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僕は、うだつの上がらない大学生活を振り返った。
ある時は、食堂で一人飯。
ある時は、売店で買ったパンを一人で便所の中でかじる。
こんな大学生活を送っていた僕の目の前に舞い降りた天使か悪魔かわからない目の前の女性は僕にお願いをしてきた。いい予感も悪い予感もしてきた。
「朝話した場所あるじゃない。多目的視聴覚室的講堂教室」
「そんなありもしないような場所あったね」
「そこに行って欲しいの」
「どうやって」
「難しいことはないわ。図書館の映像視聴室である一本の映画を見て、視聴室から出て来れば多分大学内に現れるはずだから。別にね、世界としては今と変わらないの。あなたが今勉強している簿記検定も普通に開催されるし、合格しても未来永劫あなたの取得級として認定されるわ。でも、ちょっとだけ前にいた世界とは異なるの」
彼女は神妙な面持ちで僕に話していた。僕はその顔すらも美しいと思った。
「それを見ることによって、僕にデメリットはあるのかい?」
僕は、紳士的な対応をしてみせた。
「あるといえばあるし、ないといえばない」
「なるほど」
「私はね、世の中もっとシンプルであればいいと思ってるの。ほら、具体的な例をあげると携帯電話の料金プラン。あれって馬鹿らしいじゃない。良くアメリカのフルーツみたいな名前の会社が出す携帯とか良く狙い撃ちにされてるじゃない。携帯会社の色々な思惑が詰まってて、大抵の人は高額な料金を契約させられる。ただ、一部の人は安くできる料金プランをしってるからそれを選ぶようにする。でも、その安くする方法も徹底的に調べた結果安くできる。そういう人からすると調べないあなたが悪いとか情弱って言いたいかもしれないけど、そもそも調べなければならないってことがおかしいじゃない。苦労の慣れっていうのかしらね。あまり良くないことよ」
「なるほど」
「あなたの目的は、自然と見つかるはずだから。私を信じて欲しい」
「なるほ……」
僕は、目の前で長い髪をかきあげて耳にかける女性に完全に心を掌握されてしまった。可愛すぎる。そしてなにより色っぽかった。
僕は彼女のお願いを快諾して、図書館の映像視聴室に向かった。映像視聴室は個別のブースになっていて、DVDプレイヤーと小さなテレビ(ブラウン管)、ヘットフォンがある。
僕は、パイプ椅子に腰をかけて彼女からもらったDVDをプレイヤーに挿入して再生ボタンを押した。再生ボタンは単なる再生ボタンであったが、彼女を救う新たなストーリーが始まると思ったのだった。