3.特殊能力
真眼が目にしたものとは。
「颯太さん、強さんっ」
真眼はとりあえず二人に報告しようとする。
「あれが、今戦おうとしている人ですか…」
「うん、あのおじさんがそうだね」
「おじさん…?」
真眼の目にはおじさんなど写っていなかった。真眼が見えているのもは、
「あれは…どうみても鬼じゃないですか…?」
鬼が見えていた。鬼だからおじさんでもいいかと言う解釈でもしたのだろうかと、真眼は一瞬思ったが、そんなわけないだろう、と考えるのを止めた。
真眼はとうとう平常心を保っていられず、大量の冷や汗と共に震えが。
「鬼ですよ、鬼。颯太さんたちはなぜそんなに普通でいられるんですか…慣れですかっ。慣れって…」
「何言ってるの真眼ちゃん」
不思議そうに尋ねてくる。真眼はなぜわからないのだと、苛立ってきた。今目の前にいるのが鬼だって言うのに。これではいくら強い強や颯太だって倒せないだろうと真眼は思う。
そもそも、この仕事は何をするのか自体わからなかった。戦うわけではないのか、鬼に対して戦わなければ後は何がある。やはり、戦うしかないのか。
「真眼ちゃん、詳しい事情は後にするから、今は強さんの戦いを見て覚えて」
「………はい」
真眼は、颯太に肩にぽんと軽く手を置き、なんとか落ち着かせてくれた。
真眼は黙々と強の姿を見る。人間でもあんな軽快なステップができるのだと感心。
鬼が強に殴り掛かろうとする瞬間、強はそれを悟ってナイフを手に持ち、素早く鬼の手を切り裂く。鬼からは大量の血が飛び出てくる。更に強は鬼に隙を見せず、裂いた後、両太股にナイフで削ぎ、終わりに心臓付近を刺す。返り血が強に飛び散ったが、強は気にせず袖で拭いた。
真眼にはあっという間の出来事だった。テンポがよくて、とても大変そうには見えないほど。
「よし、今回は弱かったな。あのおっちゃん日頃ぐうたらして怠けてたんだろうな。いろいろ抜けてたぜ」
ぐうたらも何も、鬼の日頃の生活がわかるのか。と真眼は突っ込みたかったが、二人には鬼ではなくおじさんに見えているのだから、言っても無駄だ。
「ちょっと強さん、ちゃんと成仏させてあげて」
「あっ」
強は急いで鬼の元へ。
鬼の側に立て膝で立つと、ポケットから何か白いものを手に取る。ビニール袋から取り出したのは白い粉。その粉を自分の額に付けた後、鬼に蒔いた。蒔いた後、両手を合わせて一礼。一通り終わったのか、再度こちらへ戻ってくる。
「あれを忘れるとか最低ですよ」
「わりぃな、何か忘れてた」
「一段落着いたところだし、戻ろうか」
颯太の合図で皆は戻る。
真眼はモヤモヤしかなかった。
「はぁ~、血ぃ付いちまったぁ~。風呂入ってくるわ」
「いってらっしゃい」
強に声を掛けた後、颯太は真眼に言った。
「さっき、鬼が見えるって言ってたよね。詳しく聞きたいな」
「あぁ、本当に見えたんですよ、鬼。けど二人ともおじさんにしか見えてないようだったので、こちらとしては通じなくてイライラしてました!」
「あ、ごめんね。…さっきのおじさんはさ、まだ変化する前の姿だったと思うんだけど、真眼ちゃんには鬼に見えてたんだよね。ってことは、真眼ちゃんはもしかすると…透視能力があると思うんだよ、この業界においての。一般の能力と違うから、箱の中身が丸見えってわけでもないよ」
急に透視能力があると言われても困る真眼。自分は人間ではないのかと思ってしまう。
「限られた特殊能力を持つ人間は世界中探しても3~4人程度なんだよね。真眼ちゃんの見た景色も透視能力の一つの事例と似てるから…もしかしたら、と言うか、絶対真眼ちゃんは透視能力あると思うんだ」
「き…奇跡すぎません?」
「奇跡…うん、奇跡かな。ただ単に自分の能力を知らないで、別の仕事に就いてる人だっているから、もしかしたらもうちょっと確率も上がるとは思うんだけど…けど滅多に見ない能力なんだ。透視能力なんて、数億万年前の古代神以来なんていう伝説があるくらい珍しいもので」
「ちょっ、そんな能力自分にないと思いますよ!?」
現実的に有り得なさすぎる話だ。流石にこんなこと信じられるわけがない…のだが、現に鬼を見てしまっては信じるしかないのか。
確かに人間には能力と言うものが存在している。絶対音感なんてよく聞くだろう。
真眼の生まれ持った才能が今開花したのか。
「真眼ちゃんの脳内分析とか行ってみたい次第だけど、そんなこと出来ないからあれだけど、絶対透視能力持ってる、僕が保証する。もし、持ってるとして、全世界のこの仕事をしてる人から見れば、羨ましがって真眼ちゃんを貰いに来るかもね。かなりの大金と交換で」
自分は金で取引されるのかよ、と突っ込みたかったが、そこは抑えて。
衝撃的事実を告げられ、鬼以上に驚いているかもしれない。あっけらかんとして、言葉が出ない。
「大丈夫かな?…そんなわけだから、今後の活躍を期待してるよ。相手側はこちらに変化してないって思われてて、余裕で町を出歩いてる事が多いからさ、真眼ちゃんのその能力で見破って成仏させないとね」
「自分活躍できますか!」
「できる、できる」
真眼は何か、物凄く嬉しい。今後人の為に活躍できる事が、何より嬉しい。
「うぃーっす」
「強さん、ビッグニュース!」
「んあ?」
「なんと、真眼ちゃんは透視能力を持っています!!」
「えっ!!!??」
その知らせに強はかなり驚いている様子。
「おまっ…それ、あれじゃねぇか。あの、あれだ、うんと……」
動揺しすぎて口が回らない。
「そうっ、金!こいつ売れば金が入るじゃねぇか!!」
「ちょっと、真眼ちゃんをそんなんで使わないでよ」
なんて最低なゲス男なんだと、真眼は心から思う。仲間である人を売ろうなんざ、普通の心優しい人なら思わないだろうに。
「これはいい事聞いたな。梓に頼んでお祝いだな」
「そうだね、奇跡の子だ。頼んでみようか」
「梓…?」
「うん、隣の喫茶店の看板娘とも言える可愛らしい女の子だよ。たまにここにお菓子を作って持ってきてくれるんだ」
そう言えば隣に喫茶店があったなぁと真眼は思った。
何にせよ、自分の為に祝ってくれるなら断る理由などない。喜んで祝わせていただくことに。
「真眼、お前は逸材だ。死ぬなよ」
「死にませんよ、タフなもので」
不適な笑みを浮かべながら言う。
真眼は、これから先に起こる出来事が楽しみに思えてきたのだった。
ほとんど先を考えずやると、新たな設定が生まれますな。
次回もよろしくです。