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近所のカフェが、わたしのお気に入りである。よくそこで「しんぷる教」の会合を行っていた。わたしをしたってついてくる輩が実は二人いた。わたしのことを「おやびん」と呼ぶアホ(アホという名前である。発音的には、阿蘇に似ている)と、武士みたいな奴である(ただし、武士みたいだからといってもかっこいいものではなく、ハゲ散らかした落武者のような風貌であり、ことあるごとに切腹切腹と鼻息を荒くする変人である)。
わたしには大変な人望があるのだろう。この二人はだいたい呼べばわたしの元に集合する。今日もしんぷる教を拡大すべくこの二人を呼んで、会合を始めた。
「おい、アホ。落武者はどうしたんだ」
わたしは、アホに落武者の状況を聞いた。
「はい、おやびん。彼は来る途中の道路で傷ついた子猫を見つけたらしく、動物病院に持っていくから今日の会合は遅刻するでやんす」
真剣な表情でアホはわたしに報告した。
「待て待て待て。落武者はそんな子猫好きだったのか。意外な奴め。しかし、いい傾向だ。しんぷる教としてはそういう部分から裾のを広げてしんぷる教を知ってもらう必要がある。ときには汗をかく必要もあるからな」
わたしは、教祖として立派なことを言ってしまったと悦に浸った。アホは、わたしの言葉など全く気がず、目の前にあったストローを包装していた紙に水滴を垂らして遊んでいた。
「馳せ参じました!」
このフレーズはわたしは幾度となく聞いてきた。そして、多分次はあの言葉である。
「遅れて誠に申し訳ない。もはや、切腹をすることでしか許されないと拙者は判断した。教祖よ。大変申し訳ないが、この短刀でわたしは腹を切ってはくれまいか」
落武者はわたしが食べていたパンケーキを切るためのナイフを指差して命令してきた。待て待て切腹とは、自分で切るものではないのか。
「はいはい。みんな集まってのでこの辺りで今日の会合を始めるとしますよ。ほら、落武者。とっとと座りなさい」
わたしは、手を叩いて場を納めて会合のスタートをした。わたしには、人望はある。しかし、イマイチ有能な人材よりも個性的な人間を引きつけてしまうらしい。こればっかりは才能というべきなのだろうか。わたしは、喜ぶべきなのか悲しむべきなのかいまだに判断ができていなかったのであった。