8.緊急時の対処
主を探して見付けたのはいいが、予想外の出来事が起こる。
こういうとき、人間はどう対処するのでしょうか。逃げ場はありません。
「誰かー?主さーん!!」
出来る限りの声を出す。
「いたら返事を!」
応答がない。もう既に殺られてしまったのか?…そんな事を考えては駄目だ。真眼はもう一度叫ぶ。
(何で返事しないの!?)
今この状況から早く解放したいがために、急かしてしまう。
「あっ…」
真眼は何かを見付けたのか、思わず声を漏らしてしまった。
それは、階段だった。なぜこの家の中に入る時に気付かなかったんだろうかと真眼は思った。
二階に居るんだろうと思い、階段を上がる。
「誰か居ますかー?」
「こっち!!!」
ようやく人の声が。真眼は急いで声のする方へ向かう。
「もう一度声出してください!」
「ここっ!」
主の居る場所が特定出来た。廊下の奥に一つだけ他の扉とは仕様が異なる扉が。そこに主は居るだろう。
「ここですね?」
真眼は扉をノックした。主は「そうです、ここです」と安心感が伝わる声で言った。
「開けますよー…」
真眼が扉を開けると、すぐに主が出てきた。40代前半だろう女性。
「主人はどうなりました?」
「今台所で対処してると思わ…」
「ガルルルルルルッッ」
「ひっ!?」
「キャアアアァァァァッ!!!」
狼が二階へ上ってきたのだ。真眼は驚きのあまり、体が動かない。こういう緊急時の対処法など教えてもらってない。なにより、こういう大きいものに対する対処法すら教えてもらっていない。こんなものに塩をぶっかけたところで弱まる事などないだろうし、今真眼が持ってる小さいナイフで太刀打ち出来るかと言ったら出来るわけない。
強や颯太はどうしたのか。まさかこの狼に殺られたのか?だとすればもう、真眼には先がなくなる。しかし、あの二人がそう簡単に殺られるとも思えない。…かと言っても、二人も人間だ。殺られる時は一瞬か。
そう考えてるうちに、こっちに近付いてくる狼。主を庇うように守りの態勢に入っているが、何をすればいいのかわからない。
「ちょっと、早く狼何とかしなさいよ…」
「あ…」
…何とかって、どうすればいい?
八つ当たりでこのナイフで戦ってみるか。もう、それしか思い浮かばない。主の為にも、命を張ってまででもやらなければいけない。
最初に誓ったはずだ、命を落としても保証はしないと。命を落としても、文句は言えない。
強と颯太が来るのを願って、狼に襲いかかる。
「うわああぁぁぁっ」
真眼は二本のナイフを両手に持ち、死を覚悟して狼に刺そうと両手を上にあげてから下に降りかざす。狼に殺られる前に刺すことができた。
(通った!!)
通ったのはいいが、この後どうすればいいのか。
ナイフを抜いて、再度刺そうとすると、
「うわっ!?」
狼に凪ぎ払われた。真眼は背中を壁に強く打ち付けた。頭でなくてよかったと思う。
ここでくたばってたら死んでしまうと思い、立ち上がると、狼はものすごい勢いでこっちへ走ってくる。
(終わったな…)
この一瞬の間でどうこうできる力は、残念ながら習得していない。
それでも、終ったと思っても、主を守れるなら何だってやってやる。その為の自分らなんだろうかと、真眼は思う。
真眼はナイフを構える。倒せないとわかっていても、今はこの依頼を達成しなければならないのだから。
「死ねっ…!!」
狼との距離、1mもない。真眼は、両腕を振り回す。
「あああああぁぁっ!!」
もう目の前が何も見えていない。とにかく振り回す。
「グアァァァァッ…!」
やったのか!?と思い前を見てみると、そこには強と颯太の姿が。
「二人とも…!!」
「真眼!?お前大丈夫か!?」
強が駆け付けてくる。
「強さん!まだ狼生きてます!」
「このっ…!しぶといやつめ…」
真眼をひとまず置いといて、狼にとどめを。
「元に戻ってくれよ狼さんよ…!」
何か不思議なオーラを纏った剣を手に持ち、それを狼に刺す。
狼は黒いオーラを漂わせながら、だんだん小さくなっていく。黒いオーラは剣に吸い込まれていき、剣は黒くなっていく。
やがて、狼は人の姿へと戻った。
「倒した…」
呆気に取られてた真眼は、何かが抜けたように床へ座り込む。
「あなた…」
奥から主がこちらへ走ってきた。
「あなた…あなた…!しゅ…主人は大丈夫なんですか!?」
「…大丈夫ですよ」
颯太がそう答える。
「よかった…はっ!?」
主が何かを思い出したかのように声を発した。
「蓮は!?蓮はどこ!?」
蓮?と首をかしげる真眼。
「あっ」
真眼は立ち上がった。
「蓮って、息子さんですか…?」
「そうです」
「あっ…」
強は察した。この家の中に入ってくる時に見た、あの子だと。
「あの子は…その、大変言いにくいのですが…玄関で倒れてて......」
「はい!?倒れて…って事はもう…」
「お察しの通りです…」
衝撃的な事実を告げられ、主は泣き崩れた。そのまま床に座り、ひたすら泣く。
とてつもない罪悪感を感じさせられる。もっと早くここへ来てたら…。
「この家の修理代は私どもが出します…」
「うぅっ…そう…なのね......」
泣きすぎてまともな返答ができない。
「千代…?」
主の夫が目を覚ました。
「あなたっ!!」
主は夫に抱き付く。大泣きだ。
「いっ…」
真眼は妙な痛みが腕を走る。見てみると、二本の傷痕が。狼の爪痕だろう。
「あ…」
「その傷…私がやってしまいましたか…?」
「え、あっ、これは…。だ、大丈夫ですよ!」
「でも…」
この傷を見られてしまってはどうしようもない。
「弁償を…」
「いやいやいや、本当に大丈夫ですから!!」
このくらいの傷どうってことないと伝えたかったが、結構深い。
「それより、蓮くんをどうにかしないと」
「そうよ、蓮を…!」
「蓮何かあったのか…?」
主人が聞くと、颯太が全てを説明した。主人は大きく目を見開き、その目からは涙が。
主人は悔しそうに歯を食い縛る。自分のせいで蓮が死んでしまったと。
「千代…ごめんな」
今この空間には、二人の泣き声以外には何も聞こえなかった。
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「それでは、家の修理やその他の事は手配しておきましたので。蓮君についてはその…お悔やみ申し上げます。それでは…」
強が一礼すると、それに続いて真眼と颯太も一礼。罪悪感を残したまま、この場を去っていく。
こんなにも辛いものだとは、正直真眼は思っていなかった。こんなことが度々起こるのだと思うと、精神が持たなそうだ。
「真眼、腕大丈夫か」
「あっ…」
「真眼ちゃん、主人さんに大丈夫って弁解してたけど、かなり酷いよね?その傷」
「あ…」
今も腕から血が滴り落ちてくる。
「無理すんのは止めろよな。バイ菌入って腐るわ」
「はい…」
強は、ショルダーバックからタオルを取り出し、キツく真眼の腕を縛り付ける。
「帰ったら痛ーい、痛ーい処置の始まりだわ」
「ちょっ…」
この場を和まそうともしてくれたのか、強は持ち前の軽さで真眼を楽にしてあげた。
最後まで読んでいただいた方ありがとうございます。
面白味があればいいのですが…^^;