2.始まり
いよいよ新生活スタート。
真眼に待ち受けるものはなんだろうか。
「真眼~?」
母は真眼を呼ぶ。
しかし、真眼は応答なし。
呆れた母は、真眼の寝ている寝室へ向かう。ドアを閉めているわけでもないのに、どうして聞こえないのか。いつもならすぐに起き上がるはずなのに。
「真眼!」
少し怒り口調で呼んだ。
すると真眼は、ゆっくり起き上がる。
「何時だと思ってんの!?1時過ぎたよ!」
「えっ」
かなり爆睡していたよう。いくら春休みと言えど、寝過ぎた。昨日夜更かししたわけでもないのに、なぜだろうか。
「ご飯も冷めちゃったし、早くしなさい。今日も行くんでしょ?バイト先に」
「忘れてた」
急いで着替えて、下へ駆け走り、飯を食べる。髪の毛がボサボサだが、手でとかしていざ外へ。
昨日までは溶けていた雪がまた積もり、見渡す限り真っ白だ。
「ふぅ~」
急ぎ足で向かっていたため、少し疲れた。寒くて手がかじかんでしまう。
入り口へ向かうと、少し暖かみが感じられた。この空間はなんと呼べばいいのだろうか、普通に玄関と読んでいいのか。入り口まで壁で覆われている。
入り口の前へ立つと、すぐさまインターホンを鳴らす。
中から出てきたのは、昨日とは違う男の人。昨日の人と比べると、かなり優しそうな容姿をしている。爽やかイケメンか。
「えっと~、いかつい顔をした男の人は…」
「あっ、強さんの事かな」
「ごう?」
聞いたことない名前だ。そもそも、昨日名前を教えてもらってないと思われる。聞いたこともないのも当たり前だ。
「ちょっと待ってね、読んでくるから」
「はい」
どこまでもイケメンでいられるなんて凄いと感心する真眼。
「あっ、そこのソファで座ってて。外寒いでしょ」
「ありがとうございます!」
この人は絶対モテるだろうと、真眼は思った。
座らせてもらうこと数分、昨日のいかつい、強という人が二階から降りてきた。
「おう、真眼。入る決意をしてきたんだな?」
「決意も何も、最初から入ると決めてたんで」
「あそう。あ、そうだ。ここに入ると決めた理由聞かせろ」
「理由…ですか」
金儲け、だなんて口が裂けても言えないだろう。ましてや、人との接客を慣れさせるためだとか、自立するために~…なんて言っていたが、そのようなものは何一つありもしなく。そう考えると、何も出てこない。
「えっと…」
深く考えること、30秒ほど、何か閃く。
「あのですね~、人を助ける事がしたいのでここに来ました。将来の夢も人を助けることを主とした職業なので」
我ながら良いことを言ったと感心。
「なるほど、まあ、いいか。これからもよろしくな」
「はい、よろしくお願いします。あの、ここに貸部屋があると聞いたのですが」
「ん、あぁ、あるぞ。月2万で貸してる」
「月2万ですか、ここの給料が平均5万~10万なんですよね、食事代とかも含むと…」
「あ、食事代とかそこら辺は要らねーぞ」
「なに!?」
聞き捨てならない言葉が入ってきた。
「なんたって俺金持ちだから?そこら辺は免除してあげるっていう大サービス~♪」
強は悪魔の笑みを浮かべながら言った。
これは甘えさせていただくしかないと思い、目を輝かせながら礼を言う。
「ありがとうございます、強さん凄い神様ですね!」
「だろだろ、もっと慕えよ」
煽る真眼に調子に乗る強。すると後ろから、
「調子に乗らないでよ強さん」
先程の爽やかイケメンが言う。
「なぁに、俺はコイツにもお前にもまかしてやってんだ、文句ねーだろ?」
「だからって調子乗りすぎですよ」
「乗らねぇ奴だな、まぁいいや。真眼、お前の部屋を案内してやる、颯太よろしく」
「あ、僕?いいけど。一緒についてきて、真眼ちゃん」
「はいっ」
そういって真眼はついていく。
「名前颯太って言うんですか?」
「そうだよー、如月颯太。強さんは神無月強って言うんだよ」
