4.捜索届け
いろんな仕事をするようです
「お前いつから大学の入学式だよ?」
「4月1日ですよ」
「もう少しじゃねぇか、勉強しなくていいのか。置いてかれんぞ」
「失礼な…」
いつものように強は真眼をからかうように話す。
真眼はぶっちゃけ苛立たしいが、相手に合わせておかないと何が起こるかわからなくて恐ろしい。下手すればクビになりそうだ。
そんなことより、真眼は昨日言われた「お祝い」を楽しみにしていた。たかが透視能力がどうした、等と思っていたが、こういうイベント事をしてくれるなら話は別だ。
「あの、お祝いっていつですか」
「うーん…入学式にするか」
「遅っ……せめて間を取るとかしてもらえないんすか…」
「んなもん梓の都合によるだろうがよ。後で聞いとく」
「強さんの“後で”って永遠に来ないような気がするんです」
ごもっともだった。短い付き合いだが、頼み事をすれば、後でやるからと理由を付けてそのままやらず、周りに迷惑を掛けて。大事な書類でさえ忘れてしまう。
「うるせー、うるせー。他人の事なんてどうでもいいんだよ」
「本っ当に都合の悪いことは聞かないですね~」
呆れながら溜め息を一つ。
「溜め息ついたら幸せ逃げちゃうよ」
「颯太さん~、颯太さんいないと落ち着きませんよ~」
「おいそれどういう意味だよ」
真眼は強にピースサインを送る。
「真眼ちゃんのお祝いは3月28日にしようと思う。あずちゃんもその日は予定が空いてたみたいだから」
あずちゃんとは梓の事。喫茶店の看板娘。
真眼は日程が決まって一層喜ぶ。友達と言うものが少なかった真眼は、こういう他人からの祝い事はされたことがなかった。あったとしても、誕生日プレゼントを貰ったくらい。
「お前仕事早いな」
「強さんがやらなさすぎなだけですよ」
「そうっすよ、強さんがやらなさすぎなんですよ!」
颯太の言ったことに便乗して真眼は言った。案の定真眼は強に嫌がらせをさせられる。
「真眼のアホっ」
強は自分の机の引き出しから、おもちゃのわりにはリアルすぎる蜘蛛のおもちゃを取りだし、真眼に投げた。……なんて子供っぽい事を。
「キモッ、クモじゃないですかっ、馬鹿!!」
「年上に馬鹿とはなんだ、ブス」
「か弱い女の子にブスとはなんですか、ゴリラ!」
この、下らない言い争いが永遠に続きそうだったので、颯太が止めに入る。
「二人とも大人になろう?」
言い争ってから数時間後、真眼は気分転換にと外へ出てみた。今気付いたことに、花壇がある。花壇にはたくさんの種類の花が植えられている。真眼にはどれが何なのかはわからないが。
真眼はふと思う。花はいい香りだって言う人がいるが、真眼には花の匂いなど臭いものでしかないのだ。嗅覚と言うものも人それぞれか。
春なだけあって、それとなく暖かい…気がしたい。真眼がいるのは北海道なので、3月でも雪が残ってる所は少なくない。まだジャンパーは厚くてもいいくらいだ。
真眼はその場で深呼吸すると、喫茶店から、チリンチリーンと扉の開く音。これから何かとお世話になりそうな、梓だった。
「あ、新入りちゃんですね!私、梓って言うんですよ~。お名前は?」
「自分は、真眼…です」
「真眼ちゃん!宜しくお願いしますね!」
「こちらこそ」
梓の流れに吸い込まれそうなくらい、何か惹き付けるものが梓にはありそう。ブリッコキャラとか、そういうものだと失礼ながら思ってしまっていたが、全然そんなことなかった。勝手な偏見をしてはいけない。
「私から真眼ちゃんにお祝いの品を用意するので、楽しみにしてくださいな」
可愛い笑顔を見せて、真眼から去って行った。
それから真眼は、改めて花を見渡す。たくさんの種類の花を見てて、真眼は飽きないような気がした。
花に見とれていると、花の隙間からこの時期では有り得ない虫が出てきた。それは青虫なのだが、久しぶりに見たせいもあって気持ち悪い。
「なんで今……」
どうにかして避けたかったが、直で触っていいものなのだろうか。真眼は、毒を持たなければ虫に触れるのだ。気持ち悪いとは思ってしまうが。
とにかく、花を食べてしまうのではないかと心配になったので、退ける事にした。いざ触ってみると、感触が意外にも柔らかくてびっくりな真眼。しかし、青虫を持った瞬間に、突然足掻き始めたのだ。真眼は、嫌がったのかと思い、急いで地へ返してあげた。…こんな人通りのある所へ返してしまっては、潰されるではないか。真眼は、踏まれる事を想定してなかったのだ。
「よ~し」
気分転換になったし、虫も触ってしまったので、中に戻ることにした。
「ただいまで………」
「おぉ、びっくりした」
真眼が扉を開けると、そこには強の姿があった。一歩間違えれば、扉が強に当たって真眼は怒られるところだったかもしれない。
「おい、真眼。俺たちに捜索願いがきたんだよ。行くぞ」
「そ…捜索?警察行きではないんですか」
「大事にしたくないらしいから」
「えぇっ」
だからと言ってここに頼むのか、と思う暇もなく強は真眼の腕を引いて外へ出る。
「一昨日だったかな、ここら辺に出掛けたっきり帰って来なくなったみたいだぞ」
「そうなんすか…」
だからここに頼んだのもあるのか、と真眼は思う。
どちらにせよ、警察に届け出てほしかった。
「颯太さんは?」
「留守番」
「留守番……」
「俺じゃ不満かよ?」
「どこかでぶち切れられそうで…」
「は?」
恐ろしい顔を真眼に向けて睨んできた。
「すいません…」
「お前の透視能力は今回いらねぇかもな、変化した姿なんて届けを出した奴は知らねぇだろうし」
「じゃあ自分いらなくないですか」
「お前は慣れるためにいるんだよ」
「でも捜索って…」
「いいんだよ!」
やはり強にはとても逆らえない。黙って捜索するしかないようだ。
昨日投稿できなかった!