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僕は気がつくと寝ていた。
渡された映画のDVDは確かに見た覚えがある。ウイルスか何かで世界が破滅に向かいつつあって、二人の兄弟が廃墟と化した町で世界を救う鍵を探すサバイバルホラーな映画だった。この映画が、彼女の言っていた話とつながってくるのかはよくわからなかった。そして、あまりにも単調な話であり、しかもゾンビやらなにやらは出てこなくて、主人公の兄弟二人がひたすら廃墟と化したニューヨークのような街を徘徊しては缶詰を探すのが主な内容だった。缶詰を見つけては喜び、また缶詰を見つけては喜ぶのだ。ホラーな雰囲気なのになんだか笑ってしまうシュールな内容だった。
そのシュールさも相まってから僕は眠りについてしまったのだ。あくびを一つしてから僕は腕時計に目をやった。驚いたことに時間は、5分と進んでいなかった。僕は、そちらの方にびっくりして座っていた椅子から転げ落ちた。
やはり、この世界は映画を観る前の世界と違うのだろうか。僕は慌ててブースを飛び出した。ここは図書館だ。新聞くらいはあるはずだと、名探偵ばりの推察を見せた。しかしスマホで日付を確認すればいいのに、気が動転して新聞で日付を確認するという古風な映画な方法しか頭に思いつかなかった。
「日付は……あってる。ということは、やはり時間だけがあの空間は動いていなかったということか」
僕は持っていた新聞を地面に落とした。手の力が抜けて、地面に新聞がバサッと落ちた。
「ねぇ君」
僕に図書館で働くおばさんが話しかけてきた。
「顔色が悪いよ。もう家に帰ったほうがいい」
僕は、自分の顔色の悪さなんてよくわからなかった。ゆっくりと図書館のトイレに行き、鏡を見て確認すると確かに顔が真っ青になっていた。このトイレが夢の国だったら鏡なんて付いていないわけだから、ここはきっと現実世界なのだろうと僕は悟った。
僕は、図書館のおばさんに「ありがとうございました」とお礼を言って図書館を出た。おばさんは「お大事に」とゆっくりとした口調で言った。
僕は、大学を出る際に守衛さんのいる場所の横を通って大学を出ようとした。すると一匹のデブ猫が僕に話しかけてきた。
「おやおや。やっときたかい」
僕は、青ざめた顔をデブ猫の方に向けた。
「顔色が悪いけど大丈夫かい。君はようやくこちら側に来たんだ。少しくらいは自覚があっただろう。でも、最後のトリガーがなかなか引けなかったからこちらにこれなかったのさ。でも大丈夫。かわいいかわいい猫好きの女の子が手伝ってくれたよ」
ああ、そうか。この猫の差し金だったわけだ。
「君はこれから、色々なモノの声が聞こえるようになるはずだ。それは、僕らみたいな動物だったり、もしかしたら石ころや電化製品の声が聞こえるかもしれないね。考えるだけで楽しくなってきただろう」
もはや、僕は目を細くしてこのデブ猫を見るしかなかった。
「それでは、私はもうそろそろご飯の時間なのでね。失礼するよ」
このデブ猫との会話ははたから見ると、見つめ合っているだけにしか見えていないと思う。しかし、僕には猫が表情豊かにしゃべっているように見えるのだ。どういう理屈なのだろうか。簿記のように貸借一致の原則でもあるのだろうか。
僕は、肩を落としながら自宅に向かって歩き始めた。