「そうなんですね、ありがとうございます。強さん名乗ってくれないものだから、わかりませんでした」
真眼は苦笑い。
「強さん、いつも名乗ったつもりで会話してるからね~。困ったものだよ」
階段を登りきってすぐの所に、大きい扉が。
「あっ、ここはリビングだよ。ここでご飯を食べる。この廊下を左に曲がれば、扉が三つあるんだよ。とりあえず行ってみようか」
少し長めの廊下を歩いて行くと、確かに扉が三つ。
「この中の一番左の部屋が真眼ちゃんの部屋かな」
「覚えておきます」
「入ってみる?家具はもう揃ってあるんだけど」
「嘘!?マジで言ってるんですか」
「うん」
どんだけ設備が整っているんだと、誰もが驚くだろう。
「強さんがね、お金に困ることなく、貧相な人でも入ってもらえるようにって願いを込めて、全ての部屋を色んなジャンルの家具で飾っていろいろしてくれてるんだよ。家具用意することもなく、引っ越し代を払うことなくしてあげようって。…でも、全然人が来ないんだよね」
「すごい…金持ちって本当に色んなことできますね」
どこからそんなお金が入ってくるのかが知りたいところだが、そんなことを聞く立場ではない気がしたのでやめておく。
それから、今度から真眼の部屋となる部屋を覗いてみると、とても可愛らしい内装だった。雰囲気は水色で、薄く葉っぱの柄がいい感じに描かれていたり、ベッドはふかふかで、ミニテーブルまで用意されている。クッションもいくつかあったりと、完璧だ。
「すごい、こんな可愛い部屋、自分が使っていいのでしょうか!」
「いいんだよ、強も喜んでると思うし」
「ツンデレだったりするんでしょうか」
「すると思うなぁ」
「強さん、お部屋最高でした」
「あっそう?よかったじゃねーか」
「あの、自分お母さんにまだここに住むこと言ってないので、明日からここにお世話になりますね。それでは」
次の日、強と颯太は真眼について語っていた。
「あいつよ、今後やっていけると思うか?」
「いけるでしょう、あの子運が良さそう」
「え」
「ほら、ああいうそそっかしいような子って危機の時に何かを発揮できそうな」
「うん、わからん」
「そうですか…」
颯太の意見は音もなく地に落ちた。
ピンポーン
二人とも真眼だろうと察知する。
「よう、真眼」
「うおっ、びっくりした…。おはようございます、強さん」
扉を開きながら名前を呼んだ強に、なぜかびっくりした真眼。
「あっ、颯太さんおはようございます」
「おはよう」
相変わらずのイケメンスマイルだ。
「お前ここを辞める予定あるか?」
「ここですか、ここは見事医者になることが出来たら辞めようかと思ってます」
「そうか、医者か…頼もしい夢持ってるな」
「そうですよね、自分でも思いきりましたし」
どこか寂しそうな表情を浮かべた強。そんな強には気付かず真眼は受け答えした。
「お前になれるかどうかはわからんけどな」
「承知の上です…」
医者なんてものは気軽になれるものではないので、今の真眼では無理がありそう。学力も大事だが、人間性なども問われそう。
「助けてっ!」
急に外から女の人の声が。
「助けを求めてるみたいだな、俺らの出番かもしれねーな。野郎共ついてこい」
真眼にとって初の仕事かもしれない。助けを求めたのがこちらに言ってるのであれば。
外を出ると助けを求めたであろう女性が地べたに座っていた。よく見れば傷付いているではないか。
「颯太、あの人をこっち側に連れてこい」
「了解」
「真眼、ひとまずここで待機。俺らを見て学習しろ」
「は、はいっ」
言われるがままに立ち尽くす。
急すぎて、緊張し始めた。怪我を負ってしまうほどの何か危険な事が今起こっているのか。
しかし、今危険物を持っている者などいない………、
「!?」
真眼は有り得ないものを目にする。衝撃的すぎて、言葉が出てこないほどに。
テンポよく話を進めていきたい所存です