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002:異形


 水面には、ゆらゆらと、タマゴが映っている。


 全長は20センチほどだろう。鶏卵よりもかなり大きくはあるが、生物としては小ぶりだ。周りの草木が大きく見えたのは、自分が小さくなっていたからなのだろう。殻が上下にギザギザと割れており、その間は真っ暗闇で、どう中身を見ようとしても、見ることはできない。暗闇から2つ、金色の眼光が覘いている。これが僕の目にあたるのだろう。眼球そのものは見えず、眼光だけが光っている姿はなんとも不気味である。

 普通のタマゴとの違いはそれだけでなく、なんと、足が生えている。指も何もない、つんつるてんで真っ白な足が一対生えている。何かのマスコットキャラみたいだ。ド○えもんやアンパ○マンを彷彿とさせる。生物の足とはおよそ思えないその足は、どこから生えているのかと思えば、殻から直接にょきっとつきだしていた。継ぎ目のようなものは見えない。これでどうやって動くのだろうか、と不思議に思うが、現に動かせてしまっているのだ。理屈では無いのだろう。

 これが僕の足なのか? 動かしてみると、水面に映るタマゴも同じ動作を取る。

 間違いない。僕の足だ。

 歩けるのだから足がついているのは当たり前と言えば当たり前か。いや、そもそもタマゴって、まだ生まれてないよね? 足が生えているのはおかしいんじゃないか? 


 というか、転生って、人間に転生するんじゃなかったのか……


 いやいや! どうするんだよ! 今後の僕の生活、親頼みにするつもりだったんだけど!? 人間だと思ってたから油断してたけど!?

 服は!? これから裸で生活しろと!? いや、タマゴだから殻はあるけどそれにしても!!

 ご飯は!? 人間じゃないってことは、食材を買うことも出来ないってこと!? まさかの自給自足!?

 お家は!? せめて自分の部屋くらい用意されてると思ったら、野晒し!? 動物よろしく巣を用意すればいいわけ!?


 それより、こんな奇妙な体にされちゃって、どうするんだよ……

 こんな生物、こっちの常識では存在するのか? 友達、できるか? そもそもこんな格好で出来る友達に知性は期待できるのか? 言葉が話せたら人間と仲良くできるだろうか? ってなると、この先ずっと孤独になる可能性だって有るわけだ。不安極まりない。

 そもそも、自分が生物と呼べる存在なのかすら危うい。タマゴって生まれる前の姿だし、まだ僕は生まれてないのか? いや、僕の知ってるタマゴとはだいぶ様子が違うし、タマゴって訳じゃないのか? でも見た感じはまごう事なきタマゴだ。なんていうか、存在感がもう既にタマゴだ。

 急にタマゴにされて、僕にいったいどうしろって言うんだよ……


 ……悩んでても無駄だ。気持ちを切り替えていこう。タマゴじゃなかったら今頃死んでるんだ。ありがたいことじゃないか。

 目的のうちの一つ、自分の姿を確認するということはできた。

 ここにきたもう1つの目的は、水分補給。この体に水分が必要なのかは分からないが、のどが渇いているのは事実。僕が生物だとしたら、水分は必需なわけだし、仮に必要なかったとしても、飲んで害のあるものでもないだろう。だったら飲んでおくに超したことはない。生き残るためにも水を飲まなければ。

 あれ? そういえばこの体、口とか見当たらないけど、どうやって飲めばいいんだ? うーん、口をモゴモゴしてみると感覚はあるんだけどなあ……

 あ、舌が動かせる。伸ばしてみよう。


 ベロン、と、僕の体長ほどもある舌が殻の割れ目から飛び出した。


 ……舌、長。

 自分の舌が自分で見られた事なんて、これまで一度もなかった。人間だったころには。これはもう本格的に人間じゃないんだな……

 もうそのことはいい。さっき切り替えたはずじゃないか。悩んでもだめだ。時間も無駄になるし、気持ちが滅入ってしまってはこれから生きていけるか分からない。気持ちは強く持たなくては。

 長い舌にもきっとメリットがある。いつかその恩恵を受けることができるはずだ。

 あ、舌が伸ばせるってことは、水を飲めるってことだよ。飲もう飲もう。ほらね。さっそくメリットが見つかったよ。やったね。今のこの体では前屈みになるのも一苦労だ。最悪、水の中に落ちてしまいかねない。安全に水を飲めるというのは十分いいことだ。舌が長くてよかったぞ。よかったんだ。


 ぺちゃぺちゃと、犬のように舌を水につけては口に戻し、水を飲む。

 ……うーん、飲みづらい。けど、飲めないこともないな。

 水分はどうにかなった。これでまたしばらくは活動できそうだ。しかし、喉が潤ったら今度はお腹が空いてきた。何しろタマゴだしね。成長期なんだろう。問題は物を食べるときだけど、この方法で食事も出来るんだろうか...



 とにかく、食べられる果物とか、探してみよう。




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