白になるでありんす」

「しかしギリギリ、現行犯で抑えたとなれば、情報がどこから漏れたかわかりにくくなる。単に日頃の警戒が功を奏したという可能性も出てくるからな」

「その通りでありんす。まさかレーザ様がそこまで察して私の筋書きに合わせてくださるなんて。いざとなれば私の火剣で、ユキムラさんが到着されるまで支えるつもりでありんしたのに……」

「レディを守ることこそ紳士の務めだ」


 得意満面に言うレーザ。


「アナタの美しい手に血を吸わせるわけにはいかん。この騒動でアナタがしようとしていたことは、すべて余が代わりにやってあげようと決めていたのですよ」

「それで、ハンジロウとその配下を皆殺しにしてくれたでありんすね? 私の代わりに、口封じを」


 口封じ。


「もしハンジロウとその配下が捕えられれば、事の子細をユキムラ様に吐き出したでありんしょう。裏で糸を引く黒幕の名も」

「それの何がいけない」


 そうだ。そこで最初の話に戻ってくる。

 カエンもまた、首謀者の名を尋ねられて「言えない」と答えた。


「ユキムラ様。今アナタが黒幕の正体を掴んでも、どうにもならんでありんす。アナタはまだあの方と戦う準備ができておらぬでありんす」

「!?」

「ならば、今太刀打ちできん相手の存在を知ったところで意味はないでありんす。むしろ危険でありんす。アナタが敵の存在を知り、対決姿勢を露わにすれば、向こうも全力でぬしさんを潰しに来るやもわからんでありんすから」


 そこまでマズい相手だと?

 たしかに現時点の少ない情報から察しても、シンマ王家に次ぐ権力者の四天王家をまとめ、シンマ王たるユキマス陛下の決断に反目するほどの人物だ。

 どんな怪物が闇に潜んでいるかわからない。


「ヘビと戦う準備ができるより前に藪を突くなと言いたいんだな?」

「察しがよくて助かるでありんす。私も今はまだ、あの方の尖兵ということで雷領に腰を落ち着けたいでありんす。遊郭をもって長期的にぬしさんを腐らせる。そんな迂遠な策の一部として」


 そのためにもハンジロウとかいう凶客の先走りは目障りだった。

 なるほど筋は通る。


「しかし肝心のところがハッキリしない。そこを明らかにしてくれない限り、僕はアナタの忠告には従えない」

「なんでありんしょう? 私に、何を明らかにせよとおっしゃるのでありんしょう?」

「アナタは結局どっちの味方なんだ?」


 シンマ、フェニーチェの交流をぶっ潰さんとする何者かの息がかかりながら。

 一方でレーザを凶刃から守ろうと裏で画策する。

 どちらの味方のようでもあり、どちらも裏切っている。


「大体アナタの目的は何なんだ?」


 そこがハッキリしないからこそ、彼女が現れてからずっと僕らは大混乱の右往左往している。

 しかしさすがに付き合いきれなくなってきた。


「今ここでハッキリ教えていただきたい。アナタが何を目論見この雷領に乗り込んできたか? アナタの目的は僕たちか、それとも反フェニーチェ側か、どちらにより近いのか。思わせぶりな態度は許しませんよ」

「もし答えなければ?」

「アナタじゃ話にならないってことで、話になる人物に直接お伺いに行くまでだ」


 責任者出てこいってね。

 カエン、アンタのここまでの気苦労をすべてブチ壊しにして。


「……」


 カエンは観念したとばかりに深いため息をついた。


「ようござんす。私のすべてをぬしさんにお見せいたしんしょう」

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ソードマスターは聖剣よりも手製の魔剣を使いたい
同作者の新作スタート! こちらもよければお楽しみにください!
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