016:敗走
他の作者様方が「戦闘シーンは難しい」とおっしゃる理由がよく分かりました……時間が掛かって済みません。
次回更新は、明後日の日曜日を予定しています。
睨み合いは続く。はぐれ狼は僕から少しも目を離そうとはしない。少しでも隙を見せれば、殺される。
落ち着け、僕。
相手は後ろ足を負傷している。右も左も。立っているだけでも痛むはずだし、ましてや攻撃するとなれば、その負担はかなりの物になるだろう。今、こうして見合っているうちに、相手はどんどん衰弱しているのだ。となれば、戦いが長引くほど僕に有利になるはず。僕が選ぶべきは、持久戦だ。
よし、そうとなれば相手から距離を取るのが良い。
僕は大きく後ろへ跳ね飛び、はぐれ狼からさらに間合いを切る。はぐれ狼は、なおも僕を睨め付けている。やはり追ってくるようなことはしない。
駄目だなあ。君からすれば、短期決戦で仕留めたい相手のはずだろう? いくら足が痛むと言っても、ここで無理してでも攻撃しておかなければ、苦しくなると思うよ?
まあ、はぐれ狼の気持ちも分からなくはない。彼にとっては、敵から離れたことで自分の居るところが安全圏となったように思えるわけだ。おおかた、さっきの噛みつき攻撃で僕が怯んで、撤退していくとでも思っているのだろう。
しかし、その読みは大きく外れることとなる。なんせ、僕は遠距離での攻撃手段を最近手に入れたのだ。投擲である。
この周辺の生き物たちはみんな揃って四足歩行だ。口から火でも噴かない限り、近距離での肉弾戦しか攻撃手段がない。そんな環境の中で育ってきたはぐれ狼だ。敵から距離があれば安全だ、と認識してしまうのも無理はないだろう。おかげで僕はこの戦いに勝機を見いだしている。
さらに敵から距離を取り、近くに落ちている手頃な石を構える。しまったなあ。槍だけじゃなくて、石も殻の中にしまっておけばよかった。僕の殻の中ってどれだけ物が入るんだろう。後で試さないとな。
そんなことを考えながら、はぐれ狼に石を投げつける。
《スキル【投石】を獲得しました。》
お、やった。でもなんで今更。さっき石を投げて試しているときにはスキルもらえなかったよな。何か対象が必要なのか?
はぐれ狼には、あまり大きなダメージは入っていない様子だ。しかし、塵も積もれば山となる。投石を続けるうちに効果が出てくるはずだ。続けて二個、三個と石を投げつける。
《スキル【投石】がLv.2に上昇しました。》
そうしているうちに、投げた石の一つがはぐれ狼の左目にヒットした。はぐれ狼は声を上げることはなかったが、かなり効いたようだ。片目がつぶれてもその眼光は未だに鋭く、今までより一層牙を剥く。
はぐれ狼が身を強ばらせたと思った瞬間、ついにはぐれ狼が攻勢に出た。
痛むはずの後ろ足を踏ん張って、飛びかかってきた!
まずい。
距離を取ったとは言っても、【投石】の届く範囲内の話であって、僕の数倍の体躯を持ったはぐれ狼が全力を以て跳べば、届かなくは無いのだ。
あの牙だけはまずい。噛みつかれて動きを封じられれば、一発でお陀仏だ。
目の前には大口を開けて飛び込んでくるはぐれ狼の巨体が迫っている。
僕は横っ飛びに地面を蹴って、これを逃れる。
すぐ後ろで「ガチリ」と音がして、その顎の力強さに肝が冷える。
《スキル【見切り】がLv.2に上昇しました。》
何とか躱せた!
僕はすかさずはぐれ狼の後ろまで回り込む。
刺さったままだった槍を掴み、はぐれ狼の体を足場にして引っこ抜いた。
反動でゴロンと転がってしまう。
よし、槍を取り返したぞ! これで優勢に戦える!
そう思いはぐれ狼を振り返ると、その屈強な前足が薙ぎ払われるところだった。
しまった――!
