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100 冥途の飛脚

「カエンから便りが?」


 彼女への対策をどうしようかと四苦八苦しながらも、いい案なんてまったく出ない今日この頃。

 そんな僕――、ヤマダ=ユキムラの陣営に対しまたしても、向こうから先手が打たれた。


「はい、そのレーザ様へ。日頃贔屓にしているお礼に、今日はこちらからもてなしたいと」

「直接の標的はレーザか」


 おずおずと僕に報告してい来る使用人。

 あくまでレーザへの私信という形だったので、僕に伝えるべきかどうか悩んだらしかった。


「それでレーザのヤツはどうしたんだ?」

「一目散にマルヤマ遊郭へ……!」


 アイツ……!

 どれだけ見境がないんだ!?

 どんなに言ってもフェニーチェに帰ろうとしないし、なんかもう若年にしてフェニーチェの軍事部門をまとめ上げた天才だなんて思えなくなってきた。


「あーもう、放っとけ放っとけ! あんなヤツ、カエンに骨までしゃぶり取られればいいんだ!」

「あの……、それが……!」


 使用人がますますおずおずしながら、まだ何か言おうとして来る。

 一体なんだ?


「それが……、ですね、実はカエン様からもう一通便りが……?」

「?」

「領主様宛てに……」


 僕宛て?


「カエン様からは、まずレーザ様に便りをお渡しして、その次に領主様にお渡しするように。けっしてレーザ様には気取られないようにと、妙な指示を受けまして……」


 つまりレーザは、僕にもカエンから手紙を届けられたことを知らない。知らされてないということか。

 一体何故そんなことを?


「…………」


 何だか猛烈に嫌な想像をしてしまった。

 カエンは、レーザばかりでなく僕にまで色目を使い、それこそ雷領の中枢に食い込もうとしているのか。

 そのためには僕とレーザに二股を掛けようというくらい、彼女なら平気でやりそうな気がする。


「えぇ……!?」


 だから僕は、使用人から渡された手紙を、なかなか開く気にはなれなかった。

 もし開いて、中身が歯の浮くような恋文だったらしたら、物凄い気疲れするだろうから。


「…………」


 いっそ読まずに捨ててしまおうかとすら思ったが、それでも僕は開いてしまった。

 もしかしたら、もっと重要な政治向きの話でもしてあるんじゃないか? という万が一の可能性を考えての。僕自身の貧乏性な性分だった。


『この雷領に曲者が入りこんでいるでありんす』

「!?」


 いきなり万が一の用心が功を奏した。


『その男の名はキリ=ハンジロウと申しんす。反フェニーチェの思想の下、四天王家を取りまとめる者の意を受けた手足でありんす。この雷領で、シンマとフェニーチェの交流事業を瓦解させようと、実質的行動を起こそうとしていんす』


 どういうことだ!?

 滅茶苦茶緊急の情報じゃないか!? カエンは何故こんなことを僕に知らせる!?


『実のところ、私が雷領に遊郭を建てたのは、反フェニーチェの意を汲んででありんす。モウリ家が先祖代々磨いてきた男誑しの技を使い、ユキムラ殿を籠絡して交流事業を頓挫させようと』

「やっぱりそんな意図があったのか……」


 僕はともかく、手紙の文面を急ぎ目で追う。

 もはやたらたら読んでいる余裕はない。


『しかし、出来上がった遊郭にユキムラ殿は思ったほどに通ってくだされず、逆にフェニーチェの重鎮たるレーザ様が足しげく通うようになり、ヤツは計画の変更を思いついたらしくありんす。彼は……』

「おい……!」


 その一文を読んで、僕はうなじに火花散る感覚に襲われた。

 とんでもないことが書かれてあった。


『レーザ様を亡き者とし、シンマ、フェニーチェの交流事業を崩壊させるつもりでありんす』

「まさか……!?」


 使用人の話では、僕にこの手紙を渡す前にレーザを呼び出したと言っていたな……!?


『ハンジロウは、私にレーザ様を呼び出させ、罠に嵌めて囲み斬りにする所存のよし。どうかユキムラ様、この手紙を読まれたらすぐにレーザ様を追ってくださいまし。そして出来れば、ハンジロウがレーザ様を襲う動かぬ現場を押さえ、彼をひっ捕らえてくださいまし』

「勝手なことを……!?」


 そんなことを望むなら、事前に僕に知らせてくれえればいいじゃないか!

 わざわざレーザを死地に呼び寄せてから陰謀を露見させることもないじゃないか!?


「何考えてやがるんだ! あの女!」


 僕は、今日の執務などすぐさま放り出して、領主居館から飛び出した。

 驚き恐れる使用人にしっかりと伝言して。


「僕はマルヤマ遊郭へ向かう! キミは、この手紙をそのままタチカゼに見せて、警備兵を率いて僕を追うように伝えろ! 場合によっては大捕物になるとな!!」


 レーザが遊郭へ出発してから、僕が危機を知るまでどれくらいの間が空いた。

 あの使用人、僕に知らせるのを相当躊躇していたようだからな。

 頼むから間に合ってくれよ……!!


 しかし、結論から言えばぼくが現場に到着するよりも前に……。

 すべては終結しているのであった。

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ソードマスターは聖剣よりも手製の魔剣を使いたい
同作者の新作スタート! こちらもよければお楽しみにください!
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