9.待ち受けるのは絶望
狼退治から夜。腕が痛すぎて食べられないほどに。
その傷はあまりにも深かったもので…。
「おい、真眼」
「んー…」
真眼は、先程の狼のせいで出来た傷口のあまりの痛さにぐったりしてしまっている。このまま腕を動かせば激痛が腕全体に走りそうだ。
「食えよ早く」
「無茶言わないで…」
「食べさせてやろうか?」
「ヤダー!!」
それだけは断固拒否。
残りのご馳走を食べたい所だが、生憎利き腕である右腕をやられてしまい、余計食べられない。もう、動かしたくない。
「うぅ…食べたい…」
「強ちゃんは流石に無理あるから、私が食べさせますよ!」
「そんな…いいんですか」
真眼は内心嬉しさがあった。こんな可愛い子に食べさせてもらえるなんて、と。
「お前…俺と梓を差別すんなや」
「流石にそこは差別しますよ!」
「男も女も変わらねぇだろうがよ」
「変わるって!」
全力で強に訴える。真眼でも異性には意識してしまう年頃になったのだから。年頃と言ってももう18歳だが。
「はい、あーん」
「あー…」
何が口に含まれたのかわからないまま噛むと、
「甘!?」
「チョコクッキーです」
「お…おぅ」
夜飯だと言うのになぜ初っ端からデザートを食べさせてきたのか。この子は本当に謎だらけだ。
「あ…梓さん......食べさせてもらってるのにこんなこと言うのもなんなのですがね、デザートは食後の後かと」
「そうなんです?私結構最初に食べる事が多いんですよ~」
(変わりすぎだわ!!こんな甘いの食った後肉とか食べるのか、不味いだろ!?)
真眼の心の叫びだ。口に出して言えないが。
「じゃあ、どれ食べます??」
「あっ…えっと、その餃子で…」
~~~~~~~~~~
「いててて…」
「お前…」
全てを完食し、皿などを片付け終わってからのこと。
「その腕でこれから働きますとか…ふざけてんのか」
「いや…好きでなったわけでも......」
「もう少しで学校もあんのによ、馬鹿なの?」
「詳しいこと教えてくれなかった強さんも…」
「働かないうちは給料もくそもねぇかんな」
「だから…」
…人の話を聞け。
「もう…」
呆れた真眼は腕が痛くならない程度に、机に突っ伏した。
「強さん…僕たちも悪いよ。真眼ちゃんには基本的な戦術すら教えずに、ぶっつけ本番でいきなり大物に出会してさ…傷を負うのも無理ないって」
「そうか…もう知ってるもんだと思ってたわ」
「え」
それを聞いて驚く颯太。指導者としてどうなんだと思ってしまう。
「すまんな真眼。でももう手遅れだな。明日病院行くぞ」
「嘘!?いいですよ、こんな傷で病院なんて。お金の無駄ですって」
「いやいや、縫わないと、それ」
「はっ!!!??」
縫う=手術か。そこまで深かったのだ、真眼の傷は。
病院は今日行った方がいいのだが。
「いいですって、マジで。自分の素晴らしいキャンパスライフが待ってますし」
「知らん」
「そんな…」
急に絶望した。今にも泣いてもいいくらいに。いっそのことぐずりたい。
明日が恐怖に思えてきた。真眼は注射ですら恐怖を感じるのに、縫うとなれば倍の恐さが襲ってくる。
今喋れば声が震えそうだ。
「実は今日すぐに行った方がいいんだけどね、言い出せなかったよ」
「そう…っすか......」
颯太にさえも反応が薄くなる。
じわりじわりと涙が目から出てくる。
「真眼ちゃん…」
勝手に出てくる涙を袖で拭う。こんなんで泣いてる自分が馬鹿らしく思えてきた。
「すいません......」
真眼はそそくさと自室へ向かって走った。今は痛みなど感じる暇すらなかった。
~~~~~~~~~~
次の日。病院行く日。
真眼はギリギリまで目を覚まさない。起こされるまで起きなかった。
(行きたくねぇ…死にたい.....)
根暗な事しか出てこない。
コンコン。ドアをノックする音。
さあ、地獄の始まりだ。
「真眼ちゃーん…?」
「............」
「あ…」
困り果てる颯太。颯太の優しすぎる性格では、真眼を外に追い出すことすら出来ないだろう。
そう思い、颯太は最終兵器である強を呼び出す。真眼の天敵であろう強を呼べば無理矢理にでも外へ這いずり出す事が出来るはず。
それは案の定の事で、真眼が嫌々言っても出す事が出来た。
それから、病院で手続きをし、訪問当日に手術は出来ないので、手術日程を聞くと、真眼の大学の入学式の当日だった…。
「今日もいいお天気で」
「真眼ちゃん…なんかごめん」
「見て…小鳥が飛んでますよ」
「本っ当にごめん…」
「あっ、納豆が浮いてる」
「マジでごめん…!!」
真眼の肩に手をポンと置いて謝る。颯太が悪いわけではないが。
納豆の幻覚が見えてしまうほどのショックを颯太が受けさせてしまったと思い、申し訳なさで一杯だった。
ぐうたらし過ぎな回ですね、申し訳ない。
なかなか進められずにいる次第でございます…。飛ばしすぎると変だから…