69/71
夏朝
すかんと晴れた空の下アスファルトの熱に茹だりながら足をすすめた。
冬用の靴下ウォーキング用の靴、膝が薄く擦り切れたジーンズ。
帽子をかぶってくるべきだったと眼鏡を曇らせる呼気にマスクをずらす。
じわとにじむ喉元の汗が不快だった。
蝉の声すらない。あまりの暑さに彼らも身動げないのだろうか。きっと茹だりながら動く私が異常なのだろう。
生物としての本能は涼やかな部屋でこもれと訴えている。だが、私は外を茹だりながら歩いていた。そうしなければ生活が苦しいのだ。
生きるために茹だりながら足を運んでいる。
生きるために命を削っている。
はぁと息を吐き、空を見上げるすかんと晴れた空に薄ぼけた白い雲。雨にも影にもならない雲。視界の端の揺れる向日葵、萎れ果てた紫陽花の名残り。
夏が通り過ぎてゆく。
強い夏の日差しが髪をぬくめていく。暑い。灼ける。
それでも茹だりながら歩いている。
人波からはずれることなく。
のびすぎた沈丁花の枝が揺れている。
蝉の死骸を踏みつぶした。




