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歌をきく
空の歌を聞いた。
風の歌を雲の歌を雨の歌を。
手を伸ばして届かない夢。
伸ばされない手をとることはできない。
その無力感は確かに世界を変える。
見える世界が変わるだけで何ひとつ変わらない世界だけどね。
暖かい柔らかい真綿の夢の中呼吸を忘れて夢に溺れる。
君の手をとったのはいつだった?
次第に曖昧の夢想の中。
君と軽口をたたきあう。
恋情なんかない。
家族のような友情のようなただひとつになりはしない愛はあった。
のぞみのものを腕に抱くことを諦めつつも未練に縋る。
人は、引き継ぐのだ。
血の連なりよりもなお深い魂の継承。
志し、在り方、理想の継承。
そこに、目の前にあるのならそれはそこにあるのだ。
互いに恋情などない。
あるのは共犯めいた友愛。
欲しくて仕方ないものはお互い手に入れられない。
さびしさは埋めれる。
孤独は寄り添える。
海の歌。
空の歌。
歌は響く。




