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おちた
ゆるりと流れ落ちた黒髪は私の手のひらにその感覚を残し消えた。
触れたのは膝の痛みと空を切り自らの爪。
腹にかかる圧迫。
あたしは、あたしは。
「あの時、一緒にとびおりるべきだったんだわ」
「バカなことをお言いなさいますな」
柔らかく、それでいて解けることのない布があたしを縛っている。
あたしがあたしを傷つけないようにの配慮だというけれど、あたしは、きっとあの時にとんでしまった。
どうしてこの身だけ残したのか。
聞こえるのは世話役の声ばかり。
夢見るような闇の中であたしはお役目を果たせという祖母に頷いた。
だって、あたしはもう生きてないから。
あの子と一緒におちたから。
身を縛る布が消えてもあたしはもう逃げられない。
あたしはあの子に追いつけない。
小さなもみじを愛おしく思うのだ。
外れない目隠し。
世界は闇。
すり抜け落ちていった髪の色。