ゴッ、と鈍い音がした。
自分の体が宙に浮いているのがわかる。
体が何度も回転し、平衡感覚がつかめなくなる。
飛ばされるまま何かにぶつかったかと思うと、今度は地面に落っこちた衝撃を感じる。
痛ってぇ……この体になって、初めて攻撃らしい攻撃を受けた。
その痛みの鮮明さと、案外自分が冷静なことに驚く。
一歩間違えば死ぬんだ。そう自覚したことで、より冷静になれた。
はぐれ狼はどこに……相当飛ばされたな、僕のぶつかったこの木の根元まで、まだ距離はある。
だったら自分の状態を把握するのが先決。
【ステータス閲覧】。
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個体名:なし Lv.1/30
種 族:魔物のタマゴ+1
HP :48/91
MP :34/34
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これだけ派手に吹っ飛ばされたけど、HPはまだ半分と少し残ってる。いや、逆だ。一撃で半分削られたってことは、もう一撃でも受けたら命が危ないってこと。
僕のステータスは守備が最も高い。それでもこれだけダメージがあるのだ。やはり、レベルもランクも格上の相手ということか。
どうする、僕。
もう自分の実力は十分試した。当初の目的は達成できている。
でも、ここまで追い詰めた。後ろ足は両足とも深いダメージがあるようだし、片目も潰した。今なら武器もある。あと少しで倒せるような気がする。
じりじりと近寄ってくるはぐれ狼。
どうする、僕。
はぐれ狼の足取りは重い。今の一撃で精魂つきたということでは無いのか。
いや、勝利を確信して、既に僕を餌として見ているだけなのかもしれない。
どうする、僕。
その時。
「バウバウっ!」
群れのあった方から、はぐれ狼を呼ぶように吠えながらフォレストウルフが一匹走ってくる。
こいつ、はぐれ狼の隣に陣取ってたやつじゃないか。こいつも血だらけだ。新しいボスに反抗して群れを抜けてきたって言うのか!?
はぐれ狼は振り返り、駆け寄ってきた相方を受け入れる。
その相方ははぐれ狼の隣に寄り添うと、早速僕に向けて威嚇を始める。
はぐれ狼の傷付き具合をみて、相応に僕のことを警戒しているようだ。少しずつ、少しずつ、僕を二匹で囲うようにして間合いを詰めてくる。
勝てない。
一対一でもギリギリだったのに、二対一となってはもう手も足も出ないだろう。ましてや相手は集団で狩りをする狼。万に一つも勝ち目はない。
このままでは――殺される。
僕は急いで槍を殻の中にしまう。
長物が僕の体の中に消えていくのを見て、二匹のフォレストウルフは多少なりとも面食らったようだった。時間を稼げた。儲けものだ。
地上を走ってはすぐに追いつかれる。
そう思った僕は一目散に木に登る。
はぐれ狼たちは走り出すが、木の根元にたどり着く頃には、フォレストウルフでは届かないような高さまで登ることが出来ていた。木登り、試しておいてよかった。
枝から枝へ長い舌を使って乗り移り、狼から逃げる。
はぐれ狼たちは深追いするつもりは無い様子で、早いうちから諦めてお互いの傷をなめあっていた。命の危機は去ったのだ。
そのことを確認しながらも、それから暫くは木の上から降りられなかった。
初めての格上への挑戦は、失敗に終わるのだった。
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個体名:なし Lv.1/30
種 族:魔物のタマゴ+1
HP :48/91
MP :34/34
攻 撃:74
守 備:156
魔 力:34
精 神:39
速 さ:48
ランク:F-
スキル:
【ステータス閲覧 Lv.5】【体当たり Lv.6】【踏みつけ Lv.5】【集中 Lv.4】【回し蹴り Lv.4】【殴打 Lv.2】【気配遮断 Lv.1】【不意打ち Lv.1】【見切り Lv.2】【投石 Lv.2】
呪文:
アビリティ:
【進化の可能性 Lv.-】【超成長 Lv.-】【食材の見分け Lv.4】【消音 Lv.3】【槍術 Lv.1】
耐性:
【打撃耐性 Lv.5】【毒耐性 Lv.4】【水耐性 Lv.4】
称号:
【異世界人】【採集家】【釣り師】
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