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「あの、多目的視聴覚室的講堂教室ってどこにありますか?」

 僕は、生まれて初めて大学構内で女の子に話しかけられた。自ら積極的に話しかけに行くのは、教務課のおばさんか、倫理学の女性講師だけだ。しかし、冷静になったら瞬間僕はそんな名前の教室を知らないことに気がついた。なんたその教室。聞いたことがない。

「多目的視覚的講堂教室ってありましたっけ」

 僕は噛まないで言えた自分を褒めたかった。目の前の麗しい女子大生などほっといて、僕は今すぐにでもコーラを飲んで一人祝勝会を自宅で開きたかった。

「んー。騙されたのかなぁ。このチラシに書いてあるんですよ」

 僕は、女子大生が差し出したチラシに目を通した。確かに、そのチラシには多目的視聴覚室的講堂教室の文字があった。確かにこの大学内にあるらしい。しかし、僕はそれ以外の部分に目がいった。

「もしかして、簿記とかやるんですか」

驚きである。僕はいよいよ二言目も出た。自分はこんな人間だったのだと驚いた。お母さんは「人は自分を映す鏡だよ」と良く言っていたがこのことなのだろうか。人から積極的に話しかけれらるということは、もしやこの女子大生。僕に一目惚れを……

「簿記?あぁ、このチラシ簿記研究会のサークルのチラシなんですね。気づきませんでした。あ、ごめんなさいともだちとのやくそくがあるので……」

 僕はどうやら美人局にやられかけたらしい。何奴だ。僕を狙う秘密結社でもあるのだろうか。僕は驚きを隠せなかった。しかし、これは逆にチャンスと見るべきなのかもしれない。ぼっちを解消できるチャンスだ。僕の大学生活に光がさしてきた気がしたのだった。


 謎の人物の罠にひっかかりそうになってから、半日後。

 僕は、図書館にいた。勉強をするためである。この大学の図書館の好きなところは、窓から緑がとてもよく見え日差しがたっぷり入ってくるという点だ。雨の日は、暗めではあるが、今日みたいな快晴の日は居心地がとても良いのだ。

「あ、朝会った人」

 なんと、僕にあの美人局がまたしても話しかけてきた。僕は驚きのあまり持っていたペンを後ろに放りなげてしまった。不幸なことに、後ろで勉強していたメガネの青年の頭に綺麗に突き刺さった。彼は、頭から血を吹き出しながらもペンを抜き取り、僕に返してくれた。僕は、低い声で「あ、ありがとうございます」とお礼をいった。僕は、体を元の姿勢に戻してちらっと後ろを見たが、メガネの青年の頭からは血など出た形跡はなかった。

「こんにちは」

 僕は、動揺しながらも彼女に声をかけた。

「朝は、ごめんなさい。私も騙す気はなかったの」

 彼女は、申し訳なさそうにいった。

「私、あなたがいつもこの図書館で勉強しているのを知っていたわ。だから声をかけたの。電卓を毎日毎日叩いてる君にね」

 僕は、まさかこんなに見られているとは気づきもしなかった。最初は、なんだこいつと思っていたが、素直に謝ってきたところで、よく顔をみるととってもかわいらしいことに僕は気づいてしまった。神様この野郎。

「ねぇ聞いてる?」

 彼女は僕の肩を叩いて僕の意識を戻した。僕は、彼女の顔をずっと見ていた。

「君に、一つだけお願いがあるんだけど」






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