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夜話
深夜も深夜
全てが寝静まり
木々がそっとさざめく時間
ひとつの沼に雫が落ちる
それは昔昔遠い昔
木の根すら根こそぐ飢饉の頃
海から
流れてきた少女が
山に捧げられた
ひっそりと社に祀られた
山神の妻として
御神体はひとつの貝殻
貝殻が凶事を囁く
人はそれを聞いて
災いを避けゆくことを覚えた
山神妻神を慰めるのは海の歌
遠き地の昔語り
それはしきたりとして長く続く
貝殻が囁く凶事が現実にならぬよう
捧げられた娘の呪詛が消えるよう
人はただ続けた
我が子らのために
深夜も深夜
人の意識が目を醒ます
『身代わりちょうだい』
『海に帰して』
『寂しいのはキライ』
昔昔遠い昔
村人は供物を捧げ
凶事を聞いた
だれも詣らぬ神社
ある夜
高らかな雷が降る
囁かれた凶事が現実にならんと
高らかに鳴り響く
それは暗い暗い夜の話